【Lー④】だから私は示してみせる
文字数 3,377文字
「こっ……んの…………っっ!!」
歯を食いしばりながら、それでも前を見据え。
私とレイナさんの間に割って入ったメイコちゃんは……しかし。
「ガガアアアッッ……アアアアアア!!!!!!!!」
その圧に耐え続ける事は叶わず、ずるずると自身の体を後退させられていた。
「リ、リコリスさん……!! 今の内に遠くへ……!!!! 長くは……もたないです……っっ!!」
「で、でもそれだとメイコちゃんが……!!」
顔だけをこちらに向けた彼女から必死に訴えかけられた願いは、そう簡単に受け取れるものでは無い。
……いざその壁 の均衡が崩れた時、待ち受ける光景を想像するには容易すぎる。
「いいんです……!!こ ん な 事 っっ……娘の私が責任を取ります……!!!!」
「っっ……!! メイコちゃん、気付いてたの……!?」
「そりゃわかります!! なんやかんや武力行使に走るところも!! 怒るとめっちゃ怖いところも!! 食いしん坊なところも!!」
「…………一緒で嬉しかった瞳の色も!! 大好きな、綺麗な髪も!! ……全部っっ……全部お母さんです!!!!」
──その見据えた瞳に携えていたのは、決して涙などでは無い。
それは紛れも無い────覚悟。
今 起 き て い る 出 来 事 に対し、彼女は。
縮こまって泣き叫ぶわけでもなく。
無為に疑問を投げ続けるわけでもなく。
何より先に選んだのは────
「だからっっ……お願いです……!! 今度は私が……リコリスさんを助けたい……!!!!」
───私を、守る事だった。
「メイコちゃん」
「はっ……はい……!?」
「あと少しだけお願い」
「えっ……!?」
自身から、意を介さず漏れた言葉は……目の前の大切な存在へ向けて。
次いで、私の意思に対し未だ駄々をこね続ける体の全てに命令を降す。
────立て
二人を助けるんだ
何がマナだ
何がオドだ
何が這者だ
聞き慣れないし、馴染みもない
ふざけるな
知ったこっちゃない
そ ん な も の が、私がやりたい事の邪魔をするな
お 前 達 にその力があるなら、せめて彼女達を救わせろ
その為の道を、私に示せ
それが出来るのだろう、こ こ なら
そして私は帰るんだ
取り巻く全てが理解へと及ばない、この異 世 界 とも呼べる場所から
自分の世界へ────
「────ぁぁああああああ!!!!!!!!」
そ の 手 順 を今一度改める。
強固に。
まずは強固に。
イメージと銘を打たれたこの思考、ノイズが入り乱れる映像を……ヒトツの存在へと昇華を果たす為。
結果として、脳内はがりがりと音を立てながらこの所作への応えを弾き出していく。
その具現は言うに容易く、行うは難し。
────名剣を携え、格好を付け振るう事は想像出来たとしても。
その形に打たれた金属の重さを感じた事が無い。
それだけ鋭利な物を手にした時に生じる恐怖を、経験した事が無い。
何かに弾かれ少しでも握りを甘くして、もし刃が自分に向かってきたら?
モノを斬り付けた時、どんな感触がする?
そ ん な も の を、どうやって投影しろというのか。
────光弾を生み出し、自身の手から放つ事は想像出来たとしても。
物理的な影響をもたらす程の質量を持った光に触れた事など無い。
うるさいのか、静かなのか、その所作で生じる音も耳にした事が無い。
放つ為の引き金をひくにはどうすればいい?
間近で見てしまって自分の目は平気なのか?
