第16話  樹と由瑞 Ⅻ

文字数 391文字

夜中、車が樹のアパート前に着いた。
由瑞は荷物を取り出すと樹の手を握った。
「どこに逃げるのか分からないけれど、ちゃんと連絡を入れてくれよ」
由瑞はそう言った。
「分かった。忘れない」
樹は返した。
「いい?三か月だから。約束だよ」
「うん」
「由瑞さん。色々と有難う。・・・じゃあ、行くね。・・・さようなら。お休みなさい」
握っていた手が離れた。
こつこつとストックの音が離れて行く。

それを見送ると、由瑞は車のシートに戻った。
樹の部屋の明かりが付いたのを確認して車を出した。


 由瑞は部屋に戻って、中を見回した。
置いたままにして出て行った半紙。
樹の気配がまだ残っている様に思えた。
どさりとソファに座り込む。

ふとストックの音が聞こえた様に思えて玄関のドアを見た。
無人の玄関を見る。
ことことという音。
じっと耳を澄ます。

これは暫く頭から離れないな。
そう思った。
由瑞はのろのろと立ち上がると、洗面所に向かった。
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