第5話

文字数 1,687文字

   ☆



 御陵会長さんに踏みつけられ、蹴られたおなかを押さえるわたし。
 午前の授業中も、ずっとずきずきと痛みが残っている。
 今は、三時限目の休み時間。
「メダカちゃんは生理の日はそんなに重かったのだ?」
「デリカシーがないなー、コノコ」
 コノコ姉さんにツッコミを入れるのは、今朝、チャイム直前の校門を悠々と突破した空美野涙子さんだ。
「保健室に行きたいですぅ……」
「行ってこいよ。なんか顔、真っ青だぞ、メダカ」
「涙子さん、ありがとうございます……。佐原メダカ、保健室に行ってきますぅ」
「お昼休みまでには帰ってくるのだー」
「はい、了解です、姉さん」
 よろよろと席から立ち上がるわたし。
「ああ……。美人薄命って本当ですねぇ」
「バカ言ってないで、早く保健室へ行け」
「てへっ」
 舌を出してウィンクするわたし。
 昭和かっ! というツッコミは来なかった。
「しっしっ」
 代わりに、あっちへ行けという風に手を振る涙子さんのジェスチャー。
そのジェスチャーを見てから、わたしは保健室へと向かったのでした。
「ああ、終劇(カーテンフォール)!」
「まだ終わってねーよ!」
 ツッコミをまた入れられるわたし。
 幸薄いですねぇ。



「たのもー!」
 バン! と保健室のドアを勢いつけて開けるわたし。
 ため息を吐く保険医のサトミ先生。
「こりゃまた顔が真っ青ね」
「顔は青くてもお尻は青くなくてよ!」
「なくてよ、じゃないわよ。それにどうやって自分でわかるのかしらね? 自分じゃ見えないでしょう、お尻は。誰か、恋人に見せたのかしら」
「いやん」
「あらあら、異性交友はダメよ」
「オンナ同士が汗だくで抱き合うことはいいのですぅ?」
「同性でもダメよ。あとなに、汗だくって」
「いやん」
「のーみその方は元気みたいね。でも、繰り返すけど、顔が真っ青よ」
「おなか痛いです」
「生理かしら」
「デリカシーないですね!」
「誰かに言われたことを反復したかのようなとってつけた口調ね」
「デリカシー! デリカシーはいずこへ! 傷つきましたよぉ、わたし!」
「はいはい。じゃ、椅子に座って痛い箇所を見せなさい」
「それでは、は、は、は、裸にィ……? わたし、これからまずは先生の前でスカートをたくしあげてぱんつを見せるのですか……?」
「はい。脳内は元気みたいね」
「え? じゃあ、やっぱりスカートをたくしあげなきゃダメですか?」
「あー、もう。椅子に座って!」
「裸と着衣、どちらがお好みの方で?」
「あなた、保険医といちゃらぶなティーンズラブコミックの読者のような妄想はやめて。座って、それから」
「椅子に座って……。それから、開脚しながらスカートをたくしあげるのですね」
「開脚しなくていいし、たくしあげなくていいから! 大人しくして! ベッドで寝てる子もいるんだから!」
「ベッドに? 先生の愛の餌食に?」
「妄想銀行の貯蓄はいっぱいみたいね、あなた。いや、だから椅子に座ったはいいけど開脚し出さないで! ああ、だから流し目をしながらスカートをたくしあげないでッッッ! 大人しく診察を受けてね、阿呆なの、あなたは!」
「先生も」
「なに?」
「お互い、たくしあげながら……お互いの行為を見ながら」
「帰れ!」
「嘘ですよぉ! おなか蹴られて痛いんですぅ〜」
「最初から正直に言いなさい! 誰に蹴られたの?」
「生徒会長ですぅ」
「はい?」
「だーかーらー。御陵さんですよぉ。御陵生徒会長ですぅ」
「わたしが頭痛くなってきたわ……」
「痛くなった頭を慰めるため、わたしは開脚してスカートをたくしあげ」
「帰れ!」
「お互いの痛みを慰めるべく、スカートをたくしあげ、指を自らに這わせて互いの行為を見せ合いっこしながら」
「帰れ。この場から消えなさい」
「嘘ですよぉ。先生、サトミ先生。蹴られたおなかを見てくださいよぉ」
「大人しくして。ね?」
「大人しく先生に食べられ」
「帰れ!」
「冗談ですよぉ」
 そんなやりとりをしつつ、診察を受けることになったわたし。
 生徒会長さんに蹴られたということはここだけの秘密で、ということいになったのでした。
 きゃっ。
 保険医と秘密を共有ってことですよぉ?
 ティーンズラブコミックみたい!
 