koshiabura 3

文字数 2,250文字

試しにちょっとしたプライベートなフィールドを作ってみましょう。
マサミチは言った。
「できるだけ、クライアントに負担を掛けない様な設定にして。
色々とパターンを考えたけれど、やっぱりそのフィールドはゲストが訪れて旅をするとか、生活をするとか、そんなフィールドがいいなと思ったのです。勿論恋愛もOKだし、やりたきゃ冒険も構わない。だが、仮想フィールドのAIを損なう事は禁止事項です」
「ンな事を言ったら、戦いごっことか出来ないじゃん」
「だから試験的なフィールドですってば」
マサミチは念を押す。
「リアルなバトルはトラウマになるから駄目だとかって前に誰かが言っていましたよね?」


「Hilionを走らせておけば、彼女なり、彼女のチームのメンバーが自律的にクライアントに合った環境を整備する。何故ならそれはクライアントの情報を元に作成される仮想フィールドだからです。電脳資源さえあれば彼らは永遠にプログラムを書き続け、現実の物理社会と大差無い疑似空間を作り上げる事でしょう」

「クルマで空を飛ぶことだって出来るし、・・・俺、先日そんな夢を見たんです。山をぐるぐると車で登って行って、あるカーブで空に飛び出すの。うわあ!って悲鳴を上げて・・・体がふわって浮いて、真下に山々が見えるのです。そこをふわふわと飛ぶんですよ。気持ちが良かった。あれ、もっと長く体験したかった。あれを実体験したら面白いだろうなあ」
マサミチは夢を思い出す様に言った。
「そう言う夢って、自殺願望が表れているんじゃないの?」
ハラグロが言う。
「無いから! 適当な事を言わないでください。全く!」
マサミチがハラグロを睨む。そして話を続けた。
「その試験的仮想フィールドですが、うまく行くようなら、ちょっと幅を広げてみます。アドベンチャー風のフィールドを作ってもいいし、ファンタジー風の冒険が出来るフィールドを作ってもいい。ゲストの幅を広げてフィールドの容量もどんどん増やして行けばいいでしょう」

「仮想フィールドへのログインはゲートキーパーがやります。クライアント、まあゲストはログインの予約をします。それには指紋認証とパスワードが必要です。それをセットして眠ると、何度目かのレム睡眠で向こう側に入り込むって寸法ですよ。滞在時間は精々10分程度でしょうね。夢はそんなに長くは見てはいないだろうけれど。
それとグローブ。グローブはハラグロさんの会社と共同開発したナノ繊維で出来ています。これは有線でゲートキーパーと繋がっていて、ゲストの状態をAIが監視できるようになっています。モニターなのですよ」
マサミチはそんな風に説明した。
「お前、勝手に俺の会社を使うな」
ハラグロが返す。

「ゲストはログインと滞在時間の設定をする。それだけです。後はゲートキーパーがやってくれます。レム睡眠の丁度いい所で仮想フィールドのアバターへログインして、時間が来たらゲートキーパーが自動でログオフして連れ戻してくれるってどうですか?」

「試験的トリップの準備作業としてその人が何を求めているかっていう、それを知るためのチェックシートを作らなくちゃならないな」
セリが言った。
「それって結構な項目になるんじゃないの?」
須恵器が言う。
「でも、ある程度取れば一般化できるよね。そうすればフィールドの類型化が出来る」
セリが言った。

「ここは中世ヨーロッパ、それも東ヨーロッパの深い森。トランシルヴァニアみたいな。森の中の古い城でホラー体験とかいいわよね」
アカネが言う。
「それ、需要が少ないんじゃないかなあ」
セリが笑う。
「そんな事は無いよ。豪華なドレスを着てさ、レースの沢山付いたやつ。髪をゴージャスに巻いて、宝石を飾って」
「お姫様はその城に囚われているの。そこにイケメンで逞しい騎士達が助けに来る。彼らはお姫様に忠誠を誓う。命を懸けて姫をここから救い出すって」
「勿論お姫様はクライアントだね?」
「まあね」
「ついでに頭から頭巾を被って目だけを出した死刑執行人と戦うの」
「・・・・」
「きったない頭巾を被って、ゴリラみたいに逞しくて、でかい斧を持っている奴?」
セリが聞く。
「そう。体中傷だらけで体にぶっとい鎖とか巻いている奴」
「腰に布切れを巻いている奴だよね」
「そうそう。布を巻いている奴」
「・・・」
「それって姫様も戦うの?」
「勿論! 武器は弓矢がいいわね。ドレスの裾をびりびりと引き裂いて、腕のレースも引き千切り、甲冑を着けるの。盛り上げた髪を解いて風になびかせ・・・やだあ。ぞくぞくしちゃう!」
アカネは嬉しそうに言った。
「テンションマックス!」
「戦えるなら、さっさと一人で逃げてくればいいじゃん」
須恵器が冷めた声で言う。
アカネは興覚めした顔で返す。
「馬鹿ね。仲間が必要なのよ。RPGのお約束よ。そんなの。一人でやったってつまらないじゃないの」
「・・・」

須恵器が咳払いをする。
「ま、好みはそれぞれだけれどね。・・・・ねえ、そのグローブを使ってクライアントとAIの仲立ちが出来ないかな? チップを埋め込むよりもさ。やっぱ体への負担が大きいじゃん?」
「グローブは無理じゃね?」
「じゃあ、ヘッドホンとか?耳からの刺激で」
「ヘッドホンって眠るのに邪魔だよ」
「だからさ、柔らかい繊維だよ。繊維を・・・」
須恵器がハラグロを見る。
ハラグロは須恵器を見る。
「勝手に俺と俺の会社を使うな!」
「それなら頭全体を覆う感じの・・・」

皆がああだこうだと話をするのを幸人はぼんやりと眺めていた。
話はどこまで行っても終わりそうに無かった。
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