第22話 検死

文字数 2,429文字

ルーザス「ス……メイから?」
ルーザスは警備騎士団本部で突然のメイド訪問に驚いていた
リネット「メイ様のお側付きになりました。リネットと申します」
ルーザス「そういえばフィルが言ってたな。先輩が付いたとか」
リネット「妹がお世話になっております」
ルーザス「ああ、よろしく」
メイルーシアから預かった手紙を差し出す
ルーザスは手紙を受け取ると、その場で開く
ルーザス「近衛騎士団か……」
セリウス「どうしたんだい?」
セリウスがやってくる
セリウス「これから警邏の時間だよ」
ルーザス「ああ。こちらが……ありゃ?」
紹介しようと思ったが、すでにリネットの姿は消えていた

メイルーシアが投書を持ち出して起きたこの事件だが、この時点で手詰まりとなっていた
警備騎士団には日々事件が舞い込んでくることもあり、この件はその後何の進展もないまま数十日が過ぎることになる

そんなある日……
深夜 ルーザスとセリウスは当番であるミナスマイラ港での警邏をしていた
ルーザス「毎度のことながら静かだな」
石畳を歩く靴の音しか聞こえない
セリウス「そうだね」
二人は歩く
冷たい風が吹いた 
セリウス「さすがに寒いね」
ルーザス「もう冬だしな」
その時である

???「ギャーっ!」
何か叫び声が聞こえた
ルーザス「!?」
セリウス「!?」
二人は身構えて声の方角を探る
ルーザス「あっちだ!」
二人が声のもとに向かう
倉庫街の裏、細い路地に人の気配があった
ランタンを向けると、石畳に誰かが倒れている
セリウスはランタンを置いて、それを抱き起こした
ルーザス「大丈夫か?」
セリウス「……、ダメだね。もう」
セリウスが首を振る
ルーザス「ちっ」
ルーザスは舌打ちして、路地の奥に人を追う
しかし、すでに人影はなく、見つけることはできなかった
ルーザスが戻るとセリウスが倒れた人の周囲をランタンで照らしていた
何か遺留物が残っていないかを調べる基本動作である
ルーザス「本部に連絡してくる」
ルーザスは走り出した

深夜、「森の滴」
扉を叩く音に目を覚ましたツヴァイが扉を開く
ルーザスとセリウスが応援の警備騎士が持つ担架に乗せられた先ほどの遺体と一緒だった
ツヴァイ「殺人(ころし)ですか?」
ルーザス「ああ。調べてくれ」
ツヴァイ「地下の検死室に」
診察室に遺体を運ぶわけにはいかない。地下室へ案内する
ルーザス「運んでくれ」
遺体は地下に運び込まれた
トライス「仕事なの?」
眠そうな目を覚まそうと頬を叩きながらトライスが下りてきた
ツヴァイ「検死です。トライスは来なくて平気ですよ」
遺体を調べるのに看護師の手は必要ない。そもそもトライスを検死には立ち会わせたくない気持ちがあった
トライス「ううん。行くわ。起きたついでだもの」
トライスは寝巻の上から白衣を纏うと地下に下りていった

ツヴァイ「肩から腰にかけてザックリと、中剣か長剣ですね」
ツヴァイの検死は遺体の傷口の鑑定から始まる
ツヴァイ「年齢は20代後半、身長は……」
ツヴァイの所見をセリウスが調書にまとめていく
ツヴァイの施療師としてのもう一つの顔がこの検死官である
ミナスマイラの施療師は大体がこの仕事を兼任しているが、やはり個人的な付き合いと信頼からこの二人が担当する遺体はツヴァイを頼ることが多い

トライス「あれ?」
遺体の服を見ていたトライスが声を上げる
ツヴァイ「どうしました?」
トライス「服の中に何か……」
トライスが遺体の服のポケットに手を入れる
出てきたのは一枚の紙切れだった
トライス「?」
ツヴァイ「何か書いてありますか?」
トライス「これ……」
ツヴァイに紙切れを渡す

六日 塩の荷車が届く

そう書いてあった
ツヴァイがルーザスに紙切れを渡す
紙切れに目を通したルーザスが険しい顔になった
ルーザス「これは……」
セリウス「以前見たような。あ、メイ様の……」
あのときの文章に似ていた
ルーザス「あれもコイツが書いたのかもしれない」
セリウス「明日は投書箱の日だね。でも……」
ルーザス「そう。六日は昨日、いや一昨日だ。出す意味がない……ん?」
上が騒がしい
近衛騎士「誰か!いないか!近衛騎士団だ!」
ツヴァイ「うるさいですね。何でしょう?」
白衣のまま階段を上がるツヴァイ
ルーザス「俺も行こう。近衛騎士相手なら俺がいたほうがいい」
トライスに紙切れを渡して、ルーザスもついていく
待合室に上がると、銀色の胸当てに三重十字(トライクロス)の紋章を付けた近衛騎士が立っていた
外にも人を待たせているようだ
ツヴァイ「近衛騎士様がどうかいたしましたか?」
近衛騎士「ここに遺体が運ばれたと聞いた。本件は近衛騎士が取り調べることになったので、それを引き渡してもらろう」
ルーザス「はぁ? この件は俺が本部に……」
近衛騎士「警備騎士団にはすでに話は通してある」
高圧的な態度で迫る近衛騎士
貴族のみで構成される近衛騎士団は必要と判断すれば警備騎士の案件を自分の管轄下に強制的に置くことができる。彼はその権限を行使してこの件を自分の事件(もの)にしようとしているのだ
ツヴァイ「しかたありませんね。こちらです」
ルーザス「お、おい」
ツヴァイがあっさり引き下がったので、少し慌てるルーザス
近衛騎士「ご協力ありがたい。おい」
近衛騎士が声をかけると近衛兵が二人入ってくる
こちらは、近衛騎士に雇われた市民の立場だ
二人は地下室に下りると、担架で遺体を運び出していった
ルーザス「よかったのか? 検死の途中なのに」
「いつも通り」の向こうに消えていく人影を見送って、ルーザスは言った
ツヴァイ「いいんです。遺体よりもそれを近衛騎士団が奪いに来たことの方がより重要ですから」
ルーザス「そりゃあそうだが……」

トライス「あっ」
トライスが声を上げた
ツヴァイ「どうしました?」
トライス「これ、渡すの忘れちゃった」
例の紙切れをトライスは持ったままだった
トライス「どうしよう……」
セリウス「渡しに行くかい?」
ルーザス「いや、でかしたぞ。これを使えば……」
ルーザスは何か思いついたようだった
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