そ ん な も の を、どうやって投影しろというのか。
……それはあまりにも歪で。
いざ形にしようとすればする程抜け落ちていく要素は、自身のイ メ ー ジ を崩していく。
そ う い う も の だと自分に暗示でもかけられれば良いのだが。
……自分には想 像 力 というものが欠けている、とも思う。
だから、私は────
「…………キャンプファイヤああああああーーッッ!!!!!!!!!!」
────自 分 が ハ ッ キ リ と 認 識 し 、イ メ ー ジ で き る モ ノ し か 具 現 化 さ せ ら れ な い 。
「ガガガアッッ!?」
「えっっ!?」
驚愕の表情を浮かべる二人を他所に、私の【ヤマト】は体現を始める。
……突き出した獲物 からじりじりと音が鳴ると同時に、這者となったレイナさんの足下からひとつ、またひとつと交差を重ね光を帯びながら積み上がるものは、凡そ四 角 形 と呼べる型にその姿を象っていく。
それが、完全にレイナさんの全身を覆い隠したところで──
「メイコちゃん!!」
「リコリスさ──」
その小さな体を抱きかかえ、後方へ退避した。
──瞬間。
「アアアアアアアアアアッッ!?」
出来上がったや ぐ ら から、轟音を上げ火柱が上がる。
その最中にいる彼女の鳴き声と共に、激しい熱気が私達を覆った。
「っっ……!!」
「うっっ……」
メイコちゃんを庇いながら、なるべく遠くへ距離を取っていく。
むせ返る臭気は、自身が生み出したモノの営力を嫌と言う程に叩き付けてきた。
「ぐ……うあ……っっ」
そんな考えを最後に、意図せずその場で膝をついてしまう。
無理やり捻り出した事象の代償か。
……さすがに、限界だったみたいだ。
「リコリスさん!!」
「ご、ごめんね……」
同じく足を止めこちらを覗き込む彼女。
私は良いから先にと、そう続けようとしたところで────
「──自己治癒力促進 …………!!」
「わっ……!?」
彼女はこちらの胸元に優しく手を触れ、そう紡いだ。
俄に浮かぶ光は、彼女の温もりを体現をしている様な気さえする。
……そう思っているうちに。
腹部の痛みや、全身の疲労が徐々に和らいでいく感覚がした。
「メ、メイコちゃんこれって……」
「私もあまり得意では無いのですけど、これくらいは。……じっとしてて下さいね。……ほんとに、無茶ばっかりして……っっ」
「……ごめんね」
「いいえ……っっ、ありがとうございます……!!」
そう言いながら彼女は自身のヤマトを行使し続ける。
これも、私の理解が及ばないもの……なのかな。
「ガッアアッッ………アアア!?」
などと、内で呟いてる最中にも。
未だ火柱を上げ続ける私のヤマトの中からレイナさんの声が混ざる。
「っっ……」
私への処置を続けながらも、メイコちゃんの目はしっかりとそこを見据えていた。
……体勢を立て直すには、ここが最後のチャンスかもしれない。
「──あっ……はあ……っっ。ご、ごめんなさいリコリスさん、今の私じゃこれくらいが精一杯で……!!」
「ううん、本当にありがとう。元気出たよ」
額に汗を浮かべながら言うメイコちゃんに、なるべく笑顔を携える。
事実、本調子とはいかないまでもかなりの回復は感じている。
…………まだ、戦える。
「アアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
いよいよ私のヤマトがその具現を失くそうとしている頃、痺れを切らしたレイナさんの咆哮が一際響き渡った。
「…………お母さん……っっ」
「…………」
そこへ向き直る私達は。
突き付けられた現実に未だ解決策を見い出せずにいる。
だけど────
「──諦めないよ」
「えっ……?」
「レイナさんは必ず助ける。メイコちゃんにも悲しい思いはさせない」
「リ、リコリスさん……」
「でも私だけだと、力不足かもしれない」
「そんな事……っっ」
「だから」
「はっ、はい……っっ」
「手伝って、もらえるかな」
「…………はい!!」
────そのやり取りを皮切りに。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
ついに私のヤマトは完全に消失し、レイナさんはこちらへ駆ける────
「…………っっ!!」
私の血や汗で滑る木刀の握りを拭き上げ、構えを正す。
……背中には、守るべき存在。
──この一線だけは死んでも譲るものか……!!!!!!!!
