【Tー④】だから俺は示してみせる
文字数 3,632文字
「ッッ…………!?」
脳内に浮かぶ驚愕はその光景を見せ付けられて、なのだろうか。
「ガガ……アアッッ…………!!」
俺の不安定なオドを纏ったパイプを視界に収めた異物は、未だその距離を詰められずにいる。
まるでこ れ を恐れているかのように────
『──だが好都合だ……っ!!』
願ってもない状況。
具体的な理由は定かでは無いが先程まで猛威を奮っていた異物は事実、その活動を収めている。
この機を逃す手は無い…………!!
覚束無くなり始めている両足を奮い立たせ、そちらへ向き直る。
「…………っっあああぁぁ!!」
もはや自らに施したエンチャントの効果も無くなってきている。
辛うじて保っている結界も、いつまでもつかわからない。
残された自身の力を絞り、自然に口から漏れた号と共に異物へ駆けた。
握り締めた長物が望む振り方など知りもしないし、俺が通したオドがどの様な結果をもたらすのかも予想は付かない。
だが。
何をするにせよまずはあの異物……、彼 を沈黙させなければならない。
「──だああっっ!!」
いよいよ目前まで届いた彼の両足を狙い、思い切り横からパイプを振りかぶる。
その時にあっても、彼は狼狽えの様子を携えたままだ。
『いける…………っっ!!』
そう確信し。
自ら奮った獲物が、その目標の寸でまでいったところで────
────彼は、口角を上げ不気味に笑みを浮かべた。
「──!!──が────!?」
そこまでで、俺が視認していた景色は途切れる。
光の差す窓際に垂れ下がるブラインドを、一気に閉じるような。
同時に響き渡るのは、側頭部を襲う異常なまでの衝撃と爆音。
そもそも、俺の視界を途 切 れ さ せ た のはコレのせいなのだと後から理解した。
「ぐっっ……あ……あああっっ!!」
未だ広がる事の無い景色を他所に、自身の体の至る所に何かがぶつかる感触を覚えた。
……違う。
俺は何かの衝撃を受けてそのまま地面を転げている。
その衝撃の詳細はすぐにわかった。
「っっあ……っっ……!!??」
強烈な目眩と吐き気、そして激痛。
少しでも気を許せばすぐにでも意識を刈り取られそうになる。
その出処は、先程の側頭部から。
軋む瞼を何とか開き、鈍い赤色に染められ歪む視界から正面を覗き見る事に努める。
…………そこには。
右足を高々と掲げ上半身を捻り、凡そ蹴 り を放ったと推測される姿の彼が先へ佇んでいた。
『騙された …………ッッ!!』
その瞬間に浮かべていた不気味な笑みを携えたままこちらを覗く彼に。
俺は、自らの浅はかさに舌打ちをした。
……彼は俺のオドを恐れていたわけではない。
この時の為の仕込みをしていただけで、俺はそれにまんまと乗ってしまったのだ。
「くっっ……そ……!!」
歪む景色と自らの意思に拒絶の様を見せる体は、俺を再度地に立たせようとはしない。
「ガァァァアアアアア……!!!!」
その無様な姿を確認し、彼はずしゃりと足音を立てながらこちらへ近付いてくる。
──だめだ…………ッ!!
