【Lー⑦】顧みた地平の外へ
文字数 3,991文字
「はい送風 」
「ああー……ありがとうございますー……」
レイナさんの手から発せられる風 は私を吹き抜け、湯上がりの体を心地よく撫でた。
「ゆっくりできた?」
「はい、おかげさまで。疲れも取れましたよ」
「そっかそっか」
「でも本当に良かったんですか? こ、こんな良い宿に……」
──あてがわれた部屋をぐるりと見渡す。
私の目に映るその内装と設備は……もはや宿というよりかは、ホ テ ル とでも言いたくなる様なそれ。
……それなりに長い旅路になる事はわかっていたし、元々ある程度の路銀も準備はしている。
でも、とてもじゃないけど……私一人じゃここはチョイスしかねる寝床だった。
「いーのいーの、皆で泊まるせっかくの第一号店になるわけだし。気にしない気にしない」
「そ、そうですかね──」
──都 市 への入国を果たした私達は、既に日も暮れていた事もあってまずは今日を明かす為の宿を探す事になった。
生の行き交いが多様を占める……大きな街。
何かと引き換えに、人々の持つ願望をいとも容易く叶える場が山ほどあった。
……それは、私達の望みも例外ではなく。
ただ、無数の選択肢のうちからこ こ へ足を踏み入れた理由は──
──『三 姉 妹 仲が良さそうですねーお客さんっっ!! 良かったらウチで休んでいきませんか!?』
という謳いに対して。
……とっても、とっても上機嫌になったレイナさんが三人分の代金を支払いつつスキップをしながら誘 われた結果であった。
「ね。明日からがんばろ」
ぱしゃぱしゃと音を立てながら循環を繰り返す小さな噴水は、室内を彩るインテリアとして視界の隅に入る。
……そのまま、目線をレイナさんへと戻した。
「……はい。ありがとうございます」
にこりと笑った彼女の顔は、私にそれ以上の言葉を生み出す事は無かった。
「……それにしてもリコちゃん、髪きれいだよね」
「そうですか? 嬉しいです」
「黒っていうのがセクシー」
「照れます」
風に合わせゆらゆらと揺れる私の髪に視線を合わせながら、彼女は言う。
セクシーさで言えば……先日披露していたあのナイトウェアを身にまとい、ベッドの上に足を崩して座るその姿の方が格段に上だとは思うけど。
……無意識に、自分の前髪を弄んでしまう。
「アタシも色んな人と出会ってきたつもりだけど、黒髪の子は始めてだよ」
「……そう、なんですか」
そ れ は私も同じ。
今までこの世界を歩んできた中で、同じ特徴を持つ人物に会う事はついに無かった。
……レイナさんのその言葉は、それをさらに確かなモノにしたのだった。
「…………」
「…………」
……沈黙が、私達を緩やかに支配する。
「…………あのさ。リコちゃん」
「はい?」
でも、それは少しだけ。
彼女はその瞳にほんの僅かな憂いを帯びさせ──
「……嫌じゃなかったら、でいいんだけど」
「ん、なんでしょう?」
「…………リコちゃん の事、聞かせてほしいな」
「…………」
──それだけを、ぽつりと放った。
「…………それは──」
「──私を差し置いて二人でなに話してるんですかあっ」
その問いに私が口を開いた時。
脱衣場から、バスタオル一枚だけを身にまとったメイコちゃんがこちらへ駆けてきた。
「こらメイコ、ちゃんと着替えな」
「だってお母さんが抜け駆けするから」
「そりゃ、大人のお話だからね」
「私だって大人だし」
そう言いながら、メイコちゃんは胸を張ってみせる。
「はっ、アタシとリコちゃん くらいになってから言いな」
対し、レイナさんも動作を同じくして返した。
……突き出された二つの大きな山が揺れる。
「ぐぬ。あ、あと何年かすれば私も……っっ」
「レ、レイナさん。大丈夫ですよ」