「アアアアアアアアアアア!!!!」
「だあああああぁぁ!!!!」
混じり合う声は、互いの望みを打ち付ける為に。
その衝撃は、今この瞬間にぶつかり合う──
「ア…………ア…………」
──事は無く。
「…………!!」
「えっっ……!?」
私達を惨たらしく食い散らかさんと猛り、こちらへ駆け抜けて来た彼女は。
……そのまま静かに、地に伏せたのだった。
さらにこちらを驚愕させたのは……
「アア……ガッ……………ああ……うっ……!!」
……レイナさんは、まるで漏れ出した蒸気のように全身から煙を上げていき。
その視界が晴れると同時に少しずつ現れるモノは。
……禍々しい這者ではなく、紛れも無い人間の姿の彼女であった。
歯を食いしばりながら、それでも前を見据え。
私とレイナさんの間に割って入ったメイコちゃんは……しかし。
「ガガアアアッッ……アアアアアア!!!!!!!!」
その圧に耐え続ける事は叶わず、ずるずると自身の体を後退させられていた。
「リ、リコリスさん……!! 今の内に遠くへ……!!!! 長くは……もたないです……っっ!!」
「で、でもそれだとメイコちゃんが……!!」
顔だけをこちらに向けた彼女から必死に訴えかけられた願いは、そう簡単に受け取れるものでは無い。
……いざその
「いいんです……!!
「っっ……!! メイコちゃん、気付いてたの……!?」
「そりゃわかります!! なんやかんや武力行使に走るところも!! 怒るとめっちゃ怖いところも!! 食いしん坊なところも!!」
「…………一緒で嬉しかった瞳の色も!! 大好きな、綺麗な髪も!! ……全部っっ……全部お母さんです!!!!」
──その見据えた瞳に携えていたのは、決して涙などでは無い。
それは紛れも無い────覚悟。
縮こまって泣き叫ぶわけでもなく。
無為に疑問を投げ続けるわけでもなく。
何より先に選んだのは────
「だからっっ……お願いです……!! 今度は私が……リコリスさんを助けたい……!!!!」
───私を、守る事だった。
「メイコちゃん」
「はっ……はい……!?」
「あと少しだけお願い」
「えっ……!?」
自身から、意を介さず漏れた言葉は……目の前の大切な存在へ向けて。
次いで、私の意思に対し未だ駄々をこね続ける体の全てに命令を降す。
────立て
何がマナだ
何がオドだ
何が這者だ
聞き慣れないし、馴染みもない
ふざけるな
知ったこっちゃない
その為の道を、私に示せ
それが出来るのだろう、
そして私は帰るんだ
取り巻く全てが理解へと及ばない、この
自分の世界へ────
「────ぁぁああああああ!!!!!!!!」
強固に。
まずは強固に。
イメージと銘を打たれたこの思考、ノイズが入り乱れる映像を……ヒトツの存在へと昇華を果たす為。
結果として、脳内はがりがりと音を立てながらこの所作への応えを弾き出していく。
その具現は言うに容易く、行うは難し。
────名剣を携え、格好を付け振るう事は想像出来たとしても。
その形に打たれた金属の重さを感じた事が無い。
それだけ鋭利な物を手にした時に生じる恐怖を、経験した事が無い。
何かに弾かれ少しでも握りを甘くして、もし刃が自分に向かってきたら?
モノを斬り付けた時、どんな感触がする?
────光弾を生み出し、自身の手から放つ事は想像出来たとしても。
物理的な影響をもたらす程の質量を持った光に触れた事など無い。
うるさいのか、静かなのか、その所作で生じる音も耳にした事が無い。
放つ為の引き金をひくにはどうすればいい?
間近で見てしまって自分の目は平気なのか?