その局面にあっても尚、俺の体は言う事を聞こうとしない。
目前に迫る彼を前に、芋虫の様にずるずると蠢く事しか許されなかった。
「ガガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
いよいよ目と鼻の先までやって来た彼は大きく足を上げ…………恐らく。
……俺を、踏み付けようとしている。
アレが振り下ろされたら、ひとたまりもない。
『…………ここまで、か』
俺が心中でそう呟いた時に。
────生まれて初めて、走馬灯というものを体感した。
広がる草原は、定量の風に煽られ揺れ続け。
浴びる光は、無機質な明滅を繰り返している。
見上げる【そら】は決して伸び続ける事は無く、その景観は人工的な姿を為していた。
俺はそ の 場 所 で、ただ一人佇む。
次いで現れるのは、トラさんや社長達。
何も知らぬ俺を暖かく迎え入れ、こ こ での生きる意味を──
「ガッガッガァァアア……アアア……ッッ!?」
──そこで俺の走馬灯は止まる。
それを途切れさせた要因は、目の前の彼から発せられた音が…………
「ア……ア……ッッ!!!! オ…………ッッオレの部下に何してやがんだゴラアアァァァァッッ!!!!!!!!」
……紛れも無い、彼 そのものだったからだ。
「な……っっ!? ト、トラさ──」
「アアアアアアアアアアアアアーーッッ!!!!!!!!」
頭を抱えながら咆哮を上げる彼の声は、また異 物 だった時のモノと入り交じる。
「トラさん!! ……トラさんっっ!!!!」
「アアああ……ッッガアアアあああアア……!!!!!!」
まるで俺の呼び掛けに応えるように、目まぐるしくその音を変えていく。
その様は────
「ざケんな……!! ざけんなァぁ!!!! クソがアァアッッ!!!!!! ……龍宮はやラせねェ……!!!! テメェの好キにさせてたまルかァアアアア!!!!!!!!」
────彼自身の戦 い を体現させていた。
「イッッイまだ……ッッ!!!! タツミヤ……ッッ!!!!」
そしてその瞳に確固として携えているものは、紛れも無い────覚悟。
彼はそ の 状 態 にありながら。
自らの命を懇願するわけでもなく。
生じた事象を嘆く訳でもなく。
何より先に選んだのは────
「ニゲろッッ……!!!! ニゲロォオおおオオオオーーッッ!!!!!!!!」
────俺を、守る事だった。
「トラさん」
「ガッッ……アッッ……!?」
「その命令は聞けません」
「……タツ……ミヤ…………ッッ!?」
自身から、意を介さず漏れた言葉は……目の前のかけがえのない存在へ向けて。
次いで、俺の意思に対し未だ駄々をこね続ける体の全てに命令を降す。
────立て
彼を助けるんだ
何が異物だ
腹をぶち抜かれた
脳天をかち割られた
知ったこっちゃない
ふざけるな
そ ん な モ ノ が、俺がやりたい事の邪魔をするな
人 間 が こ こ ま で の 覚 悟 と 誇 り を 見 せ て い る
そ れ に 応 え な い な ど と 無 様 な 真 似 を
出 来 る わ け が な い だ ろ う が
俺はこ こ で生きていくと誓ったんだ
取り巻く全てが理解へと及ばない、あの異 世 界 とも呼べる場所から
この世界で────
「────ぁぁぁあああああッッ!!!!!!!!」
そ の 手 順 を今一度改める。
強固にと願いを受けたイメージは、マナを通すことによってある程度その姿を決定付けられる。
ある種そ う い う も の として体現させられるヤマトは、自然と行使するに不自由のないモノへと変貌を遂げる。
────真空の刃をイメージすれば。
そ ん な モ ノ を扱った事が無くとも望む結果へと導かれていく。
行けと願えば目標に向かい、留まれと願えば停止する。
────氷の弾丸をイメージすれば。
そ ん な モ ノ を扱った事が無くとも望む結果へと導かれていく。
撃ち抜けと願えば目標に向かい、戻れと願えば踵を返す。
だがそれはマ ナ を介した時にのみ反映される事象であり、オ ド を使用する際はその限りでは無い。
より鮮明に発現を求めなければ、その願いは形を作る事は無いだろう。
……故に、俺のオドを介したヤマトは不安定だ。
いざ形にすればしようとする程抜け落ちていく要素は、そのイ メ ー ジ を確実に崩していく。
こ ち ら に来て、なおさらその傾向が顕著に現れている。
