【Lー①】回帰、リコリス
文字数 4,046文字
──じじ、と音が鳴った。
煩わしさよりも疑問が先に過る。
音の所在は、自身の頭の中にあったからだ。
『……ノイズ?』
例えるならば、そ れ 。
思考を巡らせると同時に、別の聞き慣れた音が頭上から響いた。
……ノ イ ズ に抱いたほんの少しの疑問はいとも簡単に掻き消され、音の出処へ視線を移す。
まるでこの大地を守る様に……或いは、覆い隠す様に。彼方まで伸びるドーム状に象られたそれは、歪に備え付けられた電灯を明滅させていた。
端々のシリンダーやギアがぎしぎしと唸り、摩擦と駆動を繰り返している。
人々が【そら】と形容するそこは。
定刻を迎え、オレンジ色に染められた夕暮れから少しの照明が許す夜の姿へと、無骨な変貌を遂げていた。
……私は、この音があまり好きではない。
加え、【そら】という呼び名にも違和感を覚えたままだ。
きっとそれは──
「……!!」
三度 意識を逸らされ、【そら】から眼前へと視線を戻す。
先刻に過った要素は音であったが、今回のそれは……明確な気 配 だった。
『まるで時報みたいだね』
などと。
脳内で軽口を叩いている内に、戻した視線の先にある気 配 は確かな存 在 へ昇華を果たそうとしていた。
蠢いているモノは、無形の黒。
精巧な絵画に一滴の墨汁を垂らすように、目の前に広がっていた草原はひとつのイレギュラーによってその景観を崩す。
自らの意識を臨戦へと移行させ──
──それに呼応するかのように、黒いモノも私へ疾駆する。
「んっ──!!」
思わず息を漏らした要因は、余りにも判り易い敵 意 を伴った衝撃の所為。
その黒いモノと私を隔てているのは、一振の木刀。
柄を強く握り直し、下半身を捻りながら横へ薙いだ。
どさりと地面へ打ち付けられた黒いモノは、声を上げるでも無くこちらへ向き直る。
──向き直る。
そう表現した理由は、いつのまにか黒いモノが四肢を携えた獣のような風貌へ変化していたからだ。
『小型犬は結構好きだけど……』
獣 と化した黒いモノの姿を他で模すが……しかし。
見立てた比喩の対象は、愛玩を手向けるだけの疎通が難しいのではと考える。
「──っっ!!」
余計な思考を黒い獣が遮った。
前足の爪をチラつかせながら、先程よりもさらに疾くこちらへ飛び込んでくる。
寸でのところで身を翻し、犠牲となったのは頬の薄皮一枚で済んだ。
滲む血を無視し、後方の獣へ。
──今度はこちらから踏み込んだ。
意外、とでも思ったのか。
ほんの一瞬獣はたじろぎを見せた。
「──ふっっ!!」
その遅延を利用しない手は無い。
呼吸と共に振るう得物が目指す箇所は、大地に佇む獣に対し深く下 へ。
……ぐちゃりと。
不快な音を伴いながら、柄を握った手から成 功 の感触が伝わる。
獣の顔──と思わしき箇所──が、初めて歪みを見せる。
その体を支えている四つの足のうち、前足二本の稼働を遮った。
声を上げるでも無く。
獣は、逆 く の 字 と化した足をバタつかせながら──
──それでも尚こちらへ敵意を向けてくる。
「……っっ」
たじろぎの様を見せたのは、今度は私。
せめて黒 い モ ノ のままでいてくれたら……などと考えたところで、オブラートに包んだエゴを払拭した。