……それはあまりにも歪で。
いざ形にしようとすればする程抜け落ちていく要素は、自身の
……自分には
だから、私は────
「…………キャンプファイヤああああああーーッッ!!!!!!!!!!」
────
「ガガガアッッ!?」
「えっっ!?」
驚愕の表情を浮かべる二人を他所に、私の【ヤマト】は体現を始める。
……突き出した
それが、完全にレイナさんの全身を覆い隠したところで──
「メイコちゃん!!」
「リコリスさ──」
その小さな体を抱きかかえ、後方へ退避した。
──瞬間。
「アアアアアアアアアアッッ!?」
出来上がった
その最中にいる彼女の鳴き声と共に、激しい熱気が私達を覆った。
「っっ……!!」
「うっっ……」
メイコちゃんを庇いながら、なるべく遠くへ距離を取っていく。
むせ返る臭気は、自身が生み出したモノの営力を嫌と言う程に叩き付けてきた。
「ぐ……うあ……っっ」
そんな考えを最後に、意図せずその場で膝をついてしまう。
無理やり捻り出した事象の代償か。
……さすがに、限界だったみたいだ。
「リコリスさん!!」
「ご、ごめんね……」
同じく足を止めこちらを覗き込む彼女。
私は良いから先にと、そう続けようとしたところで────
「──
「わっ……!?」
彼女はこちらの胸元に優しく手を触れ、そう紡いだ。
俄に浮かぶ光は、彼女の温もりを体現をしている様な気さえする。
……そう思っているうちに。
腹部の痛みや、全身の疲労が徐々に和らいでいく感覚がした。
「メ、メイコちゃんこれって……」
「私もあまり得意では無いのですけど、これくらいは。……じっとしてて下さいね。……ほんとに、無茶ばっかりして……っっ」
「……ごめんね」
「いいえ……っっ、ありがとうございます……!!」
そう言いながら彼女は自身のヤマトを行使し続ける。
これも、私の理解が及ばないもの……なのかな。
「ガッアアッッ………アアア!?」
などと、内で呟いてる最中にも。
未だ火柱を上げ続ける私のヤマトの中からレイナさんの声が混ざる。
「っっ……」
私への処置を続けながらも、メイコちゃんの目はしっかりとそこを見据えていた。
……体勢を立て直すには、ここが最後のチャンスかもしれない。
「──あっ……はあ……っっ。ご、ごめんなさいリコリスさん、今の私じゃこれくらいが精一杯で……!!」
「ううん、本当にありがとう。元気出たよ」
額に汗を浮かべながら言うメイコちゃんに、なるべく笑顔を携える。
事実、本調子とはいかないまでもかなりの回復は感じている。
…………まだ、戦える。
「アアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
いよいよ私のヤマトがその具現を失くそうとしている頃、痺れを切らしたレイナさんの咆哮が一際響き渡った。
「…………お母さん……っっ」
「…………」
そこへ向き直る私達は。
突き付けられた現実に未だ解決策を見い出せずにいる。
だけど────
「──諦めないよ」
「えっ……?」
「レイナさんは必ず助ける。メイコちゃんにも悲しい思いはさせない」
「リ、リコリスさん……」
「でも私だけだと、力不足かもしれない」
「そんな事……っっ」
「だから」
「はっ、はい……っっ」
「手伝って、もらえるかな」
「…………はい!!」
────そのやり取りを皮切りに。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
ついに私のヤマトは完全に消失し、レイナさんはこちらへ駆ける────
「…………っっ!!」
私の血や汗で滑る木刀の握りを拭き上げ、構えを正す。
……背中には、守るべき存在。
──この一線だけは死んでも譲るものか……!!!!!!!!
「アアアアアアアアアアア!!!!」
「だあああああぁぁ!!!!」
混じり合う声は、互いの望みを打ち付ける為に。
その衝撃は、今この瞬間にぶつかり合う──
「ア…………ア…………」
──事は無く。
「…………!!」
「えっっ……!?」
私達を惨たらしく食い散らかさんと猛り、こちらへ駆け抜けて来た彼女は。
……そのまま静かに、地に伏せたのだった。
さらにこちらを驚愕させたのは……
「アア……ガッ……………ああ……うっ……!!」
……レイナさんは、まるで漏れ出した蒸気のように全身から煙を上げていき。
その視界が晴れると同時に少しずつ現れるモノは。
……禍々しい這者ではなく、紛れも無い人間の姿の彼女であった。