トモとプリン
文字数 1,548文字
トモとお散歩の途中、コンビニに寄った。
「パパー、プリン食べたい。買ってー!」
「わかった。ママの分も買っていこう。」
「おうちじやなくて、おとなりの公園で食べたいー。」
「いいけど、プッチンできないぞ。」
「えー、プッチンもするのー。」
あまり甘やかすと、ろくな大人になれないと思いながらも、紙皿を一緒に買い、スプーンをもらった。
トモと、コンビニの隣にある公園に移動し、ベンチに腰かける。
僕が紙皿を一枚取り出していると、トモは待ちきれない様子で、フタをはがし始めた。妻に似て、トモはせっかちなのだ。
「パパー、お皿はやくー!」
「ちょっ、待て!」
僕は、音速で紙皿を差し出したが、トモの光速プッチンには敵わなかった。
その後は、スローモーションの世界だった。
プラのカップから離れたクリーム色の本体がカラメルの帽子を脱いで、別れの挨拶をし、ゆっくりと落下していく。
やがて、ベンチの前の地面にランディングする。
プリンは、ぼよよんと大きく波打ち、しばらくその振動を繰り返していたが、やがてそれも収束した。
奇跡的に原型をとどめている。
ともはひざを抱えてプリンを見つめ、やがて僕の顔を見る。
「ねえ、これ、食べていい?」
汚いからだめだぞ、と言いたかったが、奇跡的に理想的なプッチンプリンのプロポーションで鎮座しておられる。
「そうだな、上半分までならいいぞ。・・・だけど、内緒だぞ。」
要はママにバレなければいいのだ。バレたら最後、僕はバックドロップを食らい、全治一週間の怪我を負うだろう。
「わーい!」
「こら、まてまて!」
スプーンを手に、早速仕事にとりかかろうとするトモを押し留める。
僕はプリンを背にしゃがむ。カモフラージュだ。
「よし、いいぞ。」
トモから音の気配が完璧に消える。
この子の、こういう時の集中力は半端ない。
どんな顔して食べてるのか見てみたい。
でも僕は、背を向けている。
トモのミッション終了の報告を今か今かと待ち望んでいると、前方から犬の散歩をする女性が接近してきた。
「あ、カナ先生!」
任務を終えたらしいトモは女性のもとに駆け寄っていく。
ヤバい。トモの保育所の先生だ。笑顔が可愛いので、僕は少なからず好感を持っている。オホン。
多分、僕の背後には、半分食べかけのプリンが残っているはずだ。これを見られるわけにはいかない。
「こんにちは、トモちゃんとお散歩ですか?」
「・・・ええ、そんなところで。」
僕はしゃがんだままの姿勢だ。
さぞかし不審に思っただろう。
その時、カナ先生が手に持つリードがシュルシュルとうなり、犬が突進してきた。
この犬の犬種は確か、ゴールデンリボルバーといっただろうか?少し違うか。
僕は強烈なタックルを受け、どしん、と尻もちをついた。
どしん、に、グニョ、という擬音が加わったのは、気のせいか?
