第17話   樹 5月6日 金

文字数 709文字

由瑞から「お早う」のラインが来ていた。
それに「お早う御座います。昨日は有り難う御座いました」と返した。
すぐに「気を付けて行ってらっしゃい」と返信があった。

 ストックを突きながらスーツケースを引いて出勤する。
スーツケースには一泊分の宿泊セットが入っている。それに長靴。
それを学校のロッカーに仕舞う。

学校に着いていつもの様に授業をする。
気持ちがしゃんとするのが分かった。
田神が樹に声を掛けた。
「あれ?どうしたの?宇田ちゃん。怪我?」
「ああ、ちょっと捩じっただけで。大した事は無いんです」
「そうなの?・・いや、俺、もうめげそう。あの子達。宇田ちゃん。よく一年間あの子達見ていたね」
「山崎達?西とか?木部とか大沢とか」
「そう」
「何、言ってんですか。田神さん。一年じゃないですよ。一年と七か月です。一年生の時も見ていました。」
「俺が病休取ったら後は宜しくね」
田神が冗談でもない様な顔をしてそう言った。
「はあ?マジで勘弁してくださいよ。まだ五月じゃないですか。」
樹が返す。
「ああ。五月病かも。・・・ふう・・。佐伯君帰って来てくれないかな・・・」
田神がそう言ったので樹はどきりとした。
「担任が佐伯君なら、またあの子達ももう少し違ったのだろうけれど・・・」
「何、言ってんですか。そんな事を言っても、いないんだから仕方がないでしょう。後を託された者同士、頑張りましょう。・・ええい。あんな輩。捻じ伏せてくれるわ」
樹はそう言うとずんずんと職員室に入って行った。
その後姿を見て田神は「・・・何かあったのかな。凄い気迫だ」と呟いた。

 樹は授業が終わると、その後はすぐに退勤した。
そしてそのまま、逃げるように新幹線に乗り継ぎ、目的地を目指した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み