【Lー⑥】いつか聞いた場所
文字数 4,401文字
「──リコちゃん!!」
「はい!!」
互いの声が交差する。
それを合図とし、私達は自らにヤマトの行使を施した。
……視界は悪くない。
【そら】は日中を指し、人工的な太陽は私達とこの視界を照らしている。
光を帯びたこの丘は、私達が成そうとする事の妨げにはならないだろう。
そのまま地面を強く踏み締め、目標を定めた。
「火炎球射出 !!」
「ロケット花火──!!」
彼女は左の掌から。
私は木刀の先から。
二つの炎として発現した事象はその命に従い、私とレイナさんで挟む様に位置させた……大きな蜘 蛛 を象る這者へと飛翔していく。
程なく、ずどんと音を鳴らし着弾の光景が広がる。
……チリチリと熱気を伴う風が、鼻を掠めた。
「あ……っ」
しかし、渦中にいた蜘蛛は爆風を纏いながら飛び出してくる。
思わず漏らした息は……その矛先が、レイナさんへと向けれていたから。
まるで自身に障害をもたらした対象への憎悪を含んだように、八本の足を執拗にバタつかせながら地を進む。
「っっレイナさ──」
そちらへ駆けようとした私を、彼女 は手で制す。
同時に、後方へ控えていたメイコちゃんへ何かを述べた。
それに応える様に彼女 は、レイナさんへ両手を掲げる。
「自己駆動力強化・炎 ──!!」
そう叫ぶメイコちゃんの声だけが、私の耳に入った。
──瞬間。
私のヤマトが、時差的に再度爆発を生む。
そ れ 自体が、恐らくはレイナさんの計算の中にはあったのだろう。
彼女はそのまま大きく腕を振りかぶり、握りしめた右の拳を蜘蛛へ叩き付ける。
……その手は、真っ青な炎を帯びていた。
その衝撃を余すこと無くその身に受けた蜘蛛は、大地を何度かバウンドしながら遠方へ吹き飛ばされる。
それを後目に、レイナさんはこちらへ歩を進め。
「やっぱり、アタシはこ っ ち のが良いや」
と、打ち付けた手をぷらぷらと遊ばせながら。
最後にふっと息を吹き掛け、施されたヤマトを鎮火させた。
吹き飛ばされた蜘蛛へ目をやる。
体に風穴を大きく空け、仰向けになりながら無造作にその足をまたバタつかせる。
……やがてその動作が収まると同時に、蜘蛛の這者は地面へと溶けていった──
「──リコリスさん大丈夫ですか?」
レイナさんに倣いこちらへ駆け寄るメイコちゃん……いそいそと、手持ちの鞄から手拭いを渡してくれる。
「ありがとう、大丈夫だよ」
受け取りながら、言葉を返した。
……小さな猫の刺繍が私を覗く。
ちょっと可愛い。
「リコリスさんのヤマト、やっぱりカッコイイです」
「そうかな、ありがとね。メイコちゃんも、フォロー助かったよ」
彼女がレイナさんに施した炎を伴うア レ は、恐らく私には行使できないモノだろう。
こちらの言葉に、メイコちゃんは誇らしげに胸を張ってみせた。
「いやーやっぱリコちゃんのヤマトイケてるわ」
「イケてますかね、ありがとうございます」
同じく手拭いを受け取ったレイナさんの言葉に、そう返した。
……どうやら私のヤマト は、この親子にとても気に入られているようで。
そういえば……今 の レイナさんに見せるのは、確かに初めてだったかも……と。
そう思ったところで、過ぎた光景を密かに払拭しながら連ねた。
「でも、レイナさんもさすがです。あんなヤマト も使えるのに…………その、えっと」
「ぶん殴る方が良いとか色気無いですよね」
「はーーーーん?」
何となく私が言い淀んでいたところを、肩を竦めたメイコちゃんがあっさりと言い放つ。
……盛り気味に。
それを受けたレイナさんは、両手を腰に当てながら声高に抗議をした。
「しゃらくさいったらないね。最後にモノを言うのはパワーだよ、パワー」
ふん、と鼻を鳴らしながらそう言う。
「お母さんほっぺ汚れてる」
「え、嘘」
そんな二人のやり取りを見つめながら、思わず笑みが溢れた。
……そのまま、這者が溶けた大地を臨む。
そこにはもはやその存在を知覚させる要因は無いが……ひとつだけ、気にかかる事がある。
メイコちゃんやレイナさんと出逢った、あの日から──
──やはり、這 者 の 数 が 多 い と感じる。