いよいよメイコちゃんの唇が尖り始めたところで、二人の間に割って入った。
「そう? リコちゃんが良いなら」
「ふふん、さすがリコリスさん」
「はい。私も……お二人にはお話しておきたかったので」
言いながら、ベットに掛けていた腰を少しだけ深く座り直す。
「メイコちゃん、その格好のままでいいの?」
「平気です、髪乾くの待ちながら聞きます」
そっか、という私の呟きに頷きを返し。
レイナさんに小突かれながら、メイコちゃんもベッドの上へ腰を下ろした。
「いいよ、リコちゃん。聞かせて」
「……はい。たぶんなんですけど、私は…………」
──場を改めたレイナさんに従い。
「元々、こ こ の人間ではありません」
その言葉を、自身が持つ過 去 への幕開けにあてた───
────────────
──────
───
【七年前】
──じじ、と音が鳴った。
煩わしさよりも疑問が先に過る。
音の所在は、自身の頭の中にあったからだ。
『……ノイズ?』
例えるならば、そ れ 。
思考を巡らせると同時に、別の聞き慣れた声が背後から響いた。
……ノ イ ズ に抱いたほんの少しの疑問はいとも簡単に掻き消され、声の出処へ視線を移す。
「──沙華 っっ!!」
大きく手を振り、私 の 名 を叫びながら。
……ぱたぱたとこちらへと駆けてくる人影が伺えた。
私も利き手を振り、応えを返す。
「ごーめん、遅くなっちゃった?」
「大丈夫、今来たところ」
などと、初々しいカップルの様なやり取りを交わしながら。
自分の顔を手で仰ぎ、呼吸を整えつつその相手は私の横へ立つ。
「これを言える相手がお互いできるといいのに……って感じかな」
「……それは言いっこなし。別に求めてるわけでもないくせに」
どうやら私の所感はあちらも同じだったようで。
……少しだけ苦笑いを浮かべた私は、肩に背負っていた鞄を持ち直した。
「──行こ、真衣 。遅刻したら先生に怒られちゃう」
そのまま、私は彼女 へ声を掛け。
「うん、そだね」
あちらもまた、私へ返す。
そして互いに、同じ先を見据えた。
待ち合わせ場所にしていた防波堤の一角に背を向け、私と真衣は歩を進める。
……少しだけ耳に入る波のさざめきと、鼻につく僅かな潮の香りは。
私達の出立を後押ししてくれているのだろうか。
【空】は、雲ひとつ伺えない晴天の様を体現し。
拭い切れない熱を伴った分厚い空気は、嫌でも私達をじりじりと照らし続ける。
命を燃やし続けるセミの合唱を迎え、呼吸すら煩わしくなってくる……そんな日。
…………季節は、夏。
未だ進むべき道が定まらない、高校二年生の時だった──
──────
教室のスピーカーから聞き慣れた電子音が響き渡る。
私を含め……室内の生徒皆が、ほっと気の抜けた息を漏らした様な気がした。
──昼食の時間を知らせるチャイム。
それに合わせ、真衣が私の席へ駆け寄ってきた。
「沙華、お昼は?」
「ここでお弁当。真衣は?」
「……調達してくるから、待ってて」
「手伝う?」
「大丈夫、勝ち取ってくる」
「そ、そっか」
じゃ、と右手を掲げながら。
もう片方の手に可愛らしい財布を握り、真衣は室外へ飛び出していった。
……売店 へ赴いた友に、心の中で敬礼を送る。
『さて……と』
彼女の帰りを待ちながら、私も自分の弁当を机の上に広げた。
……きゅう、とお腹の音が自分の中に響く。
我ながら良い出来であると確信。
体は嘘を付かない、うん。
「…………」
そのまま何気なく、先程まで幾人の視線を集めていた黒板へ目をやった。
日直がその板書を消しにかかってはいるが、まだ半端に連なっている文字は私の目に強く残る。
……先程まで行われていた科目は、社会。
最終的に少し時間が余ったとの事で、担当の先生による授業はちょっとした余談の場へと移行していた。