獣が向けるのは敵意のみ。
意識に呼応する体は、その指令を全う出来ずにいた。
私は──
木刀を握り直し、意を放ち続ける獣の頭を目掛け……
『ごめんね』
──贖罪にもならない陳腐な言葉を浮かべながら、そのまま腕を振り下ろした。
────────────
──────
──
「はあ……」
溜め息が漏れた、それも無意識に。
被っているのは、少しの土埃と頬の僅かな傷だけ。
しかし、歩を進める足は何となく重さを感じていた。
『……どのくらい時間が経ったのかな』
未だ夜の姿を保ち続けている【そら】は、鈍い光を無機質に灯したままだ。
僅かに吹いている風は私を撫で続け、根を張る木々の枝や雑草はそれに合わせゆらゆらと揺れていた。
「……お腹空いた」
情景とは裏腹に、否が応にも体は反応を示す。
そういえば今日は朝から何も口にしていなかった気がする。
……いよいよ、腹の虫が主張し始めた時。
歩を進めていた足元に、何かがぶつかった。
『これは……』
拳程のサイズを見せるそれを拾い上げる。
その表面は程良く焼き色が付き、鼻を通る香ばしさは芳醇を感じさせるには容易い。
まさか幻を見るほど自らが枯渇していた……訳では無いと確認する。
手に取ったそれは、パンだった……なぜか裸の状態の。
『おいしそうだけど、さすがに拾い食いは……』
などと心の中で宣っている内に、ふと前方へ戻した視線の先で別の物を見つけた。
「……靴?」
片方だけぽつりと転がっているが、それだけではなかった。
──鞄、手ぬぐい、パン、小銭、手鏡、水筒、パン。
乱雑に見えるが、まるで。
多様な物それぞれが一本の道を辿っているかの様に取り残されていた。
『どういう……』
事なんだろう、と。
続けようとした最中、並べられた物を目で追った一番先に。
巨大な蛇 の形をした黒 い モ ノ が伺えた──
「──ッッ!!」
姿勢を落とし臨戦の構えを取るが、しかし。
……蛇 が 向 け る 興 味 の 先 に 私 は 居 な か っ た 。
「だ、誰かっ……」
蛇 が見据えているモノは、草原の中に雄々しくそびえ立った──
「……誰か助けて下さい!!」
──大木へ背中を押し付け、退路を絶たれたまま後ずさる様を見せる少女だった。
「ッッ────」
無用と判断する要素を可能な限り排除。
必要と考えるモノのみを抜粋する。
距離、凡そ50メートル。
足場、良し。
視界悪し。が、何とか捉えられる範囲。
少女と蛇 の間隔、約3メートル。
蛇 の大きさ、約5メートル。
手段、前述の状況では限られる。
結論──
『あまり得意じゃないけど……っっ!!』
──迅速に。
蛇に対し木刀の先端を真っ直ぐに向け、瞬間的にイメージを沸き立たせる。
優先すべきは、疾さ。
範囲は度外視し、直進を伴う炎 を連想。
回答を算出し、心中でトリガーを引く──
「──ロケット花火!!」
吐く言葉と同時に呼応を求めた木刀の先から、ばちばちと音を立てながら光が生まれる。
だがそれもほんの一時。
次の瞬間、矛先を向けた蛇に向かい──
──高速の火球が飛翔する。
木刀を構え直し、自らも蛇に向かい走る。
炎 の着弾まで約3秒と目算。
間に合って……!!