────────────
──────
───
「メイコちゃん足元気を付けてね」
「わわ、ありがとうございます」
歩を進める足場を指しながら交わす。
眼前へ広がる丘は、勾配は浅いが恐らく人がほとんど通った事がないのだろう。
木々の枝やこぶし大くらいの石が、時折足先をノックする。
……【そら】が掲げる光は少しだけ傾きを増し。
間も無く、夕刻を指そうとしていた。
「レイナさん」
「ん?」
先頭を歩くレイナさんへ声を掛ける。
彼女は顔だけをこちらへ向け、私に応を返した。
「そろそろ暗くなってきそうですけど、どうします?」
「あーほんとだね」
そのまま一度足を止め、空を仰ぐ。
「ふーっ…………ねえお母さん、あとどのくらいで着くのー?」
それに合わせ、メイコちゃんが額の汗を拭いながら続いた。
……もう一週間程は歩き詰めだし、そう呟いてしまうのも無理はないだろう。
──メイコちゃん、レイナさんと共に出立を迎えたあの日。
始まりの島へ行く……という明確な指針はあったものの、その確実な場所すらも知り得ないままであった。
そこで、レイナさんからひとつの提案が挙がり……
「あともう少しだから我慢しなー、リコちゃんもね。着いたらお風呂にしよ」
……まずは人が多く集まる場所での情報収集、及び今後の旅の為に食糧と物資の補給という名目で。
こ こ の人達からは首都と呼ばれているらしいその街へ、まずは行き先を定める事になった──
「あ、お風呂もあるんですか?」
「あるある。ちょっと高 級 なお風呂とかもたーくさん」
私の質問に少しだけ悪戯な笑みを携えながらレイナさんが答えた。
思わず苦笑いを返す私と、横でぷりぷりと頬を膨らませるメイコちゃん。
「あはは、冗談。ま、そのくらい栄えてる所ってコト。一応知り合いもいるから、その伝で色々聞いてみよ」
手をひらひらと振りながらそう言う。
「お知り合いの方がいるんですか?」
「うん。最後に会ったのはメイコ が産まれた時だからかなり昔の……だけどね。まあ連絡は取り合ってたから、顔は利くと思うよ」
そうだったんだ、と言うメイコちゃんに頷きを返しながら……レイナさんは私達が踏みしめる丘の先を見据えた。
「ホントにあと少しだと思うんだけど…………あっ、ほらほら」
少しだけ先に足を進めたレイナさんが、そう言いながら前方を指差す。
私とメイコちゃんも彼女の下へ赴く。
「わあ…………っ」
意図せず漏れた息は、その景観のせい。
丘を超えたさらに先に広がっていたのは……それが首 都 なのだと理解し得るには充分な存在感。
……ぎっしりと敷き詰められた様に見える屋根は、恐らく民家や公共の建物のモノなのだろう。
統一された区切りでそれは連なり……さらに、その全体を分厚い壁が囲んでいた。
そしてその中心には。
…………たぶん、こう言い表すモノなのだろうか。
──お城。
天高く伸びていて、且つ大地には力強く根を張っているような……そんな建造物。
なんだろう。
確か、いつか見た覚えのある有名な夢 の 国 の中心にあったアレ……みたいな。
…………そんな感じ。
「……あそこが、そうなんですね」
「そうそう。まだ土地勘残ってて良かった」
ここまで来たの久々だから、と続けながら。
レイナさんは、横で私と同じく目を見張っているメイコちゃんの頭に手を乗せる。
「わ、なに?」
「メイコ、あともうひと踏ん張りだけ。アレお願い」
そのままわしゃわしゃとこねくり回されたメイコちゃんの髪の毛は、無慈悲な自由を体現してしまう。
「ちょっやめてっ、わかったから」
「よろしく」
まったくもう、と唇を尖らせながら。
メイコちゃんは私達へ両手を前へ掲げる。
「自己駆動力強化 ──!!」
……その言葉を耳にした瞬間、体が軽さを覚えた。
酸素を求める欲求が僅かに昂りを見せ、少しだけ足元が熱を持ち始める。
「メイコちゃんこれって」
「えへへ、ちょっとだけ歩くのが楽になるかもしれませおうふ……っ」
私の言葉に返すメイコちゃんは、言いながら静かに崩れ落ちた。
「ありがとメイコ、はい」
その彼女に対し、レイナさんは背中を宛がった。
ずるずるとそこへ体を預けるメイコちゃん。
