ミニシアターで恋をして

文字数 947文字

お題 『ミニシアターで恋をして』

これは恋かもしれない

 大学が夏休みになり、俺は映画館でバイトを始めた。

 映画館といっても雑居ビルに入ってる地元のミニシアター。土日や映画の日でない限り意外と空いている。平日は5~6人なんて日もザラだった。

 平日は暇なので人間観察を楽しんだ。プレゼント鑑賞券で来る主婦。なぜかスーツ姿のおじさん。幼稚園帰りの子供を連れたお母さん。仲の良い老夫婦など。見てて飽きない。そんな中、顔を覚えた客がいる。

 『水曜日のキミ』

 俺が勝手につけたアダナだ。
 毎週水曜日のレディースデーに彼女はやってくる。20代前半の社会人……だと思う。いくらレディースデーだといっても、毎週映画を観るのはお金がかかるぞ。しかも同じ映画を何度も観て楽しいか? そもそもこの映画はそんなに面白いのか? 気になってこっそりと観てみた。なんてことない普通の恋愛映画だった。まー、良かったけど、そんな何度も観るものでも無いかな? この俳優さんが好きなのかな? などと勝手に想像を膨らませていた。

 そしてまた水曜日。
 エレベーターを見つめ、彼女を探した。
 もう恋なのかもしれない。
 そう思うと鼓動が早くなった。

 落ち着け、落ち着け、
 大きく深呼吸ーー!!

 ポン
 
 エレベーターの到着を知らせる音と共に彼女が現れた。

「大人1枚ください」

「はい、1200円です。……あの、毎週来られますよね。この映画お好きなんですか?」

 他に客がいなかったので、勇気を出して声をかけた。彼女はちょっと驚いてはいたが、恥ずかしそうに答えてくれた。

「あ、わかっちゃいました? えっと、映画はそんなに好きではないです……」

「へ? 好きじゃないんですか?」

 意味がわからなかった。好きでもないのに毎週お金を出して観る意味は?

「はい、映画は好きじゃないけど……その、言いにくいのですが、好きなんです」

 彼女はうつ向いて頬を赤く染めた。
 こ、これは告白?
 もしかして両思い⁉️

「わたし……映画泥棒が好きなんです!!」

「は?」

「きゃー、人に話したの初めてです。『映画泥棒』私の推しなんです!」

 彼女は映画が始まる前に流れる映像、『ストップ映画泥棒!』が好きなのだそうだ。

 へーーーーーー(゜ロ゜)

 俺のひと夏の恋はこうして終わりを告げた。

 
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