──ずどん、と。
蛇の横っ面に対し私の炎 は役目を果たす。
「今のうちに離れて!!」
「はっ……はい!」
次いで少女へ声を飛ばす。
私の呼び掛けで我に返ったのか、憔悴の色を拭った表情で駆け出す。
同時に。
蛇は意を向ける対象を少女から私に切り替えた。
正面から対峙を迎えると、そのプレッシャーに飲まれそうになる。
何本もの鋭い歯を携えた大きな口、ちろちろと不規則な動きを見せる舌、曲がりくねった長い胴体。
……少女の心痛を納得する。
「多分、そろそろ……!!」
そう言うと同時に蛇はこちらは飛び掛ってくる。
私は──
──深く腰を落とし、攻 め の構えを取った。
瞬間。
蛇の頭はどかん、という音と共に小さな爆発を起こした。
「──ふっっ!!」
不可視の衝撃を受けた蛇が生み出したモノは、充分な隙。
大きく呼吸を沈め、頭の付け根を目掛け得物を振るった。
先 刻 の様に、ぐちゃりという音を立てながら。
──蛇の頭は地面を舐める。
『たまやーってやつ……なのかな』
心の中でそう呟いていると、事無くして。
力を失った蛇の頭と、まだびちびちと動きを見せている胴体は。
まるで熱したフライパンに飛散した氷のように、慌ただしく溶解し消失していった──
「あ、危なかった……」
木刀を携え直し、一息つく。
炎 を使用した代償なのか、少しだけ体もだるかった。
思わず、その場へ座り込んでしまう。
……先程の少女は無事だろうか、と。
「あ、あの……」
思考を巡らせる対象のたどたどしい声が、後方から聞こえた。
「あっ、大丈夫だった?」
「は、はい……!! 助けて頂いて本当にありがとうございます……っっ」
ぺこぺこと頭を下げる少女。
身なりを見てみると、先程の道 を作っていた物達は彼女の所有物で間違いないようだ。
「大変な目に遭ったね、怪我とかはしてない?」
「ちょっと転んだくらいなんで、平気です……っっ。あ、あの。人気も無くて本当にここで終わっちゃうんじゃないかって…っっ、う……うう……」
難が去り、改めて恐怖が蘇ってしまったのか、少女は漏れる嗚咽を抑えられずにいた。
「もう怖くないからね、安心して」
「あい……。ふぐぅ、うう……っっ」
──しばらく、彼女が落ち着くまで隣に座っていた。
少女は、ひとしきり涙を拭ったあと。
鼻をずびーっと鳴らしたところで、ようやく平常を取り戻したようだった。
「お、お恥ずかしいところをお見せしました」
「ううん、気にしてないよ」
散らばった所有物を回収しながら、彼女はそう言う。
表情はもちろん、足取りも軽やかさを感じる程度にはなっていた。
「是非お礼をさせて下さい!! 私の住んでいる町からはそう遠く──」
と、彼女がそう言いかけたところで。
──ぐぅぅ、と。
私のお腹は大きく音を鳴らした。
「う、うん。できれば、何かご相伴に預かれたら嬉しいかなー……なんて」
ほんの少しの居心地の悪さを、苦笑いでごまかした。
彼女はそれに、あははと笑いながら。
「もちろんです!! 腕振るいまくって爆発しますよーっっ」
元気にそう返してくれた。
「爆発はしないでね、でもありがとう。お邪魔させて頂くね」
「超いらっしゃいませですよー!! あ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私、メイコって言います。お姉さんのお名前……お聞きしてもいいですか?」
問われ、少しだけ言葉に詰まった。
名 を 名 乗 る 事自体が久々でもあったし……
「うん。リコリスっていうんだ、よろしくね」
──私は、この名前にまだ馴 染 め て い な い のだと思う。
────────────
──────
──
※リコリス
作者:梨乃実様
煩わしさよりも疑問が先に過る。
音の所在は、自身の頭の中にあったからだ。
『……ノイズ?』
例えるならば、
思考を巡らせると同時に、別の聞き慣れた音が頭上から響いた。
……
まるでこの大地を守る様に……或いは、覆い隠す様に。彼方まで伸びるドーム状に象られたそれは、歪に備え付けられた電灯を明滅させていた。
端々のシリンダーやギアがぎしぎしと唸り、摩擦と駆動を繰り返している。
人々が【そら】と形容するそこは。
定刻を迎え、オレンジ色に染められた夕暮れから少しの照明が許す夜の姿へと、無骨な変貌を遂げていた。
……私は、この音があまり好きではない。
加え、【そら】という呼び名にも違和感を覚えたままだ。
きっとそれは──
「……!!」
先刻に過った要素は音であったが、今回のそれは……明確な
『まるで時報みたいだね』
などと。
