第11話

文字数 1,841文字

   ☆



 空美野天満宮に着いたわたしとコノコ姉さん。
「こっちへ行くのだ」
 手を引かれるわたし、佐原メダカ。
「どこに行くのですぅ?」
「庭園があるのだ」
「庭園?」
「結婚式とかに使うので、なんと庭園があったりするのだ、ここ」
 ぐいぐい引っ張られて行くと、そこにはブーゲンビリアやマリゴールドなどが咲いている、美しい庭園があった。
 庭園はライトアップされていて、
「綺麗……」
 と、わたしは声を漏らした。
 ここからは空美野の市街地もよく見えた。
 夜景もまた綺麗だ。
 波止場の点滅するあかりも素敵だった。
「もっと早くここに来ればよかったなぁ。コノコ姉さんとふたりで」
「しっ! ちょっと隠れるのだ」
「な、なんですかぁ、姉さん」
「庭園のベンチに先客がいたのだ」
「え? そりゃあ、いてもおかしくないでしょう。なんで隠れて……あっ」
 ライトアップされているブーゲンビリアが咲いてるなか、ベンチでくちづけを交わしている女性ふたりがいた。
 ひとりはわたしのおなかに蹴りを入れた気丈な目つきのひと、もうひとりは腰のベルトに大きめのぬいぐるみを留めている、長髪の女性だった。
 姉さんは言う。
「御陵生徒会長と、その愛人なのだ」
 愛人、と姉さんに呼ばれたのは、姫路ぜぶらちゃんだ。
 わたしと姉さんは、物陰に隠れる。
 くちづけしているところに顔を合わせると非常に気まずいのは、わたしにもわかった。
「確か、〈サファイアの誓い〉を交わしたふたり、なんですよね」
「そうなのだ。通常は上級生と下級生が結ぶ誓いだけど、この場合、……身分違いの恋、なのだ」
「身分違い?」
「生徒会長は、異人館街のご令嬢なのだ」
「うひゃぁ、リアル悪徳令嬢ですねぇ!」
「いいところに嫁がないとならないはずなのだ、御陵生徒会長は。でも、こういうわけなのだ」
「なるほど」

 わたしたちに気付かず、くちづけは長く続いた。
 くちびるをふたりが離すと、唾液が糸を引いた。
 それから生徒会長さんはあの石化する瞳でぜぶらちゃんを射すくめて、それから、ぜぶらちゃんの左手を自分のくちもとに運んでくると、まずは小指を舐め、湿ったところで、その小指を口でくわえ込んだ。
 くわえ込んだ指を、深く口中で出し入れする。
 口の動きから察するに、舌で指を舐め転がしている。
 うっとりとした表情のぜぶらちゃんの顔を確認すると生徒会長さんはいたずらな目で微笑み、今度は薬指を同じように舐め転がす。
 そうして、五本の指をすべて唾液まみれにすると、ぜぶらちゃんは恍惚の表情を浮かべて、ベンチに倒れ込んだ。
 そこに覆いかぶさる生徒会長さん。
「そこは、ダメ」
「もう耐え切れないで糸を引いてるわよ」
「バカっ。もう、……んん。だから、ダメだって、ひゃっ。ん。あっ」
 御陵会長は右手でスカートの中をまさぐっていて、ぜぶらちゃんの身体からびちゃびちゃ音を立てさせている。
 もう片方の手でぜぶらちゃんの髪の毛をかき上げ、あらわになった首筋に舌を這わせる。
「『穢れ流し』、今年は御陵なんだろ……」
「そうよ、神鉾(かみほこ)を流す、〈(みそぎ)〉」
「異人館街の代表者に、なるんだろ。あたしとは、遊び……になる。遠くへ、御陵が行っちまう。……ひゃぁっ、んぅ、くっ、そんなに強くしないで……よ、いつも強引なまま、遠くへ、行っちまうんだ。わたしはこんなに恋しくてよだれを垂れ流しているのに、この垂れ流された愛は、もう御陵がいないと維持できない身体になってるのに」
「その口を塞ぐわ。もう、逆らわないように。従順でいて。必ず迎えに行くから。きっと、いつか」
「卒業したら、離れ離れになって……きっと御陵はあたしを、姫路ぜぶらちゃんを、忘れてしまう」
「こんなに溺愛してるのに、忘れるわけないでしょ」
「ひあっ! 強くすんな……よな。んくぅっ」

 邪魔しちゃ悪い気がしたけど、凝視していたわたしと姉さんは興味津々、一時間ほどその行為を見続けてしまっていたのでした。
「……抹茶ラテ買って帰ろうなのだ」
「はい」
 我を失うほどディープな肢体を眺めていて、コノコ姉さんがそう言ってくれなければ、わたしたちも大変なことになる寸前のメンタルだったのでした。
 心臓がばくばくしているまま、わたしたちは庭園から抜け出し、天満宮の石段を降りた。
 ふたりで黙ったまま、コンビニまで向かい、飲み物を買って飲むと、火照った身体がちょっとは鎮まった、ように思う。
 その夜は布団にうずくまって、むずむずをどうにかしながら、眠りに就くわたし、佐原メダカなのでしたぁー。
 いやん。



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