文字通り ファミリーレストラン
文字数 1,644文字
―――――――――――――――
堂々オープン!
家族で楽しむ
エンタテインメント・レストラン
―――――――――――――――
日曜、郵便ポストにそんなチラシが投函されていた。
たまたま昼の用意をしておらず家の近所らしいし、旦那と高一の息子と一緒に行ってみた。
表に小さな看板は出ていたものの、そこはどうみても普通の民家。でも、古民家カフェとかそんなしゃれたものじゃなくて、普通の「築数十年」の古そうな一軒家。
「ごめんください。」
恐るおそるガラガラとドアを開ける。
若い女性スタッフが待ち構えていた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、エンタメファミレスへ!」
「……三人なんですけど、いいですか?」
「はい、どうぞおあがりください。」
私たちは居間に案内された。
やはり、普通の家庭の部屋だ。
ちょっと普通じゃないのは、居間全体が畳張りで真ん中にポツンとちゃぶ台が置いてあるところ。
座布団が並べられ、私たちは円卓を囲む。
割烹着姿のお婆さんがお盆にお茶を載せて入ってきた。」
「いらっしゃいまし……、では、メニューを紹介しましょうかね。」
お婆さんは一緒に持ってきたメニューを拡げ、円卓の上に置いた。」
「!?」
私たち親子三人顔を見合わせる。
メニューの左半分は、「熱血スポコンファミリーセット」
メニューの右半分は、「頑固親父のホームコメディセット」
と書いてある。
左側には懐かしいスポコンアニメのビジュアルが、右側には太った坊主頭のオジサンをセンターに、家族が並んだ実写版ホームドラマの写真がドーンと出ている。
「開店記念サービスで、スポコンセットには明子姉ちゃんが、ホームコメディセットにはキンばあちゃんがついとるよ、あ、キンばあちゃんってワタシのことね。」
「!?」
なんなんだ、このお店は?
私はアイコンタクトで、ここを出ようと旦那を促したが、
「あ、明子ねえさんの方で。」
とうわ言のようにオーダーを入れてしまった。
「イテッ!」
私は旦那のお尻をつねった。
「ご注文ありがとね。少し待っててね。」
老婆が少し残念そうに去って行った。
手持ち無沙汰になって旦那が床に置いてあった新聞を読み、私と息子がブラウン管型のテレビを見ていると料理が運ばれてきた。
運んできたのは、玄関で出迎えてくれた女性のようだが、白いブラウスにピンクの上下に着替え、腰にはハーフの白いエプロンを着けている。
ちゃぶ台に並んだ料理は極めて質素。
ごはんとみそ汁に、焼き魚と漬物。
それが四人分。つまり「明子姉ちゃん」の分もある。
「では、これからの段取りをご説明します。」
いきなり明子姉ちゃんが立ち上がる。
「まずはみなさん、楽しく談笑しながらご飯を召し上がってください。」
そう言って明子姉ちゃんは、息子に顔を向けた。
「あなたは、頃合いを見計らって、お父様に何かムカつくことを言ってください。」
「え!?」困惑する息子。
「そうしたら、お父様、思いっきりちゃぶ台をバーンとやっちゃってください。」
明子姉ちゃんは両手を膝のあたりに下げ、手のひらを上に、バーンとすくい上げた。
驚く旦那。
「そ、そんなこと、やっていいんですか?」
「はい! ここは、なんたってエンタメ・ファミレスですから。」
姉ちゃんはニコやかに答え、座り直した。
「はい、では始めましょう。スタート!」
私たち「四人」家族は、いただきますと手を合わせ、食事にとりかかった。
そろそろ、息子のむかつく一言が出るかと待ち構えていたところ。
旦那がポソッた。
「本当は、父さんと息子と、明子姉さんの三人親子の設定なんだけどなあ。」
そう言って私の顔をちろっと横目で見た。
その一言でスイッチが入った。
「何よ!私が邪魔だっていうの……じゃあ、そのお姉さんとよろしくやってないさいよ!」
私はちゃぶ台を両手で跳ね上げた。
食べかけのご飯、みそ汁、おかずごと一緒に飛んでいき、旦那を直撃した。
これは快感。スーーっとしたわ。
また来よう。
明子姉ちゃんは柱の陰に隠れ、涙を流しながら恐るおそるつぶやいた。
「ごはんのおともは、やっぱり、ちゃぶ台ね。」
堂々オープン!
