猫の手を借りた結果、オレに彼女が出来ました

文字数 1,091文字

 猫の手を借りた結果

 真夏の炎天下、オレは家の畑で草むしりをしていた。とにかく暑い、汗が滝のように流れ落ちる。陰キャでアニオタのオレに、この作業は向かない。

「陽一、忙しそうだね」

 顔をあげると道路には春菜がいた。春菜は隣に住む幼馴染み。中学までは一緒につるんでいたが、高校が違う今では、会うことがなくなっていた。

「おぅ春菜、卒業以来だな。四ヶ月ぶりか?」

「だねー、陽一は学校なれた?」

「まーねー、趣味の合う奴がいて今度一緒に聖地巡礼の旅するんだ。今はその旅費を借りる為に親の手伝いをしてるわけよ」

「えー、聖地巡礼?楽しそう!どこ、どこに行くの?」

 春菜もアニメが好きでオレと話が合う。オレは草むしりの手をとめ春菜に近づいた。炎天下の暑さがが気にならないくらい、時間がたつのが早かった。

「あ、やべ。バイトの時間だ!」

「陽一バイトしてるの?」

「あ、あぁ、駅前のコンビニで。色々活動費用かかりますからね。あー草むしり全然すすまなかったわ……」

「……ごめん邪魔して」

「春菜のせいじゃないよ。オレ、春菜と話すの楽しくてつい長くなる。でもまだまだ話したりないくらいさ」

 そう言って笑うと、春菜は下を向いてしまった。何か気にさわることでも言ったかな?

「……あ、あのさ、陽一、ちょっと猫の手を借りてみたりしない?」

 そう言って春菜はオレに提案をしてきた。それは自分が畑仕事をやる対価として、オレに『彼氏』になってもらいたいというものだった。勿論恋愛どうの~とかではない。女子高生の間では愛だ恋だとそんな話が必須らしい。なので、みんなに話を合わせるためにオレを彼氏(仮)にしたいのだと。

「……だって陽一黙ってたら見た目いいし、写真だけだから、お願い!」

「それ、褒めてんの?……でも、畑仕事はマジで助かるけど」

「はい、契約成立!ほら写真撮るよ~」

 パシャ

 その日、四ヶ月ぶりに会った幼馴染みが、写真の中で彼女になった。春菜は約束通り畑仕事を全て手伝ってくれた。おかげで親から旅費も借りれて、聖地巡礼の旅が楽しめた。秋には親への借金も返済し、すべてが順調だった。

* * *

「で、あんたらいつ結婚するの?」

 母親の一言が重かった。

「もーやだーお義母さんったら、急かさないでくださいよぉ!私達、まだ高校生なんだから~」

 春菜は『彼女』という設定を学校だけでなく、全てにしていた。母親は春菜を未来の嫁として扱い、春菜の両親もオレを婿としてみている。先日の中学の同窓会でも、オレの知らない話が訳のわからぬ方向へと広がっていた……。

 地盤が固められている。


 猫の手を借りた結果、気付いたらオレ、嫁が出来てました……

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