koshiabura  4

文字数 1,666文字

 今日は深海魚さんが来ていた。すごく久し振りだった。
何だかみんなともすごく久し振りな感じがする。

「深海魚さん、久し振り」
幸人は挨拶をした。
「久しぶり。ユキちゃん」
深海魚はにっこりと笑う。
ハラグロとマサミチと深海魚。それに幸人。
椅子が後二つ。
誰が来るのだろうか。

未耶に「寝過ぎてはダメよ」と言われたのに、がっつりと眠ってしまった。
だが、イラストはほぼ完成した。
「こんな感じに出来上がったけれど」と件名を付けてマサミチに送った。
「細かい注文が有ったら言ってください」

PCをシャットダウンして服を着替え、バックを持って玄関から出て行こうとした。
「にゃーお」
部屋の奥から猫の鳴き声が聞こえた様に思えてびくっとした。
じっと廊下の先を見る。
猫の姿なんかどこにも無い。当たり前だが。
幸人は頭を振った。
「ちょっと最近、疲れているのかなあ・・・やたらと眠いし・・・何でこんなに眠いのかな」
そう言ってドアを閉めた。



深海魚さんが「ここへどうぞ」と言ってくれて幸人はそこに座った。
皆が幸人を見る。まじまじと見ている。
「?」
「どうしたの?」
「いや、何でもないっす」
マサミチが言った。
「みんな、どうしたの? 深刻な顔をして。何かトラブル発生?」
ハラグロがふうっと大きな息を吐き出した。
「その通り。トラブル発生。ゲートキーパーが見付からない」
「ゲートキーパー? 門番?」
「そう。ユキさん。見なかった?」
「どんなやつ?」
「この位の大きさで」
ハラグロは両手で小さな丸みを作る。
「楕円形をしている。側面に起動ボタンがあって、5本指の指紋が認証になっていて、起動させると仮想スクリーンが・・・」
「仮想スクリーン? 色は?」
「色は白だった」
幸人は首を傾げる。
「そんなモノ、見た事は無いな」
そう言った幸人に深海魚が呟いた。
「見た事が無いか・・・」

「それ、どこにあるの?」
幸人は尋ねた。
「いや、誰の家にもある筈なんだけれどね」
「いや、俺の家には無いよ。それ、必要なの?」
「そう。すごく必要なの。ねえユキさん。家の中をちょっと探してくれない? で、もし見付けたら、それを貸して欲しいんだ」
深海魚が頼み込む様に言った。
「・・・うーん。いいけれど。でもきっと無いと思うよ。だって、見た事が無いから」
幸人がそう言うとみんなが「そうか・・・」と言って顔を見合わせた。

何だかみんな、今日は様子が変だ。
「ユキさん。何を飲みますか?」
マサミチが気を取り直す様にしてそう言って、幸人は「俺はビール」と答えた。

幸人は空いている椅子を指差して、後は誰が来るのと尋ねた。
マサミチは「アカネさんとジェリーさんです」と答えた。
「ジェリーさん?」
マサミチは「あれ? ユキさんはまだジェリーさんには会っていませんか?」
と言った。
幸人は首を傾げた。
「会っていない様な気がする」

「じゃあ、今日はセリさんと須恵器さんはお休みか・・・」
「まあね。お二人にはナビと監視をお願いしているので」
「ナビと監視?」
「そう」
「何のナビ?」
「仮想フィールド」
「・・・ふうん」
幸人はよく分からなかったけれど、聞き返すのも面倒なので曖昧に頷いた。

「ねえ。ユキさん、会社を立ち上げたって言う話は聞いていますか?」
マサミチが言った。
「会社? 誰が?」
「みんなで」
「みんな? それってもしかしたら俺も入っている?」
「入っていますよ。勿論。イラストレーターはどうしたって必要ですからね」
「それってゲーム作成の会社?」
「そう」
「何て言う会社?」
「C.A.Hリソース」
「koshiabura(コシアブラ)のKをCに変えたの。Cは計算(カリュキレーション)のCであり、サイバーのC。コンピューターのC。AはアルゴリズムのAであり、AIのA、そしてHはHilionのH」
「最初は『株)koshiabura』にしようかと言っていたのだけれど、それじゃあ食油会社みたいだなって事になって(笑)」
「ふうん・・・それっていつの話?」
「ああ・・・・もう随分前です。10年以上も前で」
幸人は笑った。
「10年? そんな馬鹿な。何を言っているんだ。君は」
そう言った所で幸人の電話が鳴った。
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