第4話
文字数 1,869文字
☆
うぇーん。
泣きたくなるわたし。
乙女の花園であるこの女学園、ウワサになると厄介なのですぅ。
両手に水を入れたバケツを持って廊下で立っていると、ぎゃはははは、と大笑いする声が聞こえてきた。
振り向くと、高等部三年生のバッジをつけた長髪の子が、こっちに向かって歩いてきた。
その子は腰ベルトに大きめのテディベアのぬいぐるみを留めている。
その子はわたしのそばに来ると、わたしの頭をなでなでした。
「なっ! なんですかぁ、もぅ! わたしの頭を撫でていいのはコノコ姉さんだけですぅ〜!」
「いや、わりぃな、うっしっし。あたしゃー、姫路ぜぶら。ぜぶらちゃんって呼んでもいいぜ?」
「そうですか。ぜぶらちゃん。見たところ三年生のようですが、一年生の教室のある階に、なんの用で?」
うちの学園高等部は、学年ごとに、階が違う。
三年生がいるのはおかしいし、今は授業中だ。
「いや、御陵 がおまえを気にしていたみたいだからよぉ」
「御陵って、生徒会長さんですよね。なぜ、わたしを?」
「あっは。わからねぇならいいよ、知らんでも。ただ、ぜぶらちゃんはおまえ、佐原メダカを気に入ったって話だ」
「はぁ?」
「さぁて。佐原メダカの〈病 〉は、なにかな?」
「ディスオーダー?」
「いや、わからねぇならいいよ。この世界の理なんて、知らねぇ方がいい」
ぜぶらちゃんは、自分の頭の後ろに両手を回して、ひゅー、と口笛を吹いた。
「でも、どうやらおまえの〈ディスオーダー〉は、闇が深いな。いや、〈病みが不快〉の言い間違いか。錯乱系の異能か? いや、わからねぇ」
「はぁ? もしかしてイカレたひとです? ぜぶらちゃん。漫画と現実の区別がついていない系のひとですか? 漫画は古代の洞窟の壁画にも描かれていた、日本の貴重な文化でして」
「おまえ、狂ってんな、ずいぶん。いやしかし、だ」
「なんですか、次は」
ぞくっと悪寒がした。
ぜぶらちゃんの背後に近づいて来るひとの、その瞳と目を合わせた途端、わたしは、身動きが取れなくなった。
「ぐっ、ぐぎぎ……」
口も動かない。
身体も、完全にコントロール不可能になっている。
自分の背後を見ないで、その人物に、ぜぶらちゃんは、声をかける。
「おい。一年生にやめてやれよ、御陵。おまえ、このぜぶらちゃんと佐原メダカが接触するのを嫌っていたみてーだがよー。そう言ってもいられねーだろーがよっ!」
と、言い終えるか否かで、回し蹴りを自分の背後に向けて繰り出す。
その蹴りの脚を、片手で受け止めて、握った脚を背負い投げの要領でぶん投げた。
ぶん投げたそのひとは生徒会長だ。
吹き飛ばされ、わたしの教室の壁に激突するぜぶらちゃん。
「痛っぇ……」
「当然よ。痛いように投げたのだから」
ふっと、全身の力が抜けて、わたしもその場に倒れる。
バケツの水が廊下にぶちまけられ、その水の中にわたしは落ちる。
制服も水でびしょびしょになった。
現れた会長は、わたしとぜぶらちゃんを見下ろし、そしてわたしの身体を脚で踏みつけた。
「わたくしの〈ディスオーダー〉は空間・心を取り扱う〈ディペンデンシー・アディクト〉の一種で、〈石化〉の能力なの。覚えておかなくてもいいけど……」
踏みつけていた脚で今度はわたしを蹴り上げた。
横に転げるわたし。
「わたくしの大切な姫路へ、勝手にちょっかいをださないでくれないかしら」
「はい?」
発音できるようになったわたしは、横で転げて「いてててて」と唸っているぜぶらちゃんを横目に、疑問系の声を上げてしまった。
「行くわよ、姫路」
「クッソ! わかったよ、御陵」
起き上がる姫路ぜぶらちゃん。
「あー、あー、制服がびしょびしょだよ、どーすんだ、これ」
「さぁ? 知らないわ」
二人の会話を聞きながら、頭を振って気を奮い立たせると、わたしは立ち上がる。
廊下は転がったバケツからの水が床に広がって、水浸し状態だ。
「ぜぶらちゃんと御陵会長は、どういうご関係で?」
御陵生徒会長に尋ねるわたし。
「姉妹の契りを結んでいるわ。……それだけよ」
「それだけって……」
うっ、重い。
近寄りがたいひとだ、会長さん。
姉妹の契りって……。
教室がざわめき出した頃には、ぜぶらちゃんと御陵会長さんは、姿を消してしまっていた。
「まぁ! なんザマスか! 佐原さん! これはどういうことザマス!」
「さぁ? わからない……ザマス?」
「口が減らないようザマスね、佐原さん」
廊下を水浸しにしたわたしは、担任の先生からその後、みっちりと説教を喰らったのでした。
こっちこそ、なんなんですかぁ、もう!
