海 2

文字数 1,003文字

未耶はコーヒーを一口飲むと言った。
「ねえ。幸人。明日は休みだから一緒に海に行かない?」
「海か・・。随分行っていないなあ」
「昔、スラダンの映画を見に行って、その後で行ったよね。もう、随分昔だよ。ねえ、あの時のお店まだあるかしら?」
幸人は記憶を辿る。ああ、そうだ。そんな事があったな。あれは・・・未耶と結婚してどの位過ぎた頃だったか・・・。あれって季節はいつだった?
幸人は窓の外を眺める。
あれ、桜は咲いていなかったと思うけれど・・・。
すると未耶が言った。
「あれって、いつだった? 春じゃ無かったよねえ。あれは初夏だったかなあ・・・」
未耶も窓の外を見る。
「未耶の青いワンピースを覚えている。・・・白いカーディガンも」
「ノースリーブの青い花柄のやつ? そうそう。お気に入りのワンピースだった。まだどこかにあると思うけれど・・。明日は学校があるの?」
「いや、学校は無いけれど・・・」
「じゃあ、そうしよう。さて、私は行くね」
「ああ、行ってらっしゃい」

紺のパンツスーツに白のブラウス。
幸人は玄関先で靴を履く未耶を見る。
ちょこちょこと跳ねていた毛先はムースでまとめられて頭の上で鎮座している。
「今日は素敵だな。何かあるの?」
「ちょっと、研修があるのよ。その後で友達と会うの。久しぶりに」
「ああ、そうか。じゃあ今日は夕飯は要らないね」
そう言いながら幸人は未耶を眺めて考える。
金のピアスと・・・何かが足らない。何だ?
ああ、そうだ。スカーフだ。
「あれ、スカーフは?」
「え? スカーフ?」
「ピンクのスカーフがあっただろう? あれ、すごく似合っていた」
「ああ、あれね。あれは汚れちゃったから捨てちゃったの」
「えっ? そうなの? 残念」
未耶はバックを肩に掛けた。
「じゃあ、またスカーフを買ってあげるよ」
幸人が言って、未耶はにっこりと笑った。
「うん。有難う」

「幸人、今日の夕飯は?」
「あ、俺、今日はオフ会があるから。夕方から出かける」
「そっか。じゃあ丁度いいね」
未耶がドアから外に出る。幸人はふと思い出して声を掛けた。
「未耶。スマホは?」
未耶はバックの中身を確認してスマホを取り出した。
「大丈夫。じゃあ行って来ます。昨日はあれから仕事をしたのでしょう?」
「うん。少しね。今から少し眠ってから、仕事をするよ」
「そう。幸人。寝過ぎてはダメよ」
「うん。分かっている。行ってらっしゃい。気を付けて」
「行って来ます」
未耶はそう言ってドアを閉めた。
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