制限の中の 無限の自由

文字数 1,439文字

夕食の後、打ち明ける。

「うちの高校、制服を復活することにしたの。」
「・・・そうか。残念な気もするが、お前たちが決めることだ。」
 緑茶を一口啜って、父はさほど感情を込めずに言ったが、さぞかし無念だろう。

 遡ること、今から25年前。
 それは、私が通う学校のレジェンド(伝説)として、語り継がれている。

 私服化。

 それを推し進めていたのは、父を会長とする生徒会だ。
 その必然性を強く強調し、生徒を一人一人説得し、抵抗勢力である先生達に、ねばり強く根回しし、懐柔した。

 全ては自由のために。
 抑圧された空気を変えるために。

 こうして制服の廃止が実現した。
 しかも、高校生らしければ、自己裁量で特に制限もなく、着ていく服を選べる校則とした。

 時代は変わる。

 私は、父の母校に入学し、2年で生徒会長になった。
「やっぱ、制服の方がいいよねー、なに着ていくか悩まなくて済むし、ウチの高校の制服可愛いよねって言われたいし。結局、制服の方がお金かからなさそうだし。」

 そんな会話がよく聞かれるようになり、生徒間のコミュニティネットでも、制服復活の要望が数多く上がっている。

 ある日、私は生徒会顧問の教師に呼ばれた。
「そろそろ、制服復活も考えた方がいいんじゃないかな? そうそう、みんなが気に入りそうなの、何社かの業者さんにデザイン案と見積りとったから。参考にしてみて。」
 ファイルを渡された。そこには、制服のデザイン案と見積りが何案か綴じられている。

 どれもカッコいい(男子用)し、可愛い(女子用)。こういうの、うちの生徒、多分喜ぶんだろうな。
 父には大変申し訳ないが、制服の復活の線でいこうと、副会長、書記それに会計担当と話し合った。

 生徒会幹部会の終了間際、会計のサトルが指摘する。
「どの制服案の見積りも無茶苦茶高くて、しかも同水準じゃないすっか?」
 確かに。どの案も、夏冬服、そして靴とコートを会わせると20万は下らない。

 父の武勇伝を思い出した。
 制服廃止のウラの理由には、教師と納入業者の癒着があったからだ。それを断ち切るのに、最も苦労したと言う。内申書への影響を仄めかす教師もいたらしい。
 でも、父は戦った。

 私は私の選択をする。
「ねえ、みんな、この件、もうちょっと話しあってもいい?」
 私たちは、高校の理事会にぶつける案を練った。

 生徒たちが制服の復活を求める、その真意。
 制服廃止の時から培われた、責任を伴う自由、自主性の追求という信条。
 そして、経済的負担の軽減。
 これらを根拠に、制服復活案を提出し、全校生徒会に諮った。
 抵抗を試みようとする教師もいたが、生徒の総意に後押しされた生徒会を相手に、なす術がなかった。

 制服に関する校則案

一、高校生の制服として社会的に認知されているものであれば、そのデザインは自由に選択できる ただし、他校の制服の着用は禁ずる

一、スカートやスラックス、どちらを選択するのも、個人の裁量に任せる

一、わが校の伝統を重んじ、自己責任において、選択すること

 新学期から、この校則が施行された。
 生徒たちは、学校制服の専門店、専門サイトで自由に制服を選んだ。

 百花繚乱。
 この結果、登校時などは、多様な制服のオンパレードだが、皆、表情は明るい。

 ある日の朝、生徒会長二期目を務める私は、玄関で靴を履く。
「行ってきます。」
 父は、私の制服姿を見て、嬉しそうにサムアップする。

 靴まで隠れる超ロングスカートは、少し扱いづらい。

 私の通り名は、『スケバン会長』だ。

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