殻と果実

文字数 1,071文字

未耶と抱き合う。
時間を掛けて楽しむときもあれば、嵐みたいな情動に突き動かされて獣みたいに交わる時もある。雄と雌。女のうんと奥深い所で繋がりたい。
熱く溶けたバターみたいな未耶の奥深くで。
背中を反らせて未耶が漏らす甘い声が幸人を昂らせる。幸人は全身で未耶を包み未耶の殻になる。未耶は幸人に組み敷かれて、幸人の一部になる。固くて強い自分の体の下に柔らかくて華奢な未耶の体がある。未耶と言う甘くて濃厚な果実を守るための殻。
果実は俺だけのもの。
「気持ちいい?」
幸人は未耶に囁く。未耶は目を閉じて眉を顰めている。
「気持ちいいって言って」幸人が言うと、クスリと笑って「すごく素敵。体が溶けちゃいそう」と言った。


「汗をかいた」
幸人がごろりと転がる。未耶は幸人の胸に手をやる。
最初の頃は何も分からず、夢中で腰を動かしていた。それが回数を重ねる事に、ちょっとずつ上手くなって今では未耶をじらすことも出来る。
「お風呂に入ろう」という未耶に手を引かれて浴室へ行く。
「べとべとで気持ちが悪い」
シャワーを浴びる未耶を羽交い絞めにしてまた交わる。

二人で夕食を作って食べる。
腹が空いたと言ってもりもりと食べる。
「幸人、もうすぐ誕生日だね。プレゼントは何がいい?」
未耶が言った。
「裸でエプロン」
未耶が噴き出す。
「あほか」
「裸エプロンで、お帰りなさい。ご主人様って言う」
「じゃあさ、私の誕生日もそれやってくれる?」
幸人は自分の裸エプロンを想像して「気色悪過ぎ」と言った。
未耶が爆笑して「私も見たくない」と言った。

プレゼントは72色の水彩色鉛筆になった。
「ねえ、幸人。これを持って旅行に行こう。スケッチ旅行だ」
未耶が言った。
「それってさ、はっきり言って未耶が欲しいんじゃん」
「いいじゃん。そんな細かい事を言わなくても。じゃあ、旅行も付けるから」
「温泉付きで宜しく」
幸人は言った。

未耶の専門は油絵だけれど、幸人はあの匂いが苦手だ。なので未耶は家では油絵を描かない。
幸人が「俺が就職してもう少し広い部屋を借りられたら、そうしたら1部屋を未耶のアトリエにしてあげるよ」と言うと「私はこの家が好きだからずっとここでいい」と言った。


次の週末にスケッチブックと色鉛筆を持って出かけた。
行先は静岡。
一泊旅行。レンタカーを借りた。運転は未耶がする。
春浅い伊豆半島で群れる水仙と青い海を描いた。それに絵を描く未耶の横顔も。
手で描くのは難しい。

素朴で可憐な白い水仙が揺れている。
深い藍色の海と水色の空。薄く線を引く飛行機雲。
柔らかい風が吹く。いい天気で良かった。

そのスケッチブックはまだ持っている。
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