その時に、力強く黒板へチョークを打ち付けていた姿が……まだ記憶に新しい。
記されたモノはこの島 で生きる私達にとっては、授業よりも大切な事の様な気がして──
「──お待たせっ」
その時、僅かに息を切らした真衣が帰還した。
「お疲れ様、大丈夫?」
「……バッチリ」
口角をぐいっと上げ、戦 利 品 を自慢げに見せ付けてくるその姿を見て……とりあえずひと安心。
そして互いにひとつの机を囲み、手を合わせ無事に昼食へと没する事が出来た。
「てか沙華、何か考え事してた?」
「ん」
一口目を頬張った私に、真衣が唐突に投げかけてきた。
「いやさっき、いつもより眉間にシワ寄り気味だったから」
「私、普段から寄り気味なの?」
「わりと」
「覚えとく」
「で、どうなの?」
「いやまあ……進路とか、さ」
「あーね」
納得、といった具合で彼女は惣菜パンを頬張る。
「真衣は?」
「私? ……うーん、やっぱ普通に東京とか行きたいよね」
……東京。
もちろん聞き慣れてはいるが、実際に自身で見た事も触れた事も無い……そんな場所。
「高校出たらあっち行くの?」
「行く、絶対っっ!! 渋谷、新宿、夢の国……憧れちゃうよねー」
きらきらと表情を輝かせ、まだ見ぬ土地への期待を全面に押し出してくる。
……ひとつは都内では無いけど。
「……でも真衣のトコ、お父さんの仕事代々続いてるんでしょ?」
「それね、ほんと困ってる」
観光協会……だったっけ。
確か真衣の家はそ ん な 感 じ の元締めだったはず。
島外から来る人の案内をメインに、島の発展を勧めて昔からの伝統を守る……みたいな。
「……両親に上京の話は?」
「まさか。殺される」
「かもね」
「でも、必ずこ こ は出る。……嫌いじゃないけど、退屈」
「……そっか」
「…………沙華は、どうするの?」
「……私は…………」
「……ね、沙華。良かったら私と──」
──島を出よう、と。
真衣の口からその言葉が漏れて。
私の頭は、少しだけ混濁する。
……私自身、もしかしたらその方が良いのかもしれないと感じるところもあった。
彼女と同じく、決して。
…………決して、こ こ が嫌いな訳では無い。
しかし、教室の奥。
もはや完全に掻き消された板書の言葉。
それだけが、未だ私の心を掻き乱していた。
──【この島は、あと数年で開発が必要になる】
私の様な若輩の身でも充分に理解出来る。
それは、この島の終 わ り を意味しているのだと────
「ああー……ありがとうございますー……」
レイナさんの手から発せられる
「ゆっくりできた?」
「はい、おかげさまで。疲れも取れましたよ」
「そっかそっか」
「でも本当に良かったんですか? こ、こんな良い宿に……」
──あてがわれた部屋をぐるりと見渡す。
私の目に映るその内装と設備は……もはや宿というよりかは、
……それなりに長い旅路になる事はわかっていたし、元々ある程度の路銀も準備はしている。
でも、とてもじゃないけど……私一人じゃここはチョイスしかねる寝床だった。
「いーのいーの、皆で泊まるせっかくの第一号店になるわけだし。気にしない気にしない」
「そ、そうですかね──」
──
生の行き交いが多様を占める……大きな街。
何かと引き換えに、人々の持つ願望をいとも容易く叶える場が山ほどあった。
……それは、私達の望みも例外ではなく。
ただ、無数の選択肢のうちから
──『
という謳いに対して。
……とっても、とっても上機嫌になったレイナさんが三人分の代金を支払いつつスキップをしながら
「ね。明日からがんばろ」
ぱしゃぱしゃと音を立てながら循環を繰り返す小さな噴水は、室内を彩るインテリアとして視界の隅に入る。
……そのまま、目線をレイナさんへと戻した。
