砂糖菓子

文字数 1,278文字

 許されない恋

『許されない恋』
 閉鎖された女子校で

、まるで甘いお菓子のようなもの。


 恋に恋する高校生。


 校外で彼氏を見付ける人もいれば、先生と恋に落ちる人もいる。現にこの学校の男性教師の大半は、元生徒の妻がいる。若いのから年寄りまで、呆れてしまう現実がある。

 実際に生徒をそんな目で見ている先生は多い。


 私はまだ恋を知らない。興味がないわけではないが、特定の誰かといるよりも、友達と遊ぶ方が楽しいからだ。


 だからこれも、友達との遊びのつもりだった。


※※※


「科学の井上先生、彼女いるんだって。なんでも彼女さん、山登りが趣味らしいよ~」


 すみれが嬉しそうに話しをしてきた。井上先生は私達の科学を受け持っている。三十代前半の、真面目だけが取り柄の眼鏡教師。すみれと私は、比較的同じ教科なので教師もほぼ同じ。しかし、井上先生は合唱部の副顧問も兼ねている。部員であるすみれの情報は、もはや記者並み。


「彼女さんいるんだー。すっごくお堅そうなのにね。先生告白出来たんだー。意外」


 そう、井上先生はお堅いのだ。女子高生に色目を使う他の男性教員とは格が違う。全身に『真面目』と書かれていそう。

 だから少し残念な感じがした。


 彼女か、きっと先生は彼女さんに一途なんだろうな。


 別に恋とかしてた訳ではないけれど、憧れに近いものはあったかな。硬派な感じとか理想だしね。


 すると、突然すみれが提案を出してきた。


「ね、先生を好きな女子高生になろうよ」


 設定『恋に落ちる女子高生』


 恋人がいる人ならば、絶対に振り向かないという安心感がある。そうだよね、彼女さんがいなかったら出来ないけど、いるなら『恋してる女子高生』をしてもいいよね。

 これには興奮した。あくまでも『演技』なのだ。演じればいいのだから。


 それから私は、すみれと二人で『先生に恋をする女子高生』を演じた。

 演じるといっても、おふざけ半分。「センセー!好きー」とか、先生を見付けると駆け寄るとか。いままで出来なかったこともやってみた。もちろんすみれも一緒だから、真面目な方には絶対に行かない。先生も「お前らなー」と言いながら、私達に付き合ってくれた。たまに叱られたりもしたけれど、それもまた楽しかった。



 楽しい時間。


 少しだけ素直になれる時間。


 でも、それは演技の時間。


 それも卒業と共に終わり。


「先生、彼女さんとお幸せにねー。浮気とか駄目だよ」


 大好きだった井上先生に、最後のお別れをした。いつも怒って笑って「お前らー」と言ってくれたのに、なんでそんな顔なんだろう。先生の真面目な顔なんて、授業中しか知らないよ。


「なんだよ、本気じゃなかったのかよ……」


 先生のつぶやきが小さく胸に刺さった。


「ほら、もう帰れ帰れ。お前らも進学先で頑張れよ!」


 いつもの先生の口調に戻っていた。私達は『演技』を続けながら先生に手を振る。


 あの時の先生は何だったの?もう一歩踏み出してたら、恋に発展出来た?彼女さんと別れて私を選んでくれたとか?


 こんなことを考える私は、本当に演技だったのだろうか……


 許されない恋

 それは癖になる甘さだ。
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