お尻に残るこの感触は、遥か昔、幼少期の記憶を呼び覚ます。
「ごめんなさい!こら、ジョン、ダメでしょ。」
カナ先生はしきりに恐縮がるが、僕はこの場で事なきを得るのに精一杯だ。
「いえいえ、どうってことありません、お気になさらずに。」
僕はカナ先生に背後をとらせないようにしながら、トモを呼び寄せる。
「さあ、トモ、そろそろ帰ろうか。」
僕は、背後のガードをトモに任せようとした。
だが。
トモよりも早く、僕の背後を奪う者がいた。
犬のジョンだ。
ジョンは僕のズボンのお尻を舐め始めた。
ペロペロペロペロ・・
いつまでも。無限の時間のように。
ようやくその洗礼はおわった。
遅れて僕の背後にまわったトモが、逐次実況をレポートする。そして、こう締めくくった。
「パパ、よかったね! プリン、すっかりなくなっちゃったよ。」
僕は、カナ先生の?マークのお顔から、目をそらしつつ、いとまの挨拶をする。
誰にも言えないが、あのペロペロの感触は、癖になるかもと思った。
「パパー、プリン食べたい。買ってー!」
「わかった。ママの分も買っていこう。」
「おうちじやなくて、おとなりの公園で食べたいー。」
「いいけど、プッチンできないぞ。」
「えー、プッチンもするのー。」
あまり甘やかすと、ろくな大人になれないと思いながらも、紙皿を一緒に買い、スプーンをもらった。
トモと、コンビニの隣にある公園に移動し、ベンチに腰かける。
僕が紙皿を一枚取り出していると、トモは待ちきれない様子で、フタをはがし始めた。妻に似て、トモはせっかちなのだ。
「パパー、お皿はやくー!」
「ちょっ、待て!」
僕は、音速で紙皿を差し出したが、トモの光速プッチンには敵わなかった。
その後は、スローモーションの世界だった。
プラのカップから離れたクリーム色の本体がカラメルの帽子を脱いで、別れの挨拶をし、ゆっくりと落下していく。
やがて、ベンチの前の地面にランディングする。
プリンは、ぼよよんと大きく波打ち、しばらくその振動を繰り返していたが、やがてそれも収束した。
奇跡的に原型をとどめている。
ともはひざを抱えてプリンを見つめ、やがて僕の顔を見る。
「ねえ、これ、食べていい?」
汚いからだめだぞ、と言いたかったが、奇跡的に理想的なプッチンプリンのプロポーションで鎮座しておられる。
「そうだな、上半分までならいいぞ。・・・だけど、内緒だぞ。」
要はママにバレなければいいのだ。バレたら最後、僕はバックドロップを食らい、全治一週間の怪我を負うだろう。
「わーい!」
「こら、まてまて!」
スプーンを手に、早速仕事にとりかかろうとするトモを押し留める。
僕はプリンを背にしゃがむ。カモフラージュだ。
「よし、いいぞ。」
トモから音の気配が完璧に消える。
この子の、こういう時の集中力は半端ない。
どんな顔して食べてるのか見てみたい。
でも僕は、背を向けている。
トモのミッション終了の報告を今か今かと待ち望んでいると、前方から犬の散歩をする女性が接近してきた。
「あ、カナ先生!」
任務を終えたらしいトモは女性のもとに駆け寄っていく。
ヤバい。トモの保育所の先生だ。笑顔が可愛いので、僕は少なからず好感を持っている。オホン。
多分、僕の背後には、半分食べかけのプリンが残っているはずだ。これを見られるわけにはいかない。
「こんにちは、トモちゃんとお散歩ですか?」
「・・・ええ、そんなところで。」
僕はしゃがんだままの姿勢だ。
さぞかし不審に思っただろう。
その時、カナ先生が手に持つリードがシュルシュルとうなり、犬が突進してきた。
この犬の犬種は確か、ゴールデンリボルバーといっただろうか?少し違うか。
僕は強烈なタックルを受け、どしん、と尻もちをついた。
どしん、に、グニョ、という擬音が加わったのは、気のせいか?
お尻に残るこの感触は、遥か昔、幼少期の記憶を呼び覚ます。
「ごめんなさい!こら、ジョン、ダメでしょ。」
カナ先生はしきりに恐縮がるが、僕はこの場で事なきを得るのに精一杯だ。
「いえいえ、どうってことありません、お気になさらずに。」
僕はカナ先生に背後をとらせないようにしながら、トモを呼び寄せる。
「さあ、トモ、そろそろ帰ろうか。」
僕は、背後のガードをトモに任せようとした。
だが。
トモよりも早く、僕の背後を奪う者がいた。
犬のジョンだ。
ジョンは僕のズボンのお尻を舐め始めた。
ペロペロペロペロ・・
いつまでも。無限の時間のように。
ようやくその洗礼はおわった。
遅れて僕の背後にまわったトモが、逐次実況をレポートする。そして、こう締めくくった。
「パパ、よかったね! プリン、すっかりなくなっちゃったよ。」
僕は、カナ先生の?マークのお顔から、目をそらしつつ、いとまの挨拶をする。
誰にも言えないが、あのペロペロの感触は、癖になるかもと思った。