第18話 姫君と千年種2

文字数 2,144文字

ミリアム「ただいま戻りました……」
「森の滴」の扉を開けてミリアムが入ってくる
扉を入ってすぐは患者たちの待合室になっていて、トライスはカウンターにいた
トライス「ミリアム遅かったわね……って、あ」
ミリアムの後からメイルーシアが現れるとトライスの動きが止まる
メイルーシア「トライス、久しぶり~」
トライス「メイじゃない。どうしたの?」
メイルーシア「うん、ちょっとね」
ミリアム「トライスさん、お知り合いなんですか?」
トライス「ええ、まぁ……知り合いというか」
メイルーシア「親友よね」
トライス「……うん、親友」
なんとなく気後れした感じはしたが、ミリアムの目にはトライスの言うことにウソはないと映ったようだ
トライス「相手をしたいところだけど、まだお店開いてるのよね」
もうすぐ正午というころである。待合室に患者はいない
メイルーシア「ふーん、それよりこの娘よ!」
メイルーシアがミリアムの肩を持つ
メイルーシア「トライスは知ってるんでしょ? この娘の魔法。何者なのよ?」
問われてトライスは頭を抱える
トライス「あちゃー。ミリアム、人前で使っちゃったの?」
ミリアム「ごめんなさい。どうしてもこの人を助けたくて……」
トライス「まぁメイなら信用できるわね」
メイルーシア「早く早く、教えなさいよ」
トライス「わかったわよ。ミリアム、ちょっとじっとしててね」
トライスはあきらめたようにミリアムの前に立つとその頭のナース帽に手をかける
ぱさっ
ナース帽を外すと、その特徴である長い耳があらわになった
しばらく言葉もなくその耳を見つめていたメイルーシア
メイルーシア「耳?ホンモノ?」
トライス「そうよ。ミリアムはこの大陸でたぶんたった一人の千年種(ミレニア)なの」
理解するのに時間が必要だったらしく、しばらく沈黙が待合室に漂った
メイルーシア「素敵!」
メイルーシアはミリアムの手を両手で握りしめる
メイルーシア「素敵。ミリアム、お友達になりましょう。千年種(ミレニア)の友達なんて素敵だわ」
トライス「あのー、わかってると思うけど……」
メイルーシアのはしゃぎっぷりにトライスが釘を刺す
メイルーシア「わかってるわ。秘密なんでしょ。素敵な秘密だわ」
ツヴァイ「もちろん都市王(としおう)様にも秘密ですからね」
診察室からツヴァイも出てきた
メイルーシア「わかってるって、お父様にもお母様にも秘密ね」
ミリアム「都市王(としおう)様?」
聞きなれない単語に反応したミリアム
ツヴァイ「ミリアムの秘密を知ったんですから、メイルーシア様も秘密を教えてあげるべきですよ」
なにげなく「様」を付けたツヴァイ
メイルーシア「そうね。千年種(ミレニア)に比べたら、私の秘密なんて安いものね」
メイルーシアは胸に手を当てて口を開く
メイルーシア「私こそがこの都市の都市王(としおう)の第一王女、メイルーシア=ステラ=ミナスマイラよ。都市(まち)の人からは『都市(まち)姫様』と呼ばれてるわ」
ミリアム「この都市(まち)の、お姫様……」
ミリアムは膝を折って、頭を下げる。ミナスマイラ神殿で、女神像に宣誓したときの姿勢だ
ミリアムとしては、これしかかしこまる方法を知らない
メイルーシア「あ、別にいいのよ。私はミリアムと友達になりたいの」
メイルーシアはミリアムを抱き起こすとその目を見た
メイルーシア「堅苦しいのはなし、ね♪」
メイルーシアの目は敵意のないとても柔和な目だった
ミリアム「はい、私でよろしければ」

ルーザス「昼飯食いに来たぞー」
正午過ぎ、ルーザスが「森の滴」にやってきた
セリウスや仕事の絡みで「森の滴」に来る機会が多いルーザスは、時折昼食を食べにやってくる
そこでナース帽を直したミリアムとメイルーシアに出くわす
ルーザス「何やってんだ。ステラ」
メイルーシア「ステラ言うな、アパト」
メイルーシアはルーザスをキッとにらみつけた
昔の名前を言われてルーザスも露骨に嫌な顔をする
親がつけた古い名前がアパト、ルーザスは成人を迎えて自分でつけた新しい名前で、クレイピア大陸ではよくある付け足し名である
ちなみにセリウスはプロス、ツヴァイはドゥーエという古い名前がある。トライスは自分の名前が気に入っているらしく付け足し名はつけていない
トライス「もう。会うとすぐこうなんだから。ルーザスが先に謝るのよ」
食堂から出てきたトライスがやれやれ、といった感じで出てくる
ルーザス「はいはい、すみませんでした」
形だけの謝罪をすると、昼食がある食堂へと消えていった
メイルーシア「都市(まち)ではメイルーシアよ。忘れないでね」
メイルーシアはミリアムに言った
ミリアム「ルーザスさんと仲がいいんですね」
どこをどう見て、とメイルーシアは言いかけたがあきらめたように言う
メイルーシア「あれでもミナスマイラの貴族だからね。昔なじみの腐れ縁ってやつかな」
メイルーシアはやや遠い目をして言った
トライス「今日は二人か。お昼足りるかしら?」
トライスが昼食の心配をし始めていた

昼食でミリアムはさまざまなことを聞かされた
メイルーシアが数か月に一度、城を抜け出しては都市(まち)に遊びに来ること
そのたびに「森の滴」に訪れてはルーザスやセリウスが警護に駆り出されること
そして、メイルーシアが城を出るときには必ず何か面倒ごとを持ってくることであった
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