脳内で軽口を叩いている内に、戻した視線の先にある
蠢いているモノは、無形の黒。
精巧な絵画に一滴の墨汁を垂らすように、目の前に広がっていた草原はひとつのイレギュラーによってその景観を崩す。
自らの意識を臨戦へと移行させ──
──それに呼応するかのように、黒いモノも私へ疾駆する。
「んっ──!!」
思わず息を漏らした要因は、余りにも判り易い
その黒いモノと私を隔てているのは、一振の木刀。
柄を強く握り直し、下半身を捻りながら横へ薙いだ。
どさりと地面へ打ち付けられた黒いモノは、声を上げるでも無くこちらへ向き直る。
──向き直る。
そう表現した理由は、いつのまにか黒いモノが四肢を携えた獣のような風貌へ変化していたからだ。
『小型犬は結構好きだけど……』
見立てた比喩の対象は、愛玩を手向けるだけの疎通が難しいのではと考える。
「──っっ!!」
余計な思考を黒い獣が遮った。
前足の爪をチラつかせながら、先程よりもさらに疾くこちらへ飛び込んでくる。
寸でのところで身を翻し、犠牲となったのは頬の薄皮一枚で済んだ。
滲む血を無視し、後方の獣へ。
──今度はこちらから踏み込んだ。
意外、とでも思ったのか。
ほんの一瞬獣はたじろぎを見せた。
「──ふっっ!!」
その遅延を利用しない手は無い。
呼吸と共に振るう得物が目指す箇所は、大地に佇む獣に対し深く
……ぐちゃりと。
不快な音を伴いながら、柄を握った手から
獣の顔──と思わしき箇所──が、初めて歪みを見せる。
その体を支えている四つの足のうち、前足二本の稼働を遮った。
声を上げるでも無く。
獣は、
──それでも尚こちらへ敵意を向けてくる。
「……っっ」
たじろぎの様を見せたのは、今度は私。
せめて
獣が向けるのは敵意のみ。
意識に呼応する体は、その指令を全う出来ずにいた。
私は──
木刀を握り直し、意を放ち続ける獣の頭を目掛け……
『ごめんね』
──贖罪にもならない陳腐な言葉を浮かべながら、そのまま腕を振り下ろした。
────────────
──────
──
「はあ……」
溜め息が漏れた、それも無意識に。
被っているのは、少しの土埃と頬の僅かな傷だけ。
しかし、歩を進める足は何となく重さを感じていた。
『……どのくらい時間が経ったのかな』
未だ夜の姿を保ち続けている【そら】は、鈍い光を無機質に灯したままだ。
僅かに吹いている風は私を撫で続け、根を張る木々の枝や雑草はそれに合わせゆらゆらと揺れていた。
「……お腹空いた」
情景とは裏腹に、否が応にも体は反応を示す。
そういえば今日は朝から何も口にしていなかった気がする。
……いよいよ、腹の虫が主張し始めた時。
歩を進めていた足元に、何かがぶつかった。
『これは……』
拳程のサイズを見せるそれを拾い上げる。
その表面は程良く焼き色が付き、鼻を通る香ばしさは芳醇を感じさせるには容易い。
まさか幻を見るほど自らが枯渇していた……訳では無いと確認する。
手に取ったそれは、パンだった……なぜか裸の状態の。
『おいしそうだけど、さすがに拾い食いは……』
などと心の中で宣っている内に、ふと前方へ戻した視線の先で別の物を見つけた。
「……靴?」
片方だけぽつりと転がっているが、それだけではなかった。
──鞄、手ぬぐい、パン、小銭、手鏡、水筒、パン。
乱雑に見えるが、まるで。
多様な物それぞれが一本の道を辿っているかの様に取り残されていた。
『どういう……』
事なんだろう、と。
続けようとした最中、並べられた物を目で追った一番先に。
巨大な
「──ッッ!!」
姿勢を落とし臨戦の構えを取るが、しかし。
……
「だ、誰かっ……」
「……誰か助けて下さい!!」
──大木へ背中を押し付け、退路を絶たれたまま後ずさる様を見せる少女だった。
「ッッ────」
無用と判断する要素を可能な限り排除。
必要と考えるモノのみを抜粋する。
距離、凡そ50メートル。
足場、良し。
視界悪し。が、何とか捉えられる範囲。
少女と
手段、前述の状況では限られる。
結論──
『あまり得意じゃないけど……っっ!!』
──迅速に。
蛇に対し木刀の先端を真っ直ぐに向け、瞬間的にイメージを沸き立たせる。
優先すべきは、疾さ。
範囲は度外視し、直進を伴う
回答を算出し、心中でトリガーを引く──
「──ロケット花火!!」
吐く言葉と同時に呼応を求めた木刀の先から、ばちばちと音を立てながら光が生まれる。
だがそれもほんの一時。
次の瞬間、矛先を向けた蛇に向かい──
──高速の火球が飛翔する。
木刀を構え直し、自らも蛇に向かい走る。
間に合って……!!
