どっちのあめあめ

文字数 492文字

Eテレをみていたトモが、ピョンピョンと台所にやってきた。
「ママあー! あめふりくまのこ、やってるよ。」
この子は本当にこの歌が大好きだ。

しょうがないなあ、と夕食の支度を中断し、手をタオルで拭いて、テレビモニターの前に座る。すかさず、トモは私の膝の上にちょこんと乗る。
私はトモの手をとり、歌にあわせて、上半身だけのトモ専用オリジナル振り付けを一緒に踊る。

歌が終わり、私はトモに尋ねる。
「この歌の、どこが好き?」
「くまさんが、楽しそうで、ちょっとさびしそうなとこ。」
「確かにちょっとさびしそうね。」
「うん、パパみたい。」
「・・・」

夫は、単身で山林保護の仕事に赴任している。
小川を覗く夫の姿を想像して、可笑しくなった。

「ねえ、パパにあれ、歌ってあげて。」
ちょっと心の準備が必要だが、意を決し、照明を落とす。

♪あめあめ降れ降れ、
 以下、省略 ♪

振り付けをしっかり入れて、
情感を込めて歌い上げた。

パチパチ・・・

歌い終わり、閉じていた眼を開けると、夫が手を叩きながら、呆然とトモの隣に立っていた。

「なんであなた、ここにいるの!?」
「いやなんか、だれかのいい人連れてこいって、ここに連れてこられた。」
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