「じゃ、ラストスパート頑張ろっか」
「ふふ、はい。わかりました」
娘を背負う母親の逞しさに何となく微笑ましさを覚えながら。
私達は改めて、その場所へ居直った──
────────────
──────
───
──その佇まいには、もはや毅然を感じる。
遠巻きに収めたあの壁 は、ここでは首を真上に向けようとその頂点を見定める事は敵わない。
それ程に高く、威圧感があった。
凡そ守 る という大義名分に対して、その真価を遺憾なく発揮するのだろう。
「……すごいですね」
その光景に、過ぎる言葉は単純を示した。
メイコちゃんのヤマトの助けもあり、ついに辿り着いた首都……その入口に私達は佇んでいた。
【そら】の色は、その橙色を黒に染めかけようとしている。
「アタシが前来た時よりもさらにご立派になってるよ。とりあえず完全に夜になる前に着いて良かった、二人ともお疲れ様」
「お母さんもね」
肩をぐるぐると回すレイナさんに、その背中から降りたメイコちゃんも連ねた。
「とりあえず入ろうか。今日は一旦宿取って、明日から動こうね」
「ですね」
「さんせーい」
私とメイコちゃんの反応を確認しながら、レイナさんは首都の入口へ赴く。
私達も、その後ろに続いた。
城門……とでも言えばいいのだろうか。
豪勢な装飾に象られた入口は、尤もらしい尊厳を嫌という程にこちらへ放つ。
その脇に……硬く、重そうな金属の鎧で身を纏った体格のいい人物が二名佇んでいた。
ガードマン……いや。門番と呼ぶべきその存在に向かい、レイナさんは歩を進めながら言葉を発した。
「お勤めご苦労さま」
「お疲れさん。……なんだ、女三人で旅してるのか?」
「そうなの。大変そうでしょ?」
「ああ。で、中に入りたいのか?」
「そういう事。平気?」
「良いよ、何か困った事があったら城主に掛け合いな」
……そしてそのやり取りはありがと、とだけ残すレイナさんの言葉で幕を引いた。
そのまま、私とメイコちゃんもその場を横切っていく。
「思ったよりすんなりでしたね」
「まあね。特に今は平和寄りだろうし」
少しだけ小声で呟いた私に、レイナさんも抑え気味に返した。
「お嬢ちゃんも大変だな、頑張れよ」
「ありがとうございまーす」
その横で、もう一人の門番とメイコちゃんがやり取りを交わしていた。
その相手は、メイコちゃんの返しにうんうんと大きく頷きながら満足気に視線を戻そうとしたところで──
「ああ、肝心な仕事忘れてた」
──再度こちらへ向き直り。
「ようこそ、トーキョーへ。良き旅にならん事を」
姿勢を正し……そう、凛々しく言い放った。
「はい!!」
互いの声が交差する。
それを合図とし、私達は自らにヤマトの行使を施した。
……視界は悪くない。
【そら】は日中を指し、人工的な太陽は私達とこの視界を照らしている。
光を帯びたこの丘は、私達が成そうとする事の妨げにはならないだろう。
そのまま地面を強く踏み締め、目標を定めた。
「
「ロケット花火──!!」
彼女は左の掌から。
私は木刀の先から。
二つの炎として発現した事象はその命に従い、私とレイナさんで挟む様に位置させた……大きな
程なく、ずどんと音を鳴らし着弾の光景が広がる。
……チリチリと熱気を伴う風が、鼻を掠めた。
「あ……っ」
しかし、渦中にいた蜘蛛は爆風を纏いながら飛び出してくる。
思わず漏らした息は……その矛先が、レイナさんへと向けれていたから。
まるで自身に障害をもたらした対象への憎悪を含んだように、八本の足を執拗にバタつかせながら地を進む。
「っっレイナさ──」
そちらへ駆けようとした私を、
同時に、後方へ控えていたメイコちゃんへ何かを述べた。
それに応える様に
「
そう叫ぶメイコちゃんの声だけが、私の耳に入った。
──瞬間。
私のヤマトが、時差的に再度爆発を生む。
彼女はそのまま大きく腕を振りかぶり、握りしめた右の拳を蜘蛛へ叩き付ける。
……その手は、真っ青な炎を帯びていた。
その衝撃を余すこと無くその身に受けた蜘蛛は、大地を何度かバウンドしながら遠方へ吹き飛ばされる。
それを後目に、レイナさんはこちらへ歩を進め。
「やっぱり、アタシは