「ガッガガ……ッッ!! アアアアアア!!!! タツミヤァァァァ!!!!!!!!」
そこへ一瞥をくれる。
もしかしたらこれが彼を望める最 後 のタイミングかもしれない。
その光景を後目に、俺は望む願いを象らせ続け。
それは霧散していくカケラを経由させる事は無く────
────完 全 に イ メ ー ジ 出 来 る モ ノ で あ れ ば 何 の 問 題 も 無 い という事。
────────────
──────
────もはやそ の 男 に、人間の言葉を呈する事は叶わない。
その体に纏うものは。
白銀の鱗に真紅の瞳、巨大な尻尾に大きく開かれた翼。
その威風は、並の存在程度など眼前に立つことすら許さないだろう。
男がひと鳴きすると、その場全体が地響きを上げ呼応を始める。
それは人間でいうところの、ただの呼吸。
そこに意識を向ける事さえしない程度の所作ですら、この地は唸りを上げずにはいられない。
男の前に立ち塞がっていた異物なるモノは、現れたその存在にただ目を傾けるしか出来ない。
その時異物にまだ彼の意識が残っていたとしたら、恐らくはこう称す。
────龍 、と。
龍は異物を見定め、その口を開く。
そこから生まれた淡い光を携えた炎は渦を巻き、ひとつの巨大な火球へと変貌を遂げていく。
渦はぴたりと止まり、口元に携えた火球は異物へと放たれる。
為す術もなくそのまま炎に包まれる異物は、そのあまりの輝きに姿を眩ませた。
…………程なくして。
消失していく炎の中から再度現れた存在は、異物ではなく彼 の姿でその場に倒れ込んだ。
龍はそれを見届けると同時に体を丸め、その存在を収縮させていく。
───そして。
龍 から男 へと姿を戻した彼もまた、そのまま倒れ込んだのであった────
脳内に浮かぶ驚愕はその光景を見せ付けられて、なのだろうか。
「ガガ……アアッッ…………!!」
俺の不安定なオドを纏ったパイプを視界に収めた異物は、未だその距離を詰められずにいる。
まるで
『──だが好都合だ……っ!!』
願ってもない状況。
具体的な理由は定かでは無いが先程まで猛威を奮っていた異物は事実、その活動を収めている。
この機を逃す手は無い…………!!
覚束無くなり始めている両足を奮い立たせ、そちらへ向き直る。
「…………っっあああぁぁ!!」
もはや自らに施したエンチャントの効果も無くなってきている。
辛うじて保っている結界も、いつまでもつかわからない。
残された自身の力を絞り、自然に口から漏れた号と共に異物へ駆けた。
握り締めた長物が望む振り方など知りもしないし、俺が通したオドがどの様な結果をもたらすのかも予想は付かない。
だが。
何をするにせよまずはあの異物……、
「──だああっっ!!」
いよいよ目前まで届いた彼の両足を狙い、思い切り横からパイプを振りかぶる。
その時にあっても、彼は狼狽えの様子を携えたままだ。
『いける…………っっ!!』
そう確信し。
自ら奮った獲物が、その目標の寸でまでいったところで────
────彼は、口角を上げ不気味に笑みを浮かべた。
「──!!──が────!?」
そこまでで、俺が視認していた景色は途切れる。
光の差す窓際に垂れ下がるブラインドを、一気に閉じるような。
同時に響き渡るのは、側頭部を襲う異常なまでの衝撃と爆音。
そもそも、俺の視界を
「ぐっっ……あ……あああっっ!!」
未だ広がる事の無い景色を他所に、自身の体の至る所に何かがぶつかる感触を覚えた。
……違う。
俺は何かの衝撃を受けてそのまま地面を転げている。
その衝撃の詳細はすぐにわかった。
「っっあ……っっ……!!??」
強烈な目眩と吐き気、そして激痛。
少しでも気を許せばすぐにでも意識を刈り取られそうになる。
その出処は、先程の側頭部から。
軋む瞼を何とか開き、鈍い赤色に染められ歪む視界から正面を覗き見る事に努める。
…………そこには。
右足を高々と掲げ上半身を捻り、凡そ
『
その瞬間に浮かべていた不気味な笑みを携えたままこちらを覗く彼に。
俺は、自らの浅はかさに舌打ちをした。
……彼は俺のオドを恐れていたわけではない。
この時の為の仕込みをしていただけで、俺はそれにまんまと乗ってしまったのだ。
「くっっ……そ……!!」
歪む景色と自らの意思に拒絶の様を見せる体は、俺を再度地に立たせようとはしない。
「ガァァァアアアアア……!!!!」
その無様な姿を確認し、彼はずしゃりと足音を立てながらこちらへ近付いてくる。
──だめだ…………ッ!!
