第21話

文字数 1,425文字

   ☆



「繰り返されるぅ〜、しょぎょーむじょー。よみがえ〜るぅ、性的ッ! 衝動ッ!」
「はぁ、なにを歌っているのでして、佐原メダカ」
「性的衝動の歌ですよぉー。あ、姉さんだ! コノコ姉さぁ〜ん、ヒャッハー!」
 わたしが指さす先には、朽葉コノコ姉さんがにっこり笑って立っていた。
 走って駆け寄るわたしとラズリちゃん。
 コノコ姉さんは言う。
「どうやら間に合うかも、なのだ」
 空美坂の途中。
 わたしたちは、異人館街へとのぼっていく。

 ほどなくして、異人館街の入り口の広場に着く。
「異人館街にはところどころにジャズメンの銅像が建っていますねぇ。どうしてですぅ、姉さん?」
「空美野市がジャズの街なの忘れちゃダメなのだ、メダカちゃん」
「あ、サックス吹いてる銅像の横に冴えないおっさんの銅像が建ってますよぉ!」
 わたしは冴えないおっさんの銅像を叩くと、建て付けが悪いのか、銅像は倒れてしまった。
「あ、倒れた。ヒビがわれましたぁ! どうしましょう!」
「涙子ちゃんにあとで言って直してもらうのだ」
「そうだった……涙子さんは、財団の本家のひと、なのですよねぇ」
「だから、今は御陵邸で分家の御陵生徒会長と一緒にいるのだ。この冴えないおっさんの銅像は、だから大丈夫なのだ!」
 と、言って倒れた銅像を蹴飛ばすコノコ姉さん。
「良いこのみんなは、真似しちゃダメよ!」
 と、ラズリちゃん。
「誰に言っているのですかぁ、ラズリちゃん」
「涙子さまがご友人でよかったわね、という話をしているのよ、佐原メダカ。この阿呆。観光地のものを破壊するのは絶対にダメでしてよ!」
「こころなしか、銅像増えてませんかぁ、コノコ姉さん」
「きっとジャズメンが増殖したのだ!」
「ジャズムーブメントですねっ!」
「そうなのだ!」
「コノコお姉さまも、この阿呆に付き合ってやらなくてもいいですわ。はぁ。姫路ぜぶらも逃してしまうし、わたしたちは遅れて御陵邸に向かって……。大丈夫かしら」
「と、歩いているうちに、異人館街の一等地、御陵邸に着いたのだ」
「おかしいですわ。警備の風紀委員もいませんし、生徒会はなにを考えているのかしら」
「そりゃぁ、なにかあったから建物の中に入ったのだと思うのだ」
 はっ、と気付くラズリちゃん。
「いなくなった姫路ぜぶらが来ていたとしたらヤバい! 犯人だとしたら〈犬神博士〉の力でなにをしでかしているかわかったものじゃないですわ!」
「急ぐのだ!」
「ええ! コノコお姉さま! 阿呆の佐原メダカは、お姉さまの盾になりなさないな!」
「嫌ですよぉ。ラズリちゃんが盾になってくださいよぉ」
「ええい、だまらっしゃい!」
 そして、グリーン色をした塗装で目立つに目立つ洋館、御陵邸に、わたしたちは入っていく。

「建物内にも、警備が立っていませんわね。静かですし。どういうことなのでしょう」
「奥の広間で、会議をしているはずなのだ」
「そこの部屋ですわね! 佐原メダカ、開けなさい!」
「えー? なんでわたしなのですかぁ?」
「そんなの、開けた途端に異能攻撃を受けないためですわ! あなたが盾になって攻撃を受ける役でしてよ!」
「でしてよ、じゃないですよぉ〜」
「いいから開ける!」
「わかりましたぁ〜。では! たのもぉー!」
 わたしはバンッ! と音を立て、勢いよくミーティングをやっているであろう部屋の扉を開けた。


 静まり返った部屋から、声が出迎える。
「よぉ、遅かったじゃねぇか、コノコとその愉快な仲間たち」
 空美野涙子さんの声だった。



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