二世代の涙

文字数 838文字

電車を降り、コピーした地図をみながら、歩いて10分の学校を目指す。
ぼくと同じように、親と一緒に歩いている子供たちがいっぱいいるから、地図なんかいらないと思うけど。

校門の前には、僕の塾の先生が何人も応援に来ていた。

「がんばれ!」
「リラックス。」
「今日で決まるよ。」
ゲキを飛ばして、ハイタッチしてくれる。
ぼくが受験した、ほかの学校の校門の前でも、同じ「おまじない」をしてもらった。

「じゃあ、行ってくる。」とぼく。
「ああ、気楽に構えろ。」とパパ。

校門から先は、親は入れない。

十メートルくらい進んで、ぼくは振り返る。
パパはうつむいて、涙を拭いている。

ぼくは立ち止まり、
パパに、「?」と首をかしげる。

ぼくは、笑って手を振ってみた。
パパは、笑顔を見せ、「がんばれ!」と叫んだ。



電車を降り、スマホを頼りに、徒歩10分の道のりを歩く。
私たちと同じように、親子連れで歩いている子供達がいっぱいいるから、ナビは不要だが、念には念を入れ学校までの道のりを確かめる。

校門の前には、娘の塾の先生が何人も応援に来ていた。

「がんばれ!」
「リラックス。」
「今日で決まるよ。」

激励とともに、娘とハイタッチを交わしてくれる。
娘が受験した、他の学校の校門の前でも、同じ「儀式」が繰り返された。

「じゃあ、行ってくるね。」と娘。
「ああ、いつもと同じで大丈夫だよ。」と私。
校門から先は、私たち親は入れない。

思いがけず。
娘の後ろ姿を追っていたら、涙がボロボロこぼれた。

小学3年から、夜遅くまで塾通いを続け、
いざ受験が始まると、残念な結果が続いた。
小さな体で、それを気丈に受け止め、次に向かう。
私は、ずっと残酷な無理強いをしてきたのではないか?

娘は十メートルくらい進むと、ふと立ち止まり、振り返る。
私の表情を見て、「?」と首をかしげる。

そして、私に笑顔を見せ、手を振る。
私も、意地で笑顔をつくる。

大きく手を振り、「がんばれ!」と叫んだ。

今更ながら。
父の涙の理由を知る。

今更ながら。
子供には、涙よりも笑顔が必要なことを知る。
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