かえるの王子さま 第1話

文字数 1,000文字

俺の好きな子

 俺の好きな子は雨宮ハナ。


 小学六年生で同じクラス、真面目で人当たりの良いハナは友人も多く、先生からの信頼も厚い。クラスでは学級委員をやっている。

 ちょっと天然で夢見がちなところがあるけれど、それがまたわかいい。


 家が隣り同士で歳も一緒、親も仲が良いので生まれた時から家族ぐるみの付き合いだ。だから何をするのも、どこにいくのもハナとは一緒。彼女を好きになるのはごく自然な流れだった。


 ところが、ある日彼女は恋をした。

 その相手は『かえるの王子さま』

 絵本でもゆるキャラでもない、現実の人間。

 そして紛れもないこの俺なのだ!!


 しかし彼女はその事実を知らない。そして俺もあれが自分だとは言いたくはない。悲しいことに俺のライバルは自分自身だったのだ。


 * * *


 学年が上がれば上がるほど、恋愛絡みの話がよく上がる。うるさいと思いつつも気になってしまうのがお年頃。本日も寝たふりをしながら好きな子の話しに聞き耳を立てていた。


「で?ハナは誰か気になる人とかいないの?」


「え?いるよ」


「!!誰?誰?同じクラス?」


 話をふった女子三人がハナの話しに飛び付いた。ハナは相変わらず淡々と、


「違うよ、かえるの国の王子さま」


 などと言うものだから、

 女子達は肩を落としてため息をつく。


「また物語の話?あんたもそろそろ現実見なさいよ。もうすぐ中学にあがるんだよ」


「やだなー、私ちゃんと現実見てるよ。かえるの王子さまは現実にいるの!ね!たっちゃん!」


「!!」


 机にうつ伏せになっている俺をハナがぐらぐらと揺さぶる。頼むからほっといてほしい。しかし、これは起きないわけにはいかない。


「またその話かよ、幼稚園の時にかえるの王子さまを名乗る男の子に助けられたってやつだろ?」


「何それ、気持ち悪っ」


 速攻の『気持ち悪っ』ありがとうございます。

 ま、普通その反応ですよね。しかも女子に面と向かって言われるとマジへこむ。

 これだから俺だって正体を明かせない。

 こんなことになったのも『若気の至り』であって、俺にとっては『黒歴史』なんだ。ハナが今でも好きだと言ってくれてるのはありがたいけど「あれは俺だ!」などと恥ずかしくてとても言えないぞ。


「かえるの王子さまは気持ち悪くなんてないからちゃんと話聞いて!」


 こうしてハナの初恋話が始まった。

 俺はこの話を何度も付き合わされている。何十回……いや百は越えているのかもしれない。



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