かえるの王子さま 第2話

文字数 1,026文字

かえるの王子さま①達男

 幼稚園の終わり時間。

 教室には迎えのない俺だけが残されていた。


「あ、達男くんお父さん来たからお靴履こうか」


 先生に言われるがまま外へと出ると、正門が目に入った。いつもは閑散としているはずの場所が、なぜかその日に限って賑わっていたのだ。

 外は大雨。色鮮やかな傘がたくさん集まって、それはまるでアジサイようにも見えた。

 実際にあじさいだったらかえるがいるのにな、やっぱりアジサイにはアマガエルが一番似合う。

 などと考えていた。


 かわいい……汚いからやめなさい……触らないの……飼いたい……うちじゃ飼えないから……

 正門の方からそんな声が聞こえてくる。

 何かいるのかな?


「遅くなってすいません山口です」


 息を切らせた父ちゃんの声がした。父ちゃんはヘルメットを片手に持って頭以外はびしょ濡れだった。


「妻が来れなくなったので代わりに迎えに来ました」


「山口さん、時間は過ぎていないので大丈夫ですよ。それより、この雨の中バイクですか?」


 不安そうな先生の目に慌てる父ちゃん。


「あ、帰りは乗りませんよ!転がして歩いて帰ります。家すぐそこですし」


「そうですか、なら安心しました。ずぶ濡れのようなので、風邪をひかぬよう気を付けてくださいね」


 父ちゃんがそんなやり取りをしていても、俺はずっと外が気になっていた。先程まであった傘の群れがどんどん減っていく。一つ減り、二つ減り、ついには傘がひとつになってしまった。


 あのピンクの傘は見覚えがあるぞ、まるで色素異常のアルビノアマガエルの色、ハナの傘だ。

 ハナはうずくまり、ダンボール箱の隣にいた。

 その箱からは子猫の姿が見え隠れしている。

 捨て猫?


「父ちゃん、これ借りるよ!」


 俺は父ちゃんのフルフェイスヘルメットを奪い取った。


「え?達男?」


「大丈夫!ボク、ハナと歩いて帰るから!父ちゃん後から来て、先生さよーならー」


 そう叫んで正門へと走った。


「え?あ、ちょっと達男……」


「はい、さようなら。また明日ね」



 フルフェイスならば顔がバレない。


 俺はその時ハナのヒーローになろうとしていた。顔を隠すのは、当時好きだった戦隊ヒーローを真似たつもりで、ほんの軽い気持ちだった。まさかそれが十年近くも引きずることになるとは、この時は全く思っていなかった。後悔先に立たずとはこのことなんだな。


 俺はフルフェイスヘルメットをかぶり、ハナの前に颯爽と現れた。

 見ろ!俺、かっこいいだろ!!

 とばかりにポーズをきめこんだ。




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