「……はい。ありがとうございます」
にこりと笑った彼女の顔は、私にそれ以上の言葉を生み出す事は無かった。
「……それにしてもリコちゃん、髪きれいだよね」
「そうですか? 嬉しいです」
「黒っていうのがセクシー」
「照れます」
風に合わせゆらゆらと揺れる私の髪に視線を合わせながら、彼女は言う。
セクシーさで言えば……先日披露していたあのナイトウェアを身にまとい、ベッドの上に足を崩して座るその姿の方が格段に上だとは思うけど。
……無意識に、自分の前髪を弄んでしまう。
「アタシも色んな人と出会ってきたつもりだけど、黒髪の子は始めてだよ」
「……そう、なんですか」
今までこの世界を歩んできた中で、同じ特徴を持つ人物に会う事はついに無かった。
……レイナさんのその言葉は、それをさらに確かなモノにしたのだった。
「…………」
「…………」
……沈黙が、私達を緩やかに支配する。
「…………あのさ。リコちゃん」
「はい?」
でも、それは少しだけ。
彼女はその瞳にほんの僅かな憂いを帯びさせ──
「……嫌じゃなかったら、でいいんだけど」
「ん、なんでしょう?」
「…………
「…………」
──それだけを、ぽつりと放った。
「…………それは──」
「──私を差し置いて二人でなに話してるんですかあっ」
その問いに私が口を開いた時。
脱衣場から、バスタオル一枚だけを身にまとったメイコちゃんがこちらへ駆けてきた。
「こらメイコ、ちゃんと着替えな」
「だってお母さんが抜け駆けするから」
「そりゃ、大人のお話だからね」
「私だって大人だし」
そう言いながら、メイコちゃんは胸を張ってみせる。
「はっ、
対し、レイナさんも動作を同じくして返した。
……突き出された二つの大きな山が揺れる。
「ぐぬ。あ、あと何年かすれば私も……っっ」
「レ、レイナさん。大丈夫ですよ」
いよいよメイコちゃんの唇が尖り始めたところで、二人の間に割って入った。
「そう? リコちゃんが良いなら」
「ふふん、さすがリコリスさん」
「はい。私も……お二人にはお話しておきたかったので」
言いながら、ベットに掛けていた腰を少しだけ深く座り直す。
「メイコちゃん、その格好のままでいいの?」
「平気です、髪乾くの待ちながら聞きます」
そっか、という私の呟きに頷きを返し。
レイナさんに小突かれながら、メイコちゃんもベッドの上へ腰を下ろした。
「いいよ、リコちゃん。聞かせて」
「……はい。たぶんなんですけど、私は…………」
──場を改めたレイナさんに従い。
「元々、
その言葉を、自身が持つ
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【七年前】
──じじ、と音が鳴った。
煩わしさよりも疑問が先に過る。
音の所在は、自身の頭の中にあったからだ。
『……ノイズ?』
例えるならば、
思考を巡らせると同時に、別の聞き慣れた声が背後から響いた。
……
「──
大きく手を振り、
……ぱたぱたとこちらへと駆けてくる人影が伺えた。
私も利き手を振り、応えを返す。
「ごーめん、遅くなっちゃった?」
「大丈夫、今来たところ」
などと、初々しいカップルの様なやり取りを交わしながら。
自分の顔を手で仰ぎ、呼吸を整えつつその相手は私の横へ立つ。
「これを言える相手がお互いできるといいのに……って感じかな」
「……それは言いっこなし。別に求めてるわけでもないくせに」
どうやら私の所感はあちらも同じだったようで。
……少しだけ苦笑いを浮かべた私は、肩に背負っていた鞄を持ち直した。
「──行こ、
そのまま、私は
「うん、そだね」
あちらもまた、私へ返す。
そして互いに、同じ先を見据えた。