家族で楽しむ
エンタテインメント・レストラン
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日曜、郵便ポストにそんなチラシが投函されていた。
たまたま昼の用意をしておらず家の近所らしいし、旦那と高一の息子と一緒に行ってみた。
表に小さな看板は出ていたものの、そこはどうみても普通の民家。でも、古民家カフェとかそんなしゃれたものじゃなくて、普通の「築数十年」の古そうな一軒家。
「ごめんください。」
恐るおそるガラガラとドアを開ける。
若い女性スタッフが待ち構えていた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、エンタメファミレスへ!」
「……三人なんですけど、いいですか?」
「はい、どうぞおあがりください。」
私たちは居間に案内された。
やはり、普通の家庭の部屋だ。
ちょっと普通じゃないのは、居間全体が畳張りで真ん中にポツンとちゃぶ台が置いてあるところ。
座布団が並べられ、私たちは円卓を囲む。
割烹着姿のお婆さんがお盆にお茶を載せて入ってきた。」
「いらっしゃいまし……、では、メニューを紹介しましょうかね。」
お婆さんは一緒に持ってきたメニューを拡げ、円卓の上に置いた。」
「!?」
私たち親子三人顔を見合わせる。
メニューの左半分は、「熱血スポコンファミリーセット」
メニューの右半分は、「頑固親父のホームコメディセット」
と書いてある。
左側には懐かしいスポコンアニメのビジュアルが、右側には太った坊主頭のオジサンをセンターに、家族が並んだ実写版ホームドラマの写真がドーンと出ている。
「開店記念サービスで、スポコンセットには明子姉ちゃんが、ホームコメディセットにはキンばあちゃんがついとるよ、あ、キンばあちゃんってワタシのことね。」
「!?」
なんなんだ、このお店は?
私はアイコンタクトで、ここを出ようと旦那を促したが、
「あ、明子ねえさんの方で。」
とうわ言のようにオーダーを入れてしまった。
「イテッ!」
私は旦那のお尻をつねった。
「ご注文ありがとね。少し待っててね。」
老婆が少し残念そうに去って行った。
手持ち無沙汰になって旦那が床に置いてあった新聞を読み、私と息子がブラウン管型のテレビを見ていると料理が運ばれてきた。
運んできたのは、玄関で出迎えてくれた女性のようだが、白いブラウスにピンクの上下に着替え、腰にはハーフの白いエプロンを着けている。
ちゃぶ台に並んだ料理は極めて質素。
ごはんとみそ汁に、焼き魚と漬物。
それが四人分。つまり「明子姉ちゃん」の分もある。
「では、これからの段取りをご説明します。」
いきなり明子姉ちゃんが立ち上がる。
「まずはみなさん、楽しく談笑しながらご飯を召し上がってください。」
そう言って明子姉ちゃんは、息子に顔を向けた。
「あなたは、頃合いを見計らって、お父様に何かムカつくことを言ってください。」
「え!?」困惑する息子。
「そうしたら、お父様、思いっきりちゃぶ台をバーンとやっちゃってください。」
明子姉ちゃんは両手を膝のあたりに下げ、手のひらを上に、バーンとすくい上げた。
驚く旦那。
「そ、そんなこと、やっていいんですか?」
「はい! ここは、なんたってエンタメ・ファミレスですから。」
姉ちゃんはニコやかに答え、座り直した。
「はい、では始めましょう。スタート!」
私たち「四人」家族は、いただきますと手を合わせ、食事にとりかかった。
そろそろ、息子のむかつく一言が出るかと待ち構えていたところ。
旦那がポソッた。
「本当は、父さんと息子と、明子姉さんの三人親子の設定なんだけどなあ。」
そう言って私の顔をちろっと横目で見た。
その一言でスイッチが入った。
「何よ!私が邪魔だっていうの……じゃあ、そのお姉さんとよろしくやってないさいよ!」
私はちゃぶ台を両手で跳ね上げた。
食べかけのご飯、みそ汁、おかずごと一緒に飛んでいき、旦那を直撃した。
これは快感。スーーっとしたわ。
また来よう。
明子姉ちゃんは柱の陰に隠れ、涙を流しながら恐るおそるつぶやいた。
「ごはんのおともは、やっぱり、ちゃぶ台ね。」