と、打ち付けた手をぷらぷらと遊ばせながら。
最後にふっと息を吹き掛け、施されたヤマトを鎮火させた。
吹き飛ばされた蜘蛛へ目をやる。
体に風穴を大きく空け、仰向けになりながら無造作にその足をまたバタつかせる。
……やがてその動作が収まると同時に、蜘蛛の這者は地面へと溶けていった──
「──リコリスさん大丈夫ですか?」
レイナさんに倣いこちらへ駆け寄るメイコちゃん……いそいそと、手持ちの鞄から手拭いを渡してくれる。
「ありがとう、大丈夫だよ」
受け取りながら、言葉を返した。
……小さな猫の刺繍が私を覗く。
ちょっと可愛い。
「リコリスさんのヤマト、やっぱりカッコイイです」
「そうかな、ありがとね。メイコちゃんも、フォロー助かったよ」
彼女がレイナさんに施した炎を伴う
こちらの言葉に、メイコちゃんは誇らしげに胸を張ってみせた。
「いやーやっぱリコちゃんのヤマトイケてるわ」
「イケてますかね、ありがとうございます」
同じく手拭いを受け取ったレイナさんの言葉に、そう返した。
……どうやら私の
そういえば……
そう思ったところで、過ぎた光景を密かに払拭しながら連ねた。
「でも、レイナさんもさすがです。あんな
「ぶん殴る方が良いとか色気無いですよね」
「はーーーーん?」
何となく私が言い淀んでいたところを、肩を竦めたメイコちゃんがあっさりと言い放つ。
……盛り気味に。
それを受けたレイナさんは、両手を腰に当てながら声高に抗議をした。
「しゃらくさいったらないね。最後にモノを言うのはパワーだよ、パワー」
ふん、と鼻を鳴らしながらそう言う。
「お母さんほっぺ汚れてる」
「え、嘘」
そんな二人のやり取りを見つめながら、思わず笑みが溢れた。
……そのまま、這者が溶けた大地を臨む。
そこにはもはやその存在を知覚させる要因は無いが……ひとつだけ、気にかかる事がある。
メイコちゃんやレイナさんと出逢った、あの日から──
──やはり、
────────────
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「メイコちゃん足元気を付けてね」
「わわ、ありがとうございます」
歩を進める足場を指しながら交わす。
眼前へ広がる丘は、勾配は浅いが恐らく人がほとんど通った事がないのだろう。
木々の枝やこぶし大くらいの石が、時折足先をノックする。
……【そら】が掲げる光は少しだけ傾きを増し。
間も無く、夕刻を指そうとしていた。
「レイナさん」
「ん?」
先頭を歩くレイナさんへ声を掛ける。
彼女は顔だけをこちらへ向け、私に応を返した。
「そろそろ暗くなってきそうですけど、どうします?」
「あーほんとだね」
そのまま一度足を止め、空を仰ぐ。
「ふーっ…………ねえお母さん、あとどのくらいで着くのー?」
それに合わせ、メイコちゃんが額の汗を拭いながら続いた。
……もう一週間程は歩き詰めだし、そう呟いてしまうのも無理はないだろう。
──メイコちゃん、レイナさんと共に出立を迎えたあの日。
始まりの島へ行く……という明確な指針はあったものの、その確実な場所すらも知り得ないままであった。
そこで、レイナさんからひとつの提案が挙がり……
「あともう少しだから我慢しなー、リコちゃんもね。着いたらお風呂にしよ」
……まずは人が多く集まる場所での情報収集、及び今後の旅の為に食糧と物資の補給という名目で。
「あ、お風呂もあるんですか?」
「あるある。ちょっと
私の質問に少しだけ悪戯な笑みを携えながらレイナさんが答えた。
思わず苦笑いを返す私と、横でぷりぷりと頬を膨らませるメイコちゃん。
「あはは、冗談。ま、そのくらい栄えてる所ってコト。一応知り合いもいるから、その伝で色々聞いてみよ」
手をひらひらと振りながらそう言う。
「お知り合いの方がいるんですか?」
「うん。最後に会ったのは
そうだったんだ、と言うメイコちゃんに頷きを返しながら……レイナさんは私達が踏みしめる丘の先を見据えた。
「ホントにあと少しだと思うんだけど…………あっ、ほらほら」
少しだけ先に足を進めたレイナさんが、そう言いながら前方を指差す。
私とメイコちゃんも彼女の下へ赴く。
