第12話

文字数 1,546文字

   ☆



「メダカちゃん! 起きるのだぁー! 学園に行くのが遅れるのだ! 急いでトーストを口にくわえて学園へ走っていくのだ!」
「え〜? なんですぅ、その漫画みたいな奴は〜?」
「わたしは先に向かうのだ。あと、全裸で眠らない方がいいのだ!」
「はい? え? きゃっ! 見ないでください、コノコ姉さん! このえっちぃ!」
「いいから服を着て学園へ向かうのだ」
「もう、わかりましたよぉ」
 そこまで言うと、階段をダッシュして降りて、コノコ姉さんは家である珈琲店を出ていった。
 いつもの朝がやってきましたぁ〜。
 上半身をお越し、裸で背伸びするわたし。
 佐原メダカ、再起動ですぅ。


 コノコ姉さんに言われた通り、トーストを齧りながら、学園へと向かう。
 いつもの風景。
 坂を下って西にある、空美野学園に着くと、校門を抜けたグラウンドに、ひとがたくさん集まっている。
「一体、なんなのでしょうか?」
 風紀委員の校門でのチェック、今日はなかったなぁ、と思ったら、グラウンドでひとが押し寄せないように、風紀委員が総出になって、人垣の整理をしていた。
「これは……なにごとかありますねぇ」
 独り言を漏らしていると、後ろから肩を叩かれた。
 振り返って見たら、空美野涙子さんだった。
「あ。涙子さん、おはようございますぅ」
「おう。今日も元気そうだな、メダカ」
「そりゃもう、こころがぴょんぴょんというか、こころがビクッビクンッ、ていうか、ビンビン物語なのです」
「全然意味がわからないが、元気そうなのはわかるぜ」
「ありがとうございます」
「あー、なんていうか、この人垣、どうすんだろうなぁ、うちの生徒会は。警察を介入させないでやろうとする気なんだろうけど、そりゃぁ悪手かもしれないぜ」
「この人垣がなんだかわかってる風な口ぶりですね、涙子さん」
「友達からメールが入ってきてさ。一応、わかる」
「なんなのですかぁ?」
「事件だよ」
「事件? 殺人事件とか、起こっちゃいましたかぁ」
「惜しい」
「惜しいって、わたしは冗談で言ってるのに、惜しいとは、まるでひとが死んだかのようなこと言うじゃありませんか。不謹慎ですよぉ?」
「いや、……本当に死んだんだよ。ま、人間じゃなくて、犬、らしいんだがな」
「犬?」
「ここからはわたしが説明するのだ」
「あ。コノコ姉さん」
 コノコ姉さんがどこからともなくやってきた。
「メダカちゃん、探していたのだ」
 と、コノコ姉さん。
「どういうことなのですか〜、これ」
 と、訊くわたし。
「〈犬神博士〉の術式なのだ」
「犬神……博士?」
「牝犬を一週間飲まず食わずにしたあと、首から上だけを地上に出して生き埋めにするのだ。で、空腹のその犬の目の前に食べ物をたくさん並べる。すると、目も舌もつり上がって、神々しい姿になる、とされているのだ。そして、その神々しさが最高潮に達したときに、後ろから忍び寄って、背後から首を斬るのだ。それからその首を素焼きの壺に入れて黒焼きにする。その壺をご神体にして占いに使う術式、それが〈犬神博士〉なのだ」
「え? まさか首を刎ねられた犬が、グラウンドに埋められている、ということですか?」
「そういうことなのだ」
 そこに涙子さん。
「犬神博士の神通力で自分の〈ディスオーダー〉能力にバフをかけりゃ、だいぶ〈使える能力者〉になれるしな」
「バフ、とは?」
「バフってのは、この場合は自分の能力を神通力で底上げする、って意味合いだ。異能力者が集まってるここ、空美野学園だからこそ起こった事件だな、こりゃ」

 えぐいことになってしまいましたぁ。
 平穏はこうして破られるのですね!
 ……なーんて期待をちょっとしていたわたしだけど、授業は普通に始まったのでした。
 学校という奴は、得てしてそういう非情なところ、ありますよねぇ、全くもう。



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