第18話

文字数 1,374文字

   ☆



 風紀委員会の反省部屋には、すぐにたどり着くことが出来た。
 独房ではあるけど、見張りがいるとかそういうのはなく。
 と、いうかわたしはまず、ラズリちゃんに会うことにした。
 もう夜だけど、風紀委員会室のあかりは灯っていて、委員会の生徒たちがせわしく働いていた。
 委員会室に入ったわたしは、デスクで書き物をしているラズリちゃんに、さっきラピスちゃんに言われたことを言った。
 ラズリちゃんは頷く。
「確かに、あの愚妹の言うことにも一理ありますわね。『〈犬神博士〉は、純粋に異能のレベルを上げる術式。異能の〈特性〉を変えるわけじゃない』……ね。なるほど」
 机から立ち上がるラズリちゃん。
「反省部屋に行きますわよ、佐原メダカ」

 と、まあ、そんなわけで、独房に着いたわたしとラズリちゃん。
 鉄格子の中で正座しながら、近江キアラちゃんは、着いたわたしとラズリちゃんを睨んでいる。
 両手を縛りつけるように〈ハンドカフ〉……手錠をかけられている。
 このハンドカフも、ラズリちゃんのスタンカフの能力のものだろう。
 くちにもカフがぐるぐる巻き付けられていて、しゃべることが出来ないようになっている。
 わたしはラズリちゃんに言う。
「なんで独房に入れているの、ラズリちゃん。犯人が捕まるまでここに収容させるなんて、犯人が捕まるのはいつになるかわからないですよぉ」
「今夜は、宵宮のためのミーティングで、異人館街の御陵邸にこの街の要人が集まっておりますの。如何にも、動くにはそのイベント、犯人にはおあつらえ向きでなくて?」
「おあつらえ向き? その嫌みがこもった言い方は、あ、そっか。風紀委員会室と生徒会室のあかりがついていたのは」
「要人殺害をもくろむなら、物理攻撃の〈サブスタンス・フェティッシュ〉で仕留めなくてはならないでしょ。そうしたら、その場に犯人が姿を現す」
「なんで祭りのミーティングに犯人が現れると思うのですかぁ」
「祭りは、〈まつりごと〉という言葉が語源なのですわ。この国は、呪術によって政治を決めてきた経緯があるのは知っているでしょう。宮内祭祀ですわね、それは今も行われているほどですわ。同様に、この街は〈天神祭〉が、まつりごとの中枢。と、なれば、襲うはずですわ。学園内でわざわざ〈犬神博士〉の術式を行ったのは、〈ディスオーダー〉の能力者の育成機関である空美野学園を世間に知らせるため以外にはあり得ない」
「あり得ないですかぁ?」
「犬神博士の〈博士〉とは、もともとは〈吐かせ〉という言葉を充てていたと言いますわ。この街の〈なにを吐かせたい〉と思います、佐原メダカ。個人的な事情である確率は低い。犬神博士で自分のディスオーダーの底上げを行うなら、自分のディスオーダーでは太刀打ちできない危ない橋を渡るからでしょう。そして、学園で術式を行ったというのは〈予告状〉ですわ。御陵会長が睨んだ相手の身体を動けなくするディペンデンシー・アディクト能力を持っていても、あれは心を扱うディスオーダー。物理攻撃のサブスタンス・フェティッシュ能力を底上げした攻撃をまともに受けたら、あの生徒会長ですら、事件を防ぐことは不可能でしょうね」
 わたしはあごに手をやって、うむむ、と考えた。
 けど、よくわからない。
「じゃあ、誰が犯人だと、ラズリちゃんはお考えで?」
「わたしが思うにそれは……」



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