その局面にあっても尚、俺の体は言う事を聞こうとしない。
目前に迫る彼を前に、芋虫の様にずるずると蠢く事しか許されなかった。
「ガガアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
いよいよ目と鼻の先までやって来た彼は大きく足を上げ…………恐らく。
……俺を、踏み付けようとしている。
アレが振り下ろされたら、ひとたまりもない。
『…………ここまで、か』
俺が心中でそう呟いた時に。
────生まれて初めて、走馬灯というものを体感した。
広がる草原は、定量の風に煽られ揺れ続け。
浴びる光は、無機質な明滅を繰り返している。
見上げる【そら】は決して伸び続ける事は無く、その景観は人工的な姿を為していた。
俺は
次いで現れるのは、トラさんや社長達。
何も知らぬ俺を暖かく迎え入れ、
「ガッガッガァァアア……アアア……ッッ!?」
──そこで俺の走馬灯は止まる。
それを途切れさせた要因は、目の前の彼から発せられた音が…………
「ア……ア……ッッ!!!! オ…………ッッオレの部下に何してやがんだゴラアアァァァァッッ!!!!!!!!」
……紛れも無い、
「な……っっ!? ト、トラさ──」
「アアアアアアアアアアアアアーーッッ!!!!!!!!」
頭を抱えながら咆哮を上げる彼の声は、また
「トラさん!! ……トラさんっっ!!!!」
「アアああ……ッッガアアアあああアア……!!!!!!」
まるで俺の呼び掛けに応えるように、目まぐるしくその音を変えていく。
その様は────
「ざケんな……!! ざけんなァぁ!!!! クソがアァアッッ!!!!!! ……龍宮はやラせねェ……!!!! テメェの好キにさせてたまルかァアアアア!!!!!!!!」
────彼自身の
「イッッイまだ……ッッ!!!! タツミヤ……ッッ!!!!」
そしてその瞳に確固として携えているものは、紛れも無い────覚悟。
彼は
自らの命を懇願するわけでもなく。
生じた事象を嘆く訳でもなく。
何より先に選んだのは────
「ニゲろッッ……!!!! ニゲロォオおおオオオオーーッッ!!!!!!!!」
────俺を、守る事だった。
「トラさん」
「ガッッ……アッッ……!?」
「その命令は聞けません」
「……タツ……ミヤ…………ッッ!?」
自身から、意を介さず漏れた言葉は……目の前のかけがえのない存在へ向けて。
次いで、俺の意思に対し未だ駄々をこね続ける体の全てに命令を降す。
────立て
何が異物だ
腹をぶち抜かれた
脳天をかち割られた
知ったこっちゃない
ふざけるな
俺は
取り巻く全てが理解へと及ばない、あの
この世界で────
「────ぁぁぁあああああッッ!!!!!!!!」
強固にと願いを受けたイメージは、マナを通すことによってある程度その姿を決定付けられる。
ある種
────真空の刃をイメージすれば。
行けと願えば目標に向かい、留まれと願えば停止する。
────氷の弾丸をイメージすれば。
撃ち抜けと願えば目標に向かい、戻れと願えば踵を返す。
だがそれは
より鮮明に発現を求めなければ、その願いは形を作る事は無いだろう。
……故に、俺のオドを介したヤマトは不安定だ。
いざ形にすればしようとする程抜け落ちていく要素は、その
「ガッガガ……ッッ!! アアアアアア!!!! タツミヤァァァァ!!!!!!!!」
そこへ一瞥をくれる。
もしかしたらこれが彼を望める
その光景を後目に、俺は望む願いを象らせ続け。
それは霧散していくカケラを経由させる事は無く────
────
────────────
──────
────もはや
その体に纏うものは。
白銀の鱗に真紅の瞳、巨大な尻尾に大きく開かれた翼。
その威風は、並の存在程度など眼前に立つことすら許さないだろう。
男がひと鳴きすると、その場全体が地響きを上げ呼応を始める。
それは人間でいうところの、ただの呼吸。
そこに意識を向ける事さえしない程度の所作ですら、この地は唸りを上げずにはいられない。
男の前に立ち塞がっていた異物なるモノは、現れたその存在にただ目を傾けるしか出来ない。
その時異物にまだ彼の意識が残っていたとしたら、恐らくはこう称す。
────
龍は異物を見定め、その口を開く。
そこから生まれた淡い光を携えた炎は渦を巻き、ひとつの巨大な火球へと変貌を遂げていく。
渦はぴたりと止まり、口元に携えた火球は異物へと放たれる。
為す術もなくそのまま炎に包まれる異物は、そのあまりの輝きに姿を眩ませた。
…………程なくして。
消失していく炎の中から再度現れた存在は、異物ではなく
龍はそれを見届けると同時に体を丸め、その存在を収縮させていく。
───そして。