第9話 都市神

文字数 1,887文字

それから数日後……

ミナスマイラ神殿
自由都市ミナスマイラを神格化した都市神、女神ミナスマイラを祀る神殿である
クレイピア大陸ではそれぞれの都市に神が存在して、住人はその神を信仰することで都市への居住を含めたいわゆる市民権を認められるという都市神信仰があり、自由都市ミナスマイラの都市神、ミナスマイラは寛容と博愛の女神とされている
望むものは何者をも拒まないとされるその教義は例えばこの都市の入市税が撤廃されていることにも反映されていたりする
そしてその寛容さは千年種(ミレニア)といえど例外ではなかった
神殿内部、女神ミナスマイラの彫像の前に豪華な神官服をまとった神官と薄い青色の真新しい服を着たミリアムがいた
神官「我らが都市(まち)の女神ミナスマイラに尊敬と忠誠を誓いますか?」
荘厳な雰囲気の漂う神殿内に、厳格な神官の声が響き渡る
ミリアム「はい、誓います」
跪いて静かにしっかりと人間語で、ミリアムは返答した
ミナスマイラの市民になることを女神ミナスマイラに宣誓する儀式。
都市神信仰のあるクレイピア大陸の都市の住民になるには普通にある手続きである。
服は市で約束した件とせっかくの儀式ということでトライスが生地から仕立ててくれたものだ
そして儀式の都合上帽子はなく、長い耳がピンと立っていた
神官「遠き国から来た者よ。この都市の一員となることを許可します」
こうしてミリアムのミナスマイラ市民への登録は意外なほどすんなり事が運んだのだった

ミリアム「セリウスさん!」
儀式を終えたミリアムが、神殿についてきていたセリウスのもとに駆け寄った
セリウスの他に、トライス、ツヴァイ、ルーザスの姿もある
トライス「おめでとう。ミリアム」
ミリアム「ありがとう。トライスさん」
ミリアムの人間語はさらに上達していた
トライス「神官様に千年種(ミレニア)のこと、話してもよかったのかな」
ルーザス「なぁに、ミナスマイラの教義的にも問題ないし、日に何度も市民の懺悔を聞いてるんだ。口は堅いさ」
それ以前に十分言い含めてはあるのだが
ミリアムが千年種(ミレニア)であることはできる限り秘密にすることにした。
入るものすべてに寛容な都市ではあるが、世間の目すべてが好意的ではないだろう
そうでなくとも伯爵のように大陸でただ一人の千年種の存在をよからぬ理由で欲する者が現れないとも限らない
とはいえ、この都市で暮らす以上、秘密が漏れない確証はないのだが

そしてミリアムは施療院「森の滴」を手伝いながらセリウスと暮らすことにもなった
ミリアムの証言や伯爵の船の航路を分析して、ミリアムの故郷であるらしい大陸はわかったが、小さな千年種(ミレニア)であるミリアムが一人で帰るのは困難である
なのでセリウスが警備騎士をやめてでも連れて帰ると言ったが断った
ミリアムはその大陸出身とはいえ、大森林はもちろん村からあまり出たことがない
よって大森林のどの位置に村があるのか一切知らない
そんな状態でクレイピア大陸よりも広大な人間が踏み入れたことのない大森林の中から村を見つけるのはかなり難しい
唯一、ミリアムを誘拐してミナスマイラに連れてきたという謎の男が手がかりを握っていると思われたが、それも見つけることができなかった
つまり大陸がわかっても、村に戻れる保証はどこにもないのだ
未知の大陸にあいまいな手がかりを頼りに故郷を探す旅はたとえ護衛があれど危険を伴う
両親や姉も心配しているとは思ったが、帰り道で何かあって死んでしまっては元も子もない
千年種の寿命は長い。生きていればいずれまた会える機会は来る。それがミリアムが自分で出した結論だった
ミリアム(それに……)
施療院でセリウスを助けた件で、自分にもこの都市でできることがあると思ったから
何より自分を救ってくれたセリウスやツヴァイたちにお返しがしたいから
特にセリウスには自分から何かを返したい、そんな思いがあった
セリウスが一緒に暮らすことで、ミリアムの保護者になることにもなる。機会はいくらでもあるだろう
ミリアム(きっかけはいろいろあったけれど、ここに来たのも何かの思し召しかもしれない)
もしかしたらこの都市の女神様かも……
千年種(ミレニア)の世界では神は持たない。自らの住む世界を作る大森林に対して畏敬の念を示す信仰ならあるが、神と呼べるような存在はいない
ミナスマイラの市民になったことでそんな超自然的な何かの庇護下に入った、そんな気がした
ミリアム(ミナスマイラの女神様。どうかみんなをお護りください)
何もかもが異質なこの都市でこの先どうなるかわからない、けれどこの都市での新しい生活に心を躍らせるミリアムなのだった
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