赤い瓦屋根

文字数 2,008文字

月曜日。
「ぼくは、おじいちゃんとおばあちゃんが大好きです。あそびに行くと、いつもおもちゃや、おかしをくれます。おうちも好きです。ちょっとボロいけど、赤いかわらやねが、おしゃれです。お母さんは、りふぉーむすれば、て言いますが、おじいちゃんは、いいよと言います。」
「まさと君、じょうずに書けて、大きい声で読めたね。おじいちゃんとおばあちゃんにも読んであげてね。」

火曜日。
「ごめんください。あ、奥様ですか? 急な訪問で失礼いたします。」
「いえいえ構いませんのよ。どうせ私と主人の二人暮らしで、時間をもて余しているの。」
「ありがとうございます。あのー、大変申し上げにくいのですが、お宅、随分年季が入っていますね。」
「そうね。上の子が生まれてすぐだから、40年くらいかしら。」
「廊下など、ベコベコになってないでしょうか?」
「そうなのよ。何せ年寄り二人だから、転ばないかと気にしてたの。」
「実は私、お家のことでお困りになってないか、ご家庭にお邪魔して、お話をうかがってまして。今なら、無料で調査しますよ。いかがでしょう?」
「あら、いいのかしら、ではお上がりになって。」

「ええと、この廊下ですか。ほら、土台がボロボロになっています。これは修理しないと危険ですね。うちでは、最新素材できた補強台を設置するだけで済みますよ。今週中にもできます。」
「どうしようかしら。孫が廊下を走り回るしねえ。」
「そうでしょう。早いほうがいいですよ。本当は、お代は前払いですが、20万円だけ手付けを入れてもらえば、残りは後で構いません。」
「あらごめんなさい。今は持ち合わせがなくて。今度おみえになったとき、まとめてでもいいかしら。」
「もちろんです。では、工事は金曜の午後に予定しておきますね。」

水曜日。
「こんちわー、先日お邪魔したリフォーム会社の者です。」
「やあ、屋根の工事の人だったね。」
「はい。屋根に上らせてもらい、検査した結果をお持ちしました。」
「どうお上がりください。ばあさん、屋根の人が見えたよ。一緒に話聞いておくれ。」
「はいはい、今お茶を用意しますから。」

「検査結果、写真を見ながらご説明しましょう。パソコンの画面をご覧ください。瓦自体に損傷はないのですが、ここ。しっくいがかなり剥がれているのと、垂木が建物から浮いています。雨漏りや地震での落下が懸念されます。補修が必要ですね。」
「これは不安だ。ばあさん、どうしたもんかな。」
「幸いウチでは、近くのお宅で工事してまして、資材と人工をそのまま手配できます。今週金曜なら、一部前金となりますが特別価格で受けますよ。」
「じゃあ、頼むとするか。」
「ありがとうございます。では金曜の午後から入ります。」

金曜日。
「こんにちはー、工事に参りましたー、あれ、うちのとは違うトラックが停まってる。」
「やあ、同業者ですね。お宅は廊下ですか。ウチは屋根の工事なんだけど、室内もやってるし、惜しかったな。」
「まあ、お互いうまくやりましょう。」
「あんまり完璧に直したら、追加工事の仕事がもらえなくなっちゃいますからねえ。」

「あら、お二方ともいらっしゃい。車うまく置けたかしら。」
「はい、大丈夫です。」
「では、さっそく、工事にとりかかりますんで。」
「その前にお茶でもいかが。用意してありますの。あ、作業される皆さんの分は、おじいさんが届けてますのよ。さあ、こっちにどうぞ。」
「では、お言葉に甘えて。」

 案内されたリビングには、警察官が2名。
「お二方、署までご同行いただき、話を聞かせてもらえますか。この辺はリフォーム詐欺の被害が多いもので。」
「あら、おまわりさん、お茶とお菓子を用意したの。少し待ってさしあげて。」

 一服して、リフォーム詐欺業者はパトカー後部に乗せられる。見送りに出た老夫婦。
「いつもありがとうございます。おかげさまで最近被害はだいぶ減っています。」
「いえいえ、少しでもお役に立てれば。でも今回、ゴキちゃん、二匹かかって手間が省けたでしょ?」
 悪戯っぽく微笑む、おばあさん。

「巡査長、民間の方に業務委託してるって聞いてましたが、凄腕っすね!」
「ああ、お前は赴任間もないから知らないだろうが、あのお家は、敬意を込め『詐欺ホイホイ』と呼ばれている。」
「あー! 平屋で赤い瓦屋根。もうそれにしか見えないっす。」

日曜日。
「おじいちゃん、おばあちゃん、きたよー!」
「いらっしゃい、まさと。美味しいお菓子があるわよ。」
「やった! あとね、ぼく、がっこうで作文がじょうずって、ほめられたんだ。」

 さっそく、原稿用紙を取り出し、読み出す正人。
「おじいちゃんとおばあちゃん、ずっとしあわせでいて欲しいです。オレオレさぎなんかにひっかからないでね。ボクのこえと、あいことばをしっかりおぼえておいてね。」
「ありがとう、まさと。本当に上手ね。」
 おばあさんは目配せしておじいさんに声をかける。
「用心するわ。ね、おじいさん。」
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