──ずどん、と。
蛇の横っ面に対し私の
「今のうちに離れて!!」
「はっ……はい!」
次いで少女へ声を飛ばす。
私の呼び掛けで我に返ったのか、憔悴の色を拭った表情で駆け出す。
同時に。
蛇は意を向ける対象を少女から私に切り替えた。
正面から対峙を迎えると、そのプレッシャーに飲まれそうになる。
何本もの鋭い歯を携えた大きな口、ちろちろと不規則な動きを見せる舌、曲がりくねった長い胴体。
……少女の心痛を納得する。
「多分、そろそろ……!!」
そう言うと同時に蛇はこちらは飛び掛ってくる。
私は──
──深く腰を落とし、
瞬間。
蛇の頭はどかん、という音と共に小さな爆発を起こした。
「──ふっっ!!」
不可視の衝撃を受けた蛇が生み出したモノは、充分な隙。
大きく呼吸を沈め、頭の付け根を目掛け得物を振るった。
──蛇の頭は地面を舐める。
『たまやーってやつ……なのかな』
心の中でそう呟いていると、事無くして。
力を失った蛇の頭と、まだびちびちと動きを見せている胴体は。
まるで熱したフライパンに飛散した氷のように、慌ただしく溶解し消失していった──
「あ、危なかった……」
木刀を携え直し、一息つく。
思わず、その場へ座り込んでしまう。
……先程の少女は無事だろうか、と。
「あ、あの……」
思考を巡らせる対象のたどたどしい声が、後方から聞こえた。
「あっ、大丈夫だった?」
「は、はい……!! 助けて頂いて本当にありがとうございます……っっ」
ぺこぺこと頭を下げる少女。
身なりを見てみると、先程の
「大変な目に遭ったね、怪我とかはしてない?」
「ちょっと転んだくらいなんで、平気です……っっ。あ、あの。人気も無くて本当にここで終わっちゃうんじゃないかって…っっ、う……うう……」
難が去り、改めて恐怖が蘇ってしまったのか、少女は漏れる嗚咽を抑えられずにいた。
「もう怖くないからね、安心して」
「あい……。ふぐぅ、うう……っっ」
──しばらく、彼女が落ち着くまで隣に座っていた。
少女は、ひとしきり涙を拭ったあと。
鼻をずびーっと鳴らしたところで、ようやく平常を取り戻したようだった。
「お、お恥ずかしいところをお見せしました」
「ううん、気にしてないよ」
散らばった所有物を回収しながら、彼女はそう言う。
表情はもちろん、足取りも軽やかさを感じる程度にはなっていた。
「是非お礼をさせて下さい!! 私の住んでいる町からはそう遠く──」
と、彼女がそう言いかけたところで。
──ぐぅぅ、と。
私のお腹は大きく音を鳴らした。
「う、うん。できれば、何かご相伴に預かれたら嬉しいかなー……なんて」
ほんの少しの居心地の悪さを、苦笑いでごまかした。
彼女はそれに、あははと笑いながら。
「もちろんです!! 腕振るいまくって爆発しますよーっっ」
元気にそう返してくれた。
「爆発はしないでね、でもありがとう。お邪魔させて頂くね」
「超いらっしゃいませですよー!! あ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私、メイコって言います。お姉さんのお名前……お聞きしてもいいですか?」
問われ、少しだけ言葉に詰まった。
「うん。リコリスっていうんだ、よろしくね」
──私は、この名前にまだ
────────────
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※リコリス
作者:梨乃実様