ボンボン

文字数 683文字

2歳の娘と、家でお留守番。

 ピンポン玉、テニスボール、手毬、いろんな球をころがして、キャッチボール。
 夢中になって遊んでいた娘が、ふと顔を上げ、私の背後に視線・焦点を合わせる。

「あ、きたー! 」
 嬉しそうに手を振る娘。

「何が来たの? 」
 後ろに誰もいないことを確かめて聞いてみる。

「ボンボンでしょ! 」
「? 」

4歳になった娘とお散歩帰り。

「ともちゃんさー、ちっちゃいころ、『ボンボンが来たー』って言ってたけど、覚えてる? 」
 アイスを美味しそうに舐めている娘に聞く。

「うん、おぼえてるよ。いまもときどき、くるよ。」
「そうなんだ。どんな時に来るの? 」
「ひとりぼっちで、さびしいとき。ねむいとき。」


小学生になった娘のスイミングクラブのお迎えへの車の中。

「とも、ボンボンって、今も来るの? 」
「何それー? 知らない。」
「そう、それならいいんだ。」


 89歳になった私。

 目を覚ます。手足を動かそうとしても力が入らない。
 寝返りも打てなくなった。
 そろそろ。今日くらいかな。

 誰かが「生まれる時はひとり、死ぬ時もひとり」と言っていたような気がする。
 ほんとうにそうだったな。

 ボンボン。 

 柔らかいものが、僕の頭をたたく。軽く、優しく。
「君は、ひとりじゃないよ。」

 何とか目を開けると、白くてふわふわの毛が生えた、大きくて丸っこい、ぬいぐるみみたいのが、つぶらな黒い瞳でぼくを見つめている。

 手が伸びてきて、僕をぎゅっと抱きしめる。

 僕は、理解し、何とか声にする。
「いっしょに、いて、くれたんだね。  娘と、一緒に。  僕と、一緒に。 見えて、 よかった。  ありがとう。」

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