うぇーん。
泣きたくなるわたし。
乙女の花園であるこの女学園、ウワサになると厄介なのですぅ。
両手に水を入れたバケツを持って廊下で立っていると、ぎゃはははは、と大笑いする声が聞こえてきた。
振り向くと、高等部三年生のバッジをつけた長髪の子が、こっちに向かって歩いてきた。
その子は腰ベルトに大きめのテディベアのぬいぐるみを留めている。
その子はわたしのそばに来ると、わたしの頭をなでなでした。
「なっ! なんですかぁ、もぅ! わたしの頭を撫でていいのはコノコ姉さんだけですぅ〜!」
「いや、わりぃな、うっしっし。あたしゃー、姫路ぜぶら。ぜぶらちゃんって呼んでもいいぜ?」
「そうですか。ぜぶらちゃん。見たところ三年生のようですが、一年生の教室のある階に、なんの用で?」
うちの学園高等部は、学年ごとに、階が違う。
三年生がいるのはおかしいし、今は授業中だ。
「いや、
「御陵って、生徒会長さんですよね。なぜ、わたしを?」
「あっは。わからねぇならいいよ、知らんでも。ただ、ぜぶらちゃんはおまえ、佐原メダカを気に入ったって話だ」
「はぁ?」
「さぁて。佐原メダカの〈
「ディスオーダー?」
「いや、わからねぇならいいよ。この世界の理なんて、知らねぇ方がいい」
ぜぶらちゃんは、自分の頭の後ろに両手を回して、ひゅー、と口笛を吹いた。
「でも、どうやらおまえの〈ディスオーダー〉は、闇が深いな。いや、〈病みが不快〉の言い間違いか。錯乱系の異能か? いや、わからねぇ」
「はぁ? もしかしてイカレたひとです? ぜぶらちゃん。漫画と現実の区別がついていない系のひとですか? 漫画は古代の洞窟の壁画にも描かれていた、日本の貴重な文化でして」
「おまえ、狂ってんな、ずいぶん。いやしかし、だ」
「なんですか、次は」
ぞくっと悪寒がした。
ぜぶらちゃんの背後に近づいて来るひとの、その瞳と目を合わせた途端、わたしは、身動きが取れなくなった。
「ぐっ、ぐぎぎ……」
口も動かない。
身体も、完全にコントロール不可能になっている。
自分の背後を見ないで、その人物に、ぜぶらちゃんは、声をかける。
「おい。一年生にやめてやれよ、御陵。おまえ、このぜぶらちゃんと佐原メダカが接触するのを嫌っていたみてーだがよー。そう言ってもいられねーだろーがよっ!」
と、言い終えるか否かで、回し蹴りを自分の背後に向けて繰り出す。
その蹴りの脚を、片手で受け止めて、握った脚を背負い投げの要領でぶん投げた。
ぶん投げたそのひとは生徒会長だ。
吹き飛ばされ、わたしの教室の壁に激突するぜぶらちゃん。
「痛っぇ……」
「当然よ。痛いように投げたのだから」
ふっと、全身の力が抜けて、わたしもその場に倒れる。
バケツの水が廊下にぶちまけられ、その水の中にわたしは落ちる。
制服も水でびしょびしょになった。
現れた会長は、わたしとぜぶらちゃんを見下ろし、そしてわたしの身体を脚で踏みつけた。
「わたくしの〈ディスオーダー〉は空間・心を取り扱う〈ディペンデンシー・アディクト〉の一種で、〈石化〉の能力なの。覚えておかなくてもいいけど……」
踏みつけていた脚で今度はわたしを蹴り上げた。
横に転げるわたし。
「わたくしの大切な姫路へ、勝手にちょっかいをださないでくれないかしら」
「はい?」
発音できるようになったわたしは、横で転げて「いてててて」と唸っているぜぶらちゃんを横目に、疑問系の声を上げてしまった。
「行くわよ、姫路」
「クッソ! わかったよ、御陵」
起き上がる姫路ぜぶらちゃん。
「あー、あー、制服がびしょびしょだよ、どーすんだ、これ」
「さぁ? 知らないわ」
二人の会話を聞きながら、頭を振って気を奮い立たせると、わたしは立ち上がる。
廊下は転がったバケツからの水が床に広がって、水浸し状態だ。
「ぜぶらちゃんと御陵会長は、どういうご関係で?」
御陵生徒会長に尋ねるわたし。
「姉妹の契りを結んでいるわ。……それだけよ」
「それだけって……」
うっ、重い。
近寄りがたいひとだ、会長さん。
姉妹の契りって……。
教室がざわめき出した頃には、ぜぶらちゃんと御陵会長さんは、姿を消してしまっていた。
「まぁ! なんザマスか! 佐原さん! これはどういうことザマス!」
「さぁ? わからない……ザマス?」
「口が減らないようザマスね、佐原さん」
廊下を水浸しにしたわたしは、担任の先生からその後、みっちりと説教を喰らったのでした。
こっちこそ、なんなんですかぁ、もう!