恋する山田と無自覚タラシの高橋さん9

文字数 1,096文字

 特別

「山田ー、この菓子美味いか? まだまだあるぞ たんと食べろー」

 教室に響く浮かれ女子の声、
 私は今何を見せられているのだろうか。
 山田を取り巻く3人の女子が袋菓子を持ち、代わる代わる山田に与えている。

 山田も山田だ、口を開けてパクパクと食べている。そう、まるで池の鯉のように! お前に人間のプライドは無いのか!

「あはは、思った通り山田めっちゃかわいい。インチョーがお菓子あげてるの見てあたしもやりたくなったんだー」

「山田って黒目が大きいから何か動物っぽいよね。猫? 犬かなー?」

 ハムスターだっちゅうのーーーー!!
 山田は可愛いが今は腹立たしい。とにかく1回外の空気を吸って頭を冷やそう。

 私が席を立つと、

「インチョー、今日のおやつは?」

 山田がいつものように下から見上げる。くりくりお目々で、おねだりお目々で。

「それだけ食べたら入らないでしょ」

 そう言って歩き出すと取り巻きの1人が声をかけた。
 
「あ、インチョー怒ってる? ごめん、もしかして2人って付き合ってた?」

 !!

「「つきあってない!」」
 
 山田も同時に否定した。自分も言ってるけど、相手に言われると数倍腹立たしい。間違っていないけど!

 私はそのまま教室を出た。出たはいいけど目的もないし、どんな顔して戻ったらいいのかもわからず、夕方まで保健室で過ごした。
 らしくない……

「……山田はあたしの特別なのに……」

 どうにもならないことを口にした。


***

 次の日の中休み、相も変わらず女子達が山田の回りに集まった。

「山田ー、今日はチョコボー……」

 目線が山田の上に集まる。だろうね、そこからだと背後にいる私が目に入るから。気付いてないのは山田だけ。私は山田の後ろから手を回して山田の口を塞いだ。

「……!!」

 山田振り向く……が、それは阻止! 強引に顔を前方へ向ける。多少嫌な音がしたけど気にしない。今は顔を見られたくない。

「この口はあたしのもんだ」

 ちょっと声が震えたかもしんない。でも、山田には聞こえたはず。心なしか手が熱い。山田、黙ったまま小さく頷いた。
 それを見ていた取り巻き女子は呆れ顔で去っていく。

 その後も更に振り向こうとする山田。それはもちろん阻止! ────また嫌な音がした。

「……こっちを見るのは禁止だ」

 今の自分はとんでもなく恥ずかしい顔をしている。それだけはわかる。だから顔は会わせられない。
 私はポケットから小袋を取り出すと二人羽織状態で山田におやつをあげた。今日のおやつはカシューナッツ。たまに穴を間違えるけど、塩味ついて美味いと思うぞ。//////



 ─────その日私は、
 山田の口の独占権を手にいれた。




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