第10話

文字数 1,495文字

   ☆



 星降る夜だった。
 星々が空でキラキラしていて、空気までもが綺麗に感じるほどだった。
 そのきらめきの中、コノコ姉さんは、わたしに手を差し出す。
 わたしは頷いてから、コノコ姉さんの手を取って、強く握る。
 コノコ姉さんの手はあたたかった。
 二人で坂をのぼる。
 ここは空美坂。
 洒脱なレンガつくりの建物が並ぶ、そのアスファルトの坂道を、少し息を切らせながら、歩いていく。
 坂の上の、空美野異人館街に着く。
 観光スポットだ。
 異国情緒溢れるいくつもの館にライトアップがされている。
 わたしが見たコノコ姉さんの横顔も、どこかうっとりしている。
「お、雰囲気に呑まれちゃってますぅ?」
「抹茶ラテは飲んでも飲まれるな、なのだ」
「なんですぅ、それ。お酒の話じゃないんですね。ふふ」
「そういうメダカちゃんも、顔が真っ赤なのだ」
「……だって」
「だって、なんなのだ?」
「コノコ姉さんの手には」
「ん? コンビニ袋を持っているのだ」
「もぅ! 反対の方の手ですよぉ。わたしと手を繋いでいるでしょ。これじゃまるでわたしがコンビニ袋みたいな物言いですよぉ」
「で。わたしと手を繋ぐとなんなのだ」
「顔が真っ赤になります」
「それはよかったのだ」
「感想はそれだけですかぁ!」
「天満宮の階段をのぼるのだ。きっと天満宮からは、ここ異人館街のベンチで眺めるより、もっと市街地がよく見渡せるはずなのだ」
「はい! 姉さんについていきますよ、わたし!」

 そして、少し立ち止まって会話をしたわたしたちは、再び坂をのぼる。
 天辺の天満宮まではもうちょっとだ。

「コノコ姉さん」
 わたしたちは、歩きながら話す。
 手は繋いだままだ。
「今度、岩盤浴に行きましょうよ!」
「突然、どうしたのだ、メダカちゃん」
「最近、コノコねえさんは疲れているはずです」
「疲れてはいるけど、そんなに疲れて見えるのだ?」
「いえ、学園から帰ってきてからバイトが待ってるじゃないですか」
「ふーむ」
「自律神経、わたしはやられていますね、そろそろ」
「ウェブ作家として、仕事終わったら小説を書いてるメダカちゃんは、そりゃぁ自律神経を失調しそうなのだ」
「そこで岩盤浴ですよ!」
「岩盤浴、なのだ?」
「自律神経が乱れると倦怠感や疲労感が出てきて、心身ともにボロボロになるんですよぉ。わたしなんか、ボロボロです。コノコ姉さんも、日々の勉強と家の手伝いのバイトでボロボロになってます。そこで岩盤浴です! 岩盤浴に入って体を温めることで血行を促進することができるのですよー。血行が促進するから、自律神経が整えられて様々な効果をゲットできるんですよぉ〜。ちなみに自律神経は内臓の働きや代謝、体温などの機能をコントロールする役割を持ってます。大切ですね、自律神経は」
「ふ〜む、力説された気分なのだ」
「夏祭りにも行くし、岩盤浴にも行く」
「どうしたのだ、いきなり」
「二人でたくさん、いろんなところに行きましょう。二人でたくさん、いろんなおいしいものを食べましょう」
 そこまでわたしは一気に話して、立ち止まるとぜーぜー息を吐いた。
「一気に喋りすぎなのだ」
「どうやらそのようですぅ〜」
「ほら、その階段が、空美野天満宮への石段なのだ」
「じゃ。行きましょうか」
「エスコートは必要なのだ?」
「ふふ。わたしたちは淑女にはまだ早いですよ。息切れなら、心配ありません。いつものノリで、石段のぼりましょう」
「じゃ、そうするのだ」
 そして、空美野天満宮の石段をのぼるわたしとコノコ姉さん。
 星と月がわたしたちを照らしていて、ステージに上がったみたいな気分だ。
 いや、わたしたちの二人舞台です、これは、きっと、そうなのです。



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