第25話  蘇芳と怜

文字数 1,126文字

眠ったと思ったら青の世界にいた。
蘇芳はうんざりした。
「また?」

池の畔に腰を下ろした怜が見えた。
「やあ。先頃はご苦労様。・・・小夜子は大丈夫そうだね」
怜は言った。
「ええ。熱も下がったし。すごくさっぱりとした顔をしていました」
蘇芳が言った。
「でも、目覚めた時は凄かったわ。すごく怖かった」
怜は返した。
「きっと混乱していたんだろうな。でも、小夜子が怒ったら凄いよ。彼女に敵う『魔』はいないだろう」
「龍は?」
「龍は『魔』じゃない」
「史有は成敗されちゃわない?」
蘇芳が心配そうに聞く。

「史有って、あの小夜子を担いで逃げて行った男か?」
「そう」
「・・・あの少年だよね。僕が昔、吉野で出会った子は。・・・あんなに大きくなったんだ。すごいイケメンになっていたね。よくあの勾玉を届けてくれたと思っている。・・・大丈夫。だって、彼は小夜子を助けたのだから。彼は一番の功労者だ。それに君。・・本当に有り難う」
怜は穏やかにそう言って頭を下げた。
「融さんは?」
「融はやるのが当然」
怜はそっけなく言った。


「ところで橋が壊れているから、神社に行けないんだ。誰が壊したのだろう?」
蘇芳は首を傾げる。
「さあ?知らないわ・・でもあなたならあの橋を跳べるでしょう?」

怜は自分の足元を指差した。
「これが付いて居るから跳べない」
蘇芳は怜の足首に縄で括り付けられた石を・・・石?・・髪の毛がある?

「ぎゃっ!」
蘇芳は飛び退いた。
首だ。女の首。
首は目を閉じていた。
「ああ。もう石化しちゃったけれどね。重くて」
「な、な、何なのそれ?・・」
「例の巫女だよ。遠い昔に池に沈められた。・・・・・小夜子にくっ付いていたのを僕が引き受けた。・・・その内、龍も気が付くだろう。この頭の持ち主はもうどこにもいないって。・・死んで、とっくの昔に自然の『気』に還元して、彼女が生まれた大いなる場所に戻ったって。・・・そうしたらこれが取れるかも知れないな」
怜は呑気にそう言う。

「・・全ては龍が目覚めたから発動したんだ。そこから全てが再起動した。6年前に。呼び出さなければ龍はずっと眠っている筈のものだった。
あの台風の夜に。
それで小夜子が淵に飛び込んだりしたから。・・・・この影も余計にパワーアップした。・・渡りに船とはこの事だよな。・・・僕は小夜子の身体を護る事だけで精一杯だった。彼女の身体を龍の『識』から剥ぎ取り現実の淵に戻す。もうそれだけ」

 
「これは虚ろな影だ。その影すらも龍が描いた幻影なのだろうか。・・龍はイメージを形象化したのか・・・存在って何だろうな?この影は存在するのか?それともただの幻なのか・・」
怜はそう言って首を傾げた。そして言った。
「・・まあいいか。そんなのどうでも。小夜子が無事に帰ったのだから」

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