第23話 近衛騎士団

文字数 2,348文字

貴族を捜査対象とする近衛騎士団の本部は当然貴族エリアにある
本来であれば貴族とその使用人しか入れない場所ではあるが、ルーザスは貴族なので、その門をくぐることができた
本部の受付から先日の近衛騎士を呼び出すと、すぐに現れた
本部の外に連れ出して、話を始める
近衛騎士「何の用だ?」
ルーザス「用ならそっちがあるんじゃないのかな」
近衛騎士「なにっ?」
ルーザスは紙切れを出して見せる
近衛騎士「それはっ」
ルーザス「やっぱりこれが目当てだったか。何だこれは?」
近衛騎士「それは近衛騎士の問題であって、警備騎士に語るものではない!」
ルーザス「警備騎士に話すことはない、か。じゃあ……」
そこに現れた人影があった
メイルーシア「じゃあ、警備騎士じゃなければいいのよね」
メイルーシアがリネットを伴ってやってくる
近衛騎士「ステラ様!」
近衛騎士がひざまずいた
近衛騎士団は王族の警護もその任務の一つである。王族の顔は知っていた
メイルーシア「近衛騎士団の本部に興味があって視察に来てみれば。偶然ね」
ルーザス「ああ、偶然だな」
嘘である。フィルを通して連絡していたのだ
メイルーシア「そこの警備騎士に教えられないのなら、私に教えてくれる? 彼はその場で聞いていただけ、そういうことで」
近衛騎士「しかし……」
メイルーシア「大丈夫。秘密なら守ります。そこの警備騎士もね」
メイルーシアは片目をつぶって見せる
近衛騎士「わかりました。お話しします……」
根負けしたように近衛騎士は肩を落とした

ルーザス「間者(スパイ)?」
近衛騎士の話はこういうものだった
とある貴族と商会の癒着を捜査する過程で、商会に近衛騎士団の間者(スパイ)を潜り込ませたという
警備騎士団には「海豹隊(あざらしたい)」がいるが、貴族で構成される近衛騎士団にはそれに相当する組織がない。そのため市民や冒険者を高額の謝礼を積んでその任に着かせるらしい
その間者(スパイ)は商会側に潜入して、定期的に紹介内部の情報を報告していた
メイルーシア「その手段が、投書箱だったわけね」
近衛騎士「その通りです。一見ただの告発文に見せかけて、都市王(としおう)様を通した後、我々が回収する流れでした。しかし先月、その連絡が途絶えまして」
メイルーシア「あ」
メイルーシアが思い出したように声を上げた
近衛騎士「何か?」
メイルーシア「いや、なんでもないの。続けて」
近衛騎士は続ける
連絡が途絶えたことに、間者(スパイ)が露見したのかと危惧した近衛騎士団はその間者(スパイ)の安否確認に奔走した。結果、きちんと生きていることがわかり胸をなでおろしたという
しかし、次の投書箱の日の前日、港で似た風体の男が死体で見つかったと聞いて、慌ててその死体を回収しに「森の滴」にやってきたのだった
近衛騎士「何か探られて近衛騎士団の間者(スパイ)であることを、警備騎士に知られるわけにもいかなかったのです」
ルーザス「メンツってやつか」
近衛騎士は頷いた
ルーザス「貴族と商人の癒着なら警備騎士も捜査できるはずだが、今回の相手はかなり大物なんだろうな」
近衛騎士「それは……」
メイルーシア「教えてくれる? そんな輩が貴族にいるのなら王族としても黙っていられないわ」
近衛騎士「はい、ミロン侯爵です」
観念したかのように、近衛騎士は告白する
メイルーシア「ミロン侯爵? あの成金趣味、やっぱり汚いことしてたのね」
ミロン侯爵が治めるミナスマイラの衛星都市ミロンは、ミナスマイラと他都市を結ぶ航路の中継地にあり、規模のわりには豊かな都市として知られている。その資本力もあって、ミナスマイラ王国の中でも有力な貴族の一人だ
近衛騎士「一年前から、侯爵の周辺で不明な金の流れがあると指摘があって、近衛騎士団で内偵を進めていたのです」

ルーザス「さて、本題に入ろうか?」
ルーザスが例の紙切れを取り出す
ルーザス「これに書いてあるのは暗号で、近衛騎士が読めば内容がわかるってことだな」
近衛騎士「ああ、結構教えるには手間がかかるが、それも込みで高い金を払っている」
ルーザス「ご苦労なことで」
警備騎士団なら「海豹隊(あざらしたい)」に命令する権限のある警備騎士が工作員(ウェイトレス)を潜入させて済ませられる案件だ
近衛騎士団も「海豹隊(あざらしたい)」を作ればいいのにな、と素直にルーザスは思った
ルーザス「その前に『十日、港に密輸の船が着く』とはどういう意味だ?」
近衛騎士「その文面の通りなら、特に意味はない。異常はないとの知らせだ」
ルーザス「そうか……じゃあこれだ」
ルーザスが手渡す
それに目を通した近衛騎士は目を見開いた
近衛騎士「これは……これが、死体から?」
ルーザス「ああ、何かあるのか?」
近衛騎士「それは……」
メイルーシア「言いなさい! ここまで来たら、私も知りたいわ」
メイルーシアが命じる
近衛騎士にとって王族の命令は絶対だ
近衛騎士「わ、わかりました……」
近衛騎士は一息吸った
近衛騎士「今夜、密輸があります。品物は薬物(クスリ)です」
メイルーシア「薬物(クスリ)ですって。そんなものがミナスマイラに……」
ルーザス「ああ、出回っている。何人か中毒者を見たこともある」
留置所に入れても薬物(クスリ)を欲しがる声が響くのを聞いたこともある
メイルーシア「許せないわね。私も行くわ」
ルーザス「お前が?」
メイルーシア「どうせルーザスも踏み込むつもりだったんでしょ。なら私が必要だと思わない?」
近衛騎士「いや、だからこれは近衛騎士の……」
メイルーシア「ミロン侯爵の罪状を直に確かめるだけよ。そちらだって王族の後ろ盾があったほうがスムーズでしょ?」
近衛騎士「しかしそれでは姫様の御身が……」
メイルーシア「この警備騎士がいるから大丈夫。私だって剣は習っているもの」
メイルーシアは胸を張った
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