「わあ…………っ」
意図せず漏れた息は、その景観のせい。
丘を超えたさらに先に広がっていたのは……それが
……ぎっしりと敷き詰められた様に見える屋根は、恐らく民家や公共の建物のモノなのだろう。
統一された区切りでそれは連なり……さらに、その全体を分厚い壁が囲んでいた。
そしてその中心には。
…………たぶん、こう言い表すモノなのだろうか。
──お城。
天高く伸びていて、且つ大地には力強く根を張っているような……そんな建造物。
なんだろう。
確か、いつか見た覚えのある有名な
…………そんな感じ。
「……あそこが、そうなんですね」
「そうそう。まだ土地勘残ってて良かった」
ここまで来たの久々だから、と続けながら。
レイナさんは、横で私と同じく目を見張っているメイコちゃんの頭に手を乗せる。
「わ、なに?」
「メイコ、あともうひと踏ん張りだけ。アレお願い」
そのままわしゃわしゃとこねくり回されたメイコちゃんの髪の毛は、無慈悲な自由を体現してしまう。
「ちょっやめてっ、わかったから」
「よろしく」
まったくもう、と唇を尖らせながら。
メイコちゃんは私達へ両手を前へ掲げる。
「
……その言葉を耳にした瞬間、体が軽さを覚えた。
酸素を求める欲求が僅かに昂りを見せ、少しだけ足元が熱を持ち始める。
「メイコちゃんこれって」
「えへへ、ちょっとだけ歩くのが楽になるかもしれませおうふ……っ」
私の言葉に返すメイコちゃんは、言いながら静かに崩れ落ちた。
「ありがとメイコ、はい」
その彼女に対し、レイナさんは背中を宛がった。
ずるずるとそこへ体を預けるメイコちゃん。
「じゃ、ラストスパート頑張ろっか」
「ふふ、はい。わかりました」
娘を背負う母親の逞しさに何となく微笑ましさを覚えながら。
私達は改めて、その場所へ居直った──
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───
──その佇まいには、もはや毅然を感じる。
遠巻きに収めたあの
それ程に高く、威圧感があった。
凡そ
「……すごいですね」
その光景に、過ぎる言葉は単純を示した。
メイコちゃんのヤマトの助けもあり、ついに辿り着いた首都……その入口に私達は佇んでいた。
【そら】の色は、その橙色を黒に染めかけようとしている。
「アタシが前来た時よりもさらにご立派になってるよ。とりあえず完全に夜になる前に着いて良かった、二人ともお疲れ様」
「お母さんもね」
肩をぐるぐると回すレイナさんに、その背中から降りたメイコちゃんも連ねた。
「とりあえず入ろうか。今日は一旦宿取って、明日から動こうね」
「ですね」
「さんせーい」
私とメイコちゃんの反応を確認しながら、レイナさんは首都の入口へ赴く。
私達も、その後ろに続いた。
城門……とでも言えばいいのだろうか。
豪勢な装飾に象られた入口は、尤もらしい尊厳を嫌という程にこちらへ放つ。
その脇に……硬く、重そうな金属の鎧で身を纏った体格のいい人物が二名佇んでいた。
ガードマン……いや。門番と呼ぶべきその存在に向かい、レイナさんは歩を進めながら言葉を発した。
「お勤めご苦労さま」
「お疲れさん。……なんだ、女三人で旅してるのか?」
「そうなの。大変そうでしょ?」
「ああ。で、中に入りたいのか?」
「そういう事。平気?」
「良いよ、何か困った事があったら城主に掛け合いな」
……そしてそのやり取りはありがと、とだけ残すレイナさんの言葉で幕を引いた。
そのまま、私とメイコちゃんもその場を横切っていく。
「思ったよりすんなりでしたね」
「まあね。特に今は平和寄りだろうし」
少しだけ小声で呟いた私に、レイナさんも抑え気味に返した。
「お嬢ちゃんも大変だな、頑張れよ」
「ありがとうございまーす」
その横で、もう一人の門番とメイコちゃんがやり取りを交わしていた。
その相手は、メイコちゃんの返しにうんうんと大きく頷きながら満足気に視線を戻そうとしたところで──
「ああ、肝心な仕事忘れてた」
──再度こちらへ向き直り。
「ようこそ、トーキョーへ。良き旅にならん事を」
姿勢を正し……そう、凛々しく言い放った。