猫 2

文字数 1,442文字

朝6時。
幸人は目覚めて隣に眠る未耶の体に手を伸ばす。未耶は深く眠っているのかピクリともしない。
未耶の首筋にキスをするとむくりと起き上がった。
カーテンから差し込む光を見る。幸人はその光を見て、一瞬、今がいつなのか分からなくなった。じっと窓を見る。
「ああ、そうだ。5月の連休が終わって・・・」
首を振りながら「朝からボケボケだな」と呟く。

幸人は起き上がるとスリッパを履いてペタペタと部屋を出て行った。少し早いけれど朝食の準備をしようと思った。
玉ネギとトマトをみじん切りにする。こうすれば未耶もトマトだけを避ける事は出来無い。
ベーコンの細切りを加えてサラダオイルで炒める。今回はそこにスライスチーズを入れた。
チーズの味でトマトの風味も薄くなる。
溶き卵を上から垂らしてオムレツの出来あがり。
「お早う。幸人」
未耶がぼーとした顔で起きて来た。パジャマにしているロンTは衿が伸びて、白い鎖骨が見える。片方の足のスパッツが持ち上がって、その姿を見た幸人は笑う。
「すげー恰好だな。未耶、顔を洗っておいで。その頃にはパンが焼けている」
未耶は頷くと洗面所に向かった。

さっぱりとした顔で未耶が食卓に着く。
コーヒーカップを両手で包むとふふふと笑った。
「何?」
「幸人、私ね、昨日猫を飼う夢を見た」
「ふうん」
「それがね。子猫のはずなのに・・・」
「すごく大きな猫なんだろう?」
未耶がきょとんとする。
「そう。・・・何で知っているの?」
「その話、前に聞いた気がした」
「あら? そうだった?」
「それで、階段が空中ブランコみたいなものなのだろう?」
「うん。えっ ?じゃあ、この夢は二度目? 嫌だわ。忘れていた」
「未耶は大きな猫を抱えてその危ないブランコを降りて行くんだろう? でも猫は大人しく未耶に抱かれているから・・・」
そこまで言って幸人は「あれ?」と思った。
「ねえ。この夢の話を聞いたのって、随分前だった? それとも最近?」
「嫌だ。私ったらそんな話をした事すら忘れている 」
「未耶は猫を抱えてゆっくりと階段を下りて行く」
「うーん。ちょっと違うわ。じゃあ、やっぱりこの夢は二度目なのね。違うの。ちょっと違うの。猫が暴れたの。だから私、慌てて猫を抑えようとして、ブランコの手を離してしまって、そこから落ちてしまった夢なの」
サラダを食べていた幸人は一瞬、背中に冷たいものが走った。
「何だ。それ。嫌な夢だな。そんな夢、忘れちまえよ」
「でもね。幸人。不思議な事に全然嫌な感じがしないの。体がふわりと浮いて、ふわふわと落ちて行くのよ。猫を抱いたまま。まるで、あれよ。あのラピュタのシータみたいにふわふわと浮いているの。まるで飛行石を持っているみたいに」
「ふうん・・・」
未耶がオムレツにたっぷりとトマトケチャップを掛けながら言う。
「トマトは嫌いなのにトマトケチャップは好きなんだ」
幸人が呟く。未耶は「これは別物だよー」と笑う。

「ねえ。幸人やっぱり猫を飼おうよ」
「いいけど? 世話は未耶がするんだぜ」
「うん。分かった。それで何がいい? 三毛猫? それともぶち猫? 茶トラ? キジトラ?」
「どれもこれも庶民的な猫だな」
幸人は笑った。
「嫌だ。そんな外国産の高い猫が買える訳が無いじゃ無いの」
「未耶が好きな猫を飼えばいい」
「じゃあ、今度ペットショップを見に行こうか?」
「ペットショップよりも、動物保護センターで良いんじゃないの?」
「後はSNSで『この子猫譲ります』とか言うサイトを見ればいいんじゃないかな?」
「そうね。そうするわ」
未耶は笑った。
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