第13話  樹と由瑞 ⅹ

文字数 928文字

二人で食器を片付け、ソフアに座る。
「ちょっと食休み。どこにドライブするか調べよう」
由瑞が言った。
「何だか、すごく眠いの。・・少し、ここで眠ってもいいかしら」
樹が言った。

「どうぞ」
由瑞は答えた。
樹はクッションを枕にソフアに横になる。
由瑞はスマホを見ながら、片手で樹の髪を撫でる。
樹は目を閉じた。

「さっきのラインの話ですけれど・・・連休明けから講師の先生が見えるので、いろいろと由瑞さんにお聞きする事もありますけれど・・」
樹は言った。
「そうだ。忘れていた。横田さん。書道塾の先生。講師にお願いしたんだ」
「忘れられたら困ります」
樹は笑った。

「でも、樹さん。無理をしない程度にして。君は講師なのだから、そんなに仕事を背負い込む必要は無い。・・教える人がいなければ、廃部になっても仕方が無い」
「でも、由瑞さんがずっと育てて来た部だから、出来る限り引き継いで行こうと思っているの。指導は出来ないけれど事務は今度の担当と一緒にやって行きます。先生は週一度、火曜日にいらっしゃいます」

「俺が辞めてしまったから、君の負担が増えて申し訳が無い。・・・ラインの話ね。それとこれとは別だという認識でいいかな?勿論どんどん聞いて貰って構わないよ。でも、ちゃんと『お早う』もしてくれる?なんせ、俺は君とその間・・」
「分かりました。もう分っているから。そんなに何度も言わないで」
樹が言った。
由瑞は笑った。

横になって優しく髪を撫でられたりすると眠気が増す。由瑞の低い声と静かなトーンが心を落ち着かせる。昨夜の寝不足とストレスで、樹は微睡(まどろみ)に落ちて行く。

「講師の先生への対応で・・何か気を付ける事は有りますか?」
樹は半分眠りながら言う。
「いや、特別・・・。とてもいい方だよ。韓流ドラマが大好きなんだ」
「へえ・・」
「俺は興味が無いから韓流のアイドルとか言われても分からないけれど」
「はあ・・・」
「それに触れると話が止まらない」
「・・」
「それ位かな。気を付けるのは」
「・・・」
「酒が好きだから君と気が合うかも知れないな」
「・・・」
「俺は、今すごく幸せなんだ」
「・・・」

窓の向こうには爽やかな5月の空が広がる。遠く薄く緑の山波も。
由瑞は窓の外を眺めた。
そして自分もソフアに寄り掛かかると目を閉じた。
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