親父の グッジョブ
文字数 1,351文字
うーん困った。
来週土曜は、海開きだ。
我が家では、家族で海の家を経営している。
海の家の成否は、いかに集客できるかにかかっている。
ここ五年ばかり、長女がいい仕事をしてくれた。
『可愛いJK(後にJD)が笑顔で接客してくれる海の家』ということで、繁盛していた。
しかし、彼女は就活に難航しており、この夏はとても手伝いは頼めそうにない。
仕方がないので、家族でそれぞれ順番に店先に立ち、客引き、もといお店への案内をして、誰がヒキがいいかを見極めることにした。
いよいよ海開きの日を迎えた。
まず俺が店頭に立つ。
水着姿の若い女の子達が店の前を通る。・・・しかし、微妙に避けられているような。
「視線がスケベらしい。失格。」
と妻にダメ出しを食らう。
お次は、その妻。
おお、なかなか人の入りがいいぞ。でも、客層はマダムばかり。席はすぐに満席になるが、みんなおしゃべりが長くて回転率が悪い。何でそこに妻まで加わっているんだ?
三番バッターは、うちの次女。
小学五年生。凄い集客力だ!
満席、飲み物も食べ物もどんどん出る。
ただし。
客層に問題が・・・
次女に何かがあってはいけないので、調理場に引っ込んでもらうことにした。
最後の切り札は、爺ちゃん。つまり俺の親父。
八十をゆうに超え、白髪に白ひげ姿だ。
熱射病に気遣いながら、店先に立ってもらう。
しばらくの間、店内はガラガラだったが、
そこに1匹のアオウミガメがノソノソと店先まで這い寄ってきた。
そいつは祖父の姿を認めると、目を丸くし、クチをパカッと開けて、動作が止まった。
やっと動き出したかと思うと、回れ右してバタバタと海に戻っていった。
日が傾き、間もなく夕暮れを迎える。
そのとき。
遥か彼方の水平線あたりで海水がバシャバシャ波打ち、やがて複数の人影が砂浜をめがけて接近してくる。
海水浴客か?
いや違う。
砂浜に上陸した謎の集団は、みんな女性で艶やかな衣装を身に纏っている。
さっきのウミガメもノソノソとついて来ている。
なぜか、鯛やヒラメも陸に上がり、宙を泳いでいる。
遂にウチの海の家の店先にまで来た。
「タロちゃん、お久しぶり。」
先頭の美女がウチの親父にウィンクする。
「おお、久しぶりじゃ。」
彼女は、親父を一瞥し、少し笑みを浮かべながら言う。
「やっぱ、アレ、開けちゃったのね。」
「いやー、ただの老化だと思うけど・・・」
親父は頭を掻いて照れ笑いする。
「カメちゃんに聞いてね、お困りのようなので、みんなで手伝いにきたの。」
「乙姫殿、それはありがたい。」
お付きの若い女性達はそれぞれ大きな荷物を持って店に上がり込み、何やら支度を始めた。
店先に大きな提灯がぶら提げられた。
『夕暮れ酒場 竜宮城』。
親父に乙姫と呼ばれた美女をはじめ、若い女性達は着ていた服を脱ぎ、ビキニの水着姿になった。
そのうちの数名が店先で『さあ、いらしゃーい!』と声をかける。
帰りかけていた男性の海水浴客が次々と店に吸い込まれる。
その夏は海の家がクローズされるまで、『夕暮れ酒場 竜宮城』は大盛況となり、連日鯛やヒラメが舞い踊った。
親父の過去に何があったか知らないが、この夏の我が家のMVPであることに間違いはない。
お盆の翌日、親父は『婆さんが夢枕に化けて出て、蹴とばされたわい』と青くなっていた。
夏も間もなく終わるが、長女の就活は絶賛難航中だ。
来週土曜は、海開きだ。
我が家では、家族で海の家を経営している。
海の家の成否は、いかに集客できるかにかかっている。
ここ五年ばかり、長女がいい仕事をしてくれた。
『可愛いJK(後にJD)が笑顔で接客してくれる海の家』ということで、繁盛していた。
しかし、彼女は就活に難航しており、この夏はとても手伝いは頼めそうにない。
仕方がないので、家族でそれぞれ順番に店先に立ち、客引き、もといお店への案内をして、誰がヒキがいいかを見極めることにした。
いよいよ海開きの日を迎えた。
まず俺が店頭に立つ。
水着姿の若い女の子達が店の前を通る。・・・しかし、微妙に避けられているような。
「視線がスケベらしい。失格。」
と妻にダメ出しを食らう。
お次は、その妻。
おお、なかなか人の入りがいいぞ。でも、客層はマダムばかり。席はすぐに満席になるが、みんなおしゃべりが長くて回転率が悪い。何でそこに妻まで加わっているんだ?
三番バッターは、うちの次女。
小学五年生。凄い集客力だ!
満席、飲み物も食べ物もどんどん出る。
ただし。
客層に問題が・・・
次女に何かがあってはいけないので、調理場に引っ込んでもらうことにした。
最後の切り札は、爺ちゃん。つまり俺の親父。
八十をゆうに超え、白髪に白ひげ姿だ。
熱射病に気遣いながら、店先に立ってもらう。
しばらくの間、店内はガラガラだったが、
そこに1匹のアオウミガメがノソノソと店先まで這い寄ってきた。
そいつは祖父の姿を認めると、目を丸くし、クチをパカッと開けて、動作が止まった。
やっと動き出したかと思うと、回れ右してバタバタと海に戻っていった。
日が傾き、間もなく夕暮れを迎える。
そのとき。
遥か彼方の水平線あたりで海水がバシャバシャ波打ち、やがて複数の人影が砂浜をめがけて接近してくる。
海水浴客か?
いや違う。
砂浜に上陸した謎の集団は、みんな女性で艶やかな衣装を身に纏っている。
さっきのウミガメもノソノソとついて来ている。
なぜか、鯛やヒラメも陸に上がり、宙を泳いでいる。
遂にウチの海の家の店先にまで来た。
「タロちゃん、お久しぶり。」
先頭の美女がウチの親父にウィンクする。
「おお、久しぶりじゃ。」
彼女は、親父を一瞥し、少し笑みを浮かべながら言う。
「やっぱ、アレ、開けちゃったのね。」
「いやー、ただの老化だと思うけど・・・」
親父は頭を掻いて照れ笑いする。
「カメちゃんに聞いてね、お困りのようなので、みんなで手伝いにきたの。」
「乙姫殿、それはありがたい。」
お付きの若い女性達はそれぞれ大きな荷物を持って店に上がり込み、何やら支度を始めた。
店先に大きな提灯がぶら提げられた。
『夕暮れ酒場 竜宮城』。
親父に乙姫と呼ばれた美女をはじめ、若い女性達は着ていた服を脱ぎ、ビキニの水着姿になった。
そのうちの数名が店先で『さあ、いらしゃーい!』と声をかける。
帰りかけていた男性の海水浴客が次々と店に吸い込まれる。
その夏は海の家がクローズされるまで、『夕暮れ酒場 竜宮城』は大盛況となり、連日鯛やヒラメが舞い踊った。
親父の過去に何があったか知らないが、この夏の我が家のMVPであることに間違いはない。
お盆の翌日、親父は『婆さんが夢枕に化けて出て、蹴とばされたわい』と青くなっていた。
夏も間もなく終わるが、長女の就活は絶賛難航中だ。