第19話 投書箱

文字数 2,058文字

ルーザス「で、今回は何だ?」
昼食が終わり、まじめな顔でルーザスはメイルーシアに尋ねた
こんな性格のメイルーシアだが、物見遊山で王城を抜け出したりはしない
メイルーシア「そうね。今日はこれよ」
メイルーシアは封書を取り出す
ルーザスは受け取って、中身を見る
手紙だった

十日、港に密輸の船が着く

それだけだった
ルーザス「メイ、お前また投書箱を……」
メイルーシア「いいでしょ。王族宛ての投書なんだから」
投書箱とは、毎月、都市(まち)の中央広場ー「いつも通り」と中央通りの交差点に当たるーに置かれる市民が王族に意見を送るために設置された箱である。箱は回収されると王城に送られ、中の投書はすべて都市王(としおう)と王妃のもとに渡る流れになっているはずだが……
メイルーシア「私も王族だもの。見る権利くらいはあるわ」
ルーザス「都市王(としおう)様や王妃様が見た後ならな。どうせ途中で抜き取ったんだろ」
メイルーシア「さーて、どうでしたかねー」
図星だろ、とルーザスは言いかけたがやめた
ルーザス「十日、と言うと今日だな。それを捕まえたいと」
メイルーシア「そういうこと。警備騎士団の出番でしょ?」
ルーザス「あのなぁ……」
ルーザスは呆れて言った
こんな感じでルーザスやセリウスはメイルーシアに振り回されるのだ
ルーザス「こんなの見せられたって、警備騎士団が動けるわけないだろ。おまけに今日ときたもんだ。今から港の船全部調べろと?」
メイルーシア「そうよ。せっかくの情報なんだから逃す手はないでしょ?」
ルーザス「そもそも、この手紙の情報は本当なのか? ガセで動いて何も出なかったら俺の立場がなくなるんだ。わかってんのか?」
メイルーシア「確証ならあるわよ」
ルーザス「なんだよ」
メイルーシア「女の勘」
ルーザスは立ち上がった
メイルーシア「行ってくれるの?」
ルーザス「ああ、王城に行ってくる」
メイルーシア「王城に? なんで?」
ルーザス「ゲオルクを呼んで、お前を連れて帰ってもらう」
メイルーシアは待合室を出ようとするルーザスの前に回り込む
メイルーシア「待って待って! なんでそうなるのよ!」
ルーザス「手に負えねーんだよ。まったく」
イライラしている感じでルーザスが言った
セリウス「ルーザス、遅いから迎えに……って、メイ様?」
ルーザスの戻りが遅いのでセリウスが「森の滴」に様子を見に来た
すでに親しいのだが、セリウスは市民なので「メイ様」呼びである
メイルーシア「セリウス、お願いだから話聞いて」
セリウス「伺いましょう」
ルーザス「聞くだけ無駄だぞ」
メイルーシアは手紙と事の次第をセリウスに伝える
セリウスは困った顔になった
セリウス「確かに難しいね。特に今日というのが……」
メイルーシア「ダメなの?」
セリウス「ダメと言うか……無理だね。今からじゃ間に合わない」
メイルーシア「密輸の現場に踏み込めばいいんじゃないの?」
ルーザス「物事はそう簡単じゃないんだ。段取りってもんが……」
セリウス「いつもは段取りがめんどくさいって言ってるルーザスが言うとはね」
セリウスが笑った
ルーザスは無言だが、少し気恥しそうだった
ルーザス「……とにかく、王城まで送ってやる。頭を冷やせ」
メイルーシア「むぅ……」
メイルーシアは頬を膨らませて抗議したが、ルーザスは聞き入れない
メイルーシア「セリウスぅ」
メイルーシアはセリウスに助け船を求めるが……
セリウス「ごめんよ。今回はやっぱり無理だよ。僕も王城までついていくからさ」
取り付く島もなかった
メイルーシア「だーっ! もうわかったわよ」
今度はメイルーシアが扉に向かう
ルーザス「わかったって何がだよ?」
メイルーシア「私が……」
ルーザス「一人でも調べに行く、か?」
ルーザスがメイルーシアの肩を掴む
メイルーシア「ぐぅ……」
ルーザス「残念ながらそういうわけにもいかない。わかってんだろ?」
セリウス「都市(まち)姫様が都市(まち)に出てきてると知って、警備騎士が放っておくわけにもいかないしね」
トライス「午後はミリアムに任せるから、ルーザスを連れて一緒に都市(まち)巡りでもしましょ?」
トライスが説得する。メイルーシアの落としどころは限られている
メイルーシア「うー、わかったわよ。今回はそうしてあげる」
しぶしぶメイルーシアは受け入れた
セリウス「それじゃあ僕は本部に戻ってルーザスは急用で早退することにしたって伝えてくるよ」
ルーザス「悪いな。そういうことにしといてくれ」
セリウスは本部に戻るため、待合室を出て行った
ルーザス「さて、準備するか」
ルーザスは警備騎士団の胸当てを外し始める。お忍びの姫君を護衛するには目立ちすぎるからだ
トライス「私も準備してくるわね」
トライスは居室のある二階への階段を上がっていった
ミリアム「大丈夫ですか?」
気落ちした雰囲気のメイルーシアにミリアムが話しかける
メイルーシア「大丈夫よ。今日はあなたに会えただけでも幸運だったかもしれないわね」
ミリアム「いつかいいことありますよ」
メイルーシア「ありがとう。ホントいい子ね」
メイルーシアはミリアムを抱きしめた
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