待ち合わせ場所にしていた防波堤の一角に背を向け、私と真衣は歩を進める。
……少しだけ耳に入る波のさざめきと、鼻につく僅かな潮の香りは。
私達の出立を後押ししてくれているのだろうか。
【空】は、雲ひとつ伺えない晴天の様を体現し。
拭い切れない熱を伴った分厚い空気は、嫌でも私達をじりじりと照らし続ける。
命を燃やし続けるセミの合唱を迎え、呼吸すら煩わしくなってくる……そんな日。
…………季節は、夏。
未だ進むべき道が定まらない、高校二年生の時だった──
──────
教室のスピーカーから聞き慣れた電子音が響き渡る。
私を含め……室内の生徒皆が、ほっと気の抜けた息を漏らした様な気がした。
──昼食の時間を知らせるチャイム。
それに合わせ、真衣が私の席へ駆け寄ってきた。
「沙華、お昼は?」
「ここでお弁当。真衣は?」
「……調達してくるから、待ってて」
「手伝う?」
「大丈夫、勝ち取ってくる」
「そ、そっか」
じゃ、と右手を掲げながら。
もう片方の手に可愛らしい財布を握り、真衣は室外へ飛び出していった。
……
『さて……と』
彼女の帰りを待ちながら、私も自分の弁当を机の上に広げた。
……きゅう、とお腹の音が自分の中に響く。
我ながら良い出来であると確信。
体は嘘を付かない、うん。
「…………」
そのまま何気なく、先程まで幾人の視線を集めていた黒板へ目をやった。
日直がその板書を消しにかかってはいるが、まだ半端に連なっている文字は私の目に強く残る。
……先程まで行われていた科目は、社会。
最終的に少し時間が余ったとの事で、担当の先生による授業はちょっとした余談の場へと移行していた。
その時に、力強く黒板へチョークを打ち付けていた姿が……まだ記憶に新しい。
記されたモノはこの
「──お待たせっ」
その時、僅かに息を切らした真衣が帰還した。
「お疲れ様、大丈夫?」
「……バッチリ」
口角をぐいっと上げ、
そして互いにひとつの机を囲み、手を合わせ無事に昼食へと没する事が出来た。
「てか沙華、何か考え事してた?」
「ん」
一口目を頬張った私に、真衣が唐突に投げかけてきた。
「いやさっき、いつもより眉間にシワ寄り気味だったから」
「私、普段から寄り気味なの?」
「わりと」
「覚えとく」
「で、どうなの?」
「いやまあ……進路とか、さ」
「あーね」
納得、といった具合で彼女は惣菜パンを頬張る。
「真衣は?」
「私? ……うーん、やっぱ普通に東京とか行きたいよね」
……東京。
もちろん聞き慣れてはいるが、実際に自身で見た事も触れた事も無い……そんな場所。
「高校出たらあっち行くの?」
「行く、絶対っっ!! 渋谷、新宿、夢の国……憧れちゃうよねー」
きらきらと表情を輝かせ、まだ見ぬ土地への期待を全面に押し出してくる。
……ひとつは都内では無いけど。
「……でも真衣のトコ、お父さんの仕事代々続いてるんでしょ?」
「それね、ほんと困ってる」
観光協会……だったっけ。
確か真衣の家は
島外から来る人の案内をメインに、島の発展を勧めて昔からの伝統を守る……みたいな。
「……両親に上京の話は?」
「まさか。殺される」
「かもね」
「でも、必ず
「……そっか」
「…………沙華は、どうするの?」
「……私は…………」
「……ね、沙華。良かったら私と──」
──島を出よう、と。
真衣の口からその言葉が漏れて。
私の頭は、少しだけ混濁する。
……私自身、もしかしたらその方が良いのかもしれないと感じるところもあった。
彼女と同じく、決して。
…………決して、
しかし、教室の奥。
もはや完全に掻き消された板書の言葉。
それだけが、未だ私の心を掻き乱していた。
──【この島は、あと数年で開発が必要になる】
私の様な若輩の身でも充分に理解出来る。
それは、この島の