第17話

文字数 1,750文字

   ☆




 ラピスちゃんは、話し出す。
「にゃたしは、あるとき、外仕事のバイトを手伝ったことがあるのにゃ。そのとき、有名大学の非常勤講師が空いた時間を使ってにゃはりバイトをやっていて、一緒に仕事をすることになったんにゃ。その大学の生徒もバイトにいて、非常勤講師を見かけてビビってたにゃぁ。で、休み時間、その講師と一緒ににゃたしはコンビニへ行って昼ご飯を買うことになったんにゃよ。で、講師はお弁当コーナーで、横にいるにゃたしを見て、こう言ったのにゃ。〈このなかに、ひとつだけ「正解」がある〉と」
「はぁ。ひとつだけ、お弁当で正解があって、あとは外れ、ということですか」
「そういうことにゃ。昔の話になるのにゃが、コンビニ弁当は保存料や、お米の光沢剤使用の問題で、いろいろ言われていた時期があるのにゃよ。で、それは置いて、〈もしもコンビニ弁当を買うしかなかったら、正解はひとつしかない。または、それに類似する特徴を持った弁当を選ぶしかない場合、正解はなにか〉と、その講師は言ったんにゃ」
「で。どれが正解だったのですかぁ」
「答えは、『幕の内弁当』にゃ」
「何故ですかぁ? 意味がわかりません。だって、ほかの弁当と同じ保存料や光沢剤の問題を抱えている可能性を考えたら、具材のひとつひとつに違いがある、というのは種類が違うだけで保存料などは同様に使われているから、問題自体は解決できない」
「ふふ〜ん。具材の種類ではなく、ここで問題にゃったのは、種類の〈数〉だったのにゃ」
「んん? どういうことですかぁ」
「つまり、幕の内弁当は、〈ほかのコンビニ弁当と比べて、異様なまでに入っている具材の品目が多い〉ので、正解だったのにゃ」
「品目が多い、とは?」
「一日に推奨されている食べなくちゃならない食材の品目って、めちゃくちゃ多いのにゃが、そこを幕の内弁当はクリア出来るか、クリアに近い数の品目を一回の食事で食べることができるのにゃ。それが、例えば唐揚げ弁当だったら、下手すると唐揚げしか入ってなくて、品目の種類が極端に少ない。〈指標から考えて、おいしい部分が少ない〉のにゃよ。選ぶなら、なにかしら〈自分の益になる〉ものを選ぶのがよい、と考えた場合、少なくとも、品目の数という課題だけでもクリア出来る幕の内弁当は、ほかより優れた点がある、ということで、その講師は〈これが正解だ〉と言ったのにゃ」
「なるほど!」
「ふふ〜ん。安楽椅子探偵みたいにゃ、今のにゃたし! にゃははははは」
「えぇー。全然答えになってないですよぉ。冤罪の話はどうしたのですかぁ」
「ああ。それにゃ」
「それにゃ、じゃなくて」
「近江キアラは、手に触れたものを爆弾に変えることが出来る能力者にゃ」
「そうみたいですねぇ」
「それ、〈犬神博士〉の術式でパワーアップさせて、意味あるのかにゃ」
「と、言いますと?」
「手りゅう弾や時限爆弾みたいな使い方の能力にゃろ、あれは。それが例えば街全体破壊できるようにして、意味あるのかにゃ? 無差別に殺せるようになるだけにゃろ、爆弾の火力が強くなっても」
「そうなのですか?」
「〈犬神博士〉は、純粋に異能のレベルを上げる術式にゃ。異能の〈特性〉を変えるわけじゃにゃいのにゃ」
「異能の、特性を変えるわけではない……」
「さっきの弁当の話で言えば、品目の数が増えるわけにゃない。特盛り唐揚げ弁当みたいなものにゃ。ご飯が多くなったり、唐揚げの数が増えるだけにゃ。そう考えると、最初からレベルを上げたときに効果を発揮する能力の底上げをはかるための術式にゃから、さっきで言えば、幕の内弁当みたいな答えがあるはずなのにゃ」
「故に、近江キアラちゃんは冤罪である、と」
「そういうことにゃ」

 わたしはソファから立ち上がる。
「わたし、佐原メダカは、近江キアラちゃんを助けに行きますッッッ!」
「犯人は、尋ねないのかにゃ」
「どうせ、思案中でしょ。安楽椅子でディテクティヴするには、判断材料がまだ少なすぎですもんね!」
「今日は冴えてるにゃ、メダカ」
「アナルヴァージンをぶっ挿すヒマも与えられていないわたしは、頭に来ました!」
「あ、あなるゔぁ……はぁ? にゃに言ってるのにゃ?」
「さあて、〈独房〉とやらに行きますよ! ラピスちゃんはどうしますか」
「にゃたしは……やめとくにゃ」



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