第24話 捕物

文字数 2,111文字

その夜、ミナスマイラ港のとある倉庫にて……
2人の男が、その中央に立っていた
ミロン侯爵「品物はまだ届かないのか?」
商人「もうしばらくお待ちください。なにぶんモノがモノですので」
ミロン侯爵「儂は気が短いのだ」
商人「承知しております。お、来たようです」
ガラガラ、と車の音が近づいてくる
倉庫の入り口から何かを積んだ数人の人夫に引かれた荷車が入ってきた
荷車には何かが詰まった麻袋が山積みになっている
ミロン侯爵「おお、届いたか」
商人「船ではなく陸路での搬入。都市(まち)の北門を抜けるときはヒヤヒヤしましたぞ」
ミロン侯爵「しかし私の名前で通過できたのだろう。ありがたく思え。当然だが分け前は……」
商人「はい。心得ております」
ルーザス「何を心得ているのかな?」
商人「!」
ミロン侯爵「!」
突然の声に、二人はその主を探す
二つの人影が、倉庫の入り口から歩み寄っていた
セリウス「これが『塩』か……」
ルーザス「その『塩』改めさせてもらおうか」
ルーザスとセリウスだった
ミロン侯爵「警備騎士風情が、この侯爵に何の用だ!」
二人の青い胸当てを見て、ミロン侯爵は紋章を見せて威張り散らす
並の警備騎士なら、それを見て怯むところだが、この二人は違った
二人の間からもう一つ人影が現れる
メイルーシア「用ならあるんだけどね」
メイルーシアだ
都市(まち)に出る用の普段着に革鎧、中剣で武装していた
ミロン侯爵「何者だ!なぜ女がこんなところに……」
普段見ない市民の服装の彼女に気づいていないようだ
メイルーシア「ミロン侯爵殿、私の顔に見覚えはない?」
ミロン侯爵「どうして私の名前を……!」
ミロン侯爵は目を見開いた
王城の舞踏会ではいつも中央にいたあの顔だった
ミロン侯爵「まさか、ステラ姫!」
ミロン侯爵は膝を折り、頭を下げる。それにつられて近くにいた商人や人夫たちもひざまずいた
ミロン侯爵「ステラ姫殿下とはつゆ知らず、とんだご無礼を……」
メイルーシア「わかったのなら、もう来た用は承知しているでしょう」
メイルーシアが歩み寄る
メイルーシア「おとなしく捕まって罰を受けなさい!」
ミロン侯爵「ええい、もはやこれまで!誰か!だれかおらんか!」
商人「皆の者!出番ですよ!」
ミロン侯爵と商人の呼び声に複数の人影が倉庫になだれ込んだ。三人を取り囲む
ミロン侯爵の家来と商人の手勢の者たちだろう
誰もがそれぞれバラエティに富んだ武器を手にしている
……が、それに驚いたのはルーザスたちではなかった
商人「これはどういうことです?」
ミロン侯爵「どうもこうもないわ!」
商人「こんなに家来を伏せていて、信用は……」
ミロン侯爵「信用も何もお前も手勢を伏せていたではないか!」
メイルーシア「あのー、話聞いてる? 都市(まち)姫様ですよー」
内輪揉めを始めた二人に声をかけるメイルーシア
ようやくするべきことが決まったようだ
ミロン侯爵「話は後だ! まずはこの都市(まち)姫殿下を騙る曲者を斬り捨ててしまえ!」
商人「とにかく現場を見た者は全員殺してしまいなさい!」
二人の命令でやっと男たちが三人にとびかかる
ルーザス「どうする?」
メイルーシア「都市(まち)姫権限よ。やっちゃいなさい」
ルーザス「はいはい」
ルーザスは剣を抜くとその太刀筋で最初の一撃を受け止めた
セリウス「できるだけ拘束するよ」
セリウスは剣を抜かず、鞘にいれたままで正面に構える
メイルーシアの許可があるとはいえ、警備騎士が貴族の家来を斬っては後で面倒になる
もとよりそれはルーザスも心得ていて、剣では攻撃をかわしながら、敵には拳や蹴りで対応していた
セリウスは鞘のついたままの剣で器用に敵の急所を叩いて無力化する
メイルーシア「私、手加減できないんだけど!」
ルーザス「都市(まち)姫権限だろ? それに自分で来たんだから自分の身は自分で守れ!」
メイルーシア「わかったわよ!」
その時、敵の一人がメイルーシアのすぐそこまで迫ってきた
メイルーシア「!」
とっさに身構えるが振るわれた剣先に防御が間に合わない……

キンッ!

そんな攻撃の一つは突如現れた影が受け止めた
隠密姿のリネットの短剣である
リネットはそのまま流れるような動きでその武器の持ち主の喉笛を貫いた
リネット「メイ様。大丈夫ですか?」
メイルーシア「ありがとう。助かったわ」
自分もまた別の攻撃を中剣で受け流すと、リネットに礼を言う
リネット「メイ様には指一本触れさせません」
リネットは敵のただなかに飛び込んで容赦なく敵を斬り伏せる
「海豹隊(あざらしたい)」では雇い主(クライアント)の指示がない限り敵は殺すのが前提だ
時間が経つにつれて数で有利だったはずの敵側はかなり数を減らしていた
メイルーシア「そろそろ頃合いね。リネットお願い」
リネット「はい」
リネットが高く鳴り響く呼び子を吹く
それを合図に、倉庫の周囲から大量の人影が現れた
今回の事件を担当していた近衛騎士の面々である
近衛騎士「密輸の現場は押さえた! そうでなくとも都市(まち)姫様に刃を向けたことは不敬である! ミロン侯爵、神妙にしろ!」
それなりに高い地位にあったらしいあの近衛騎士の声とともに、部下たちが大事な都市(まち)姫に刃を向けた罪人たちを取り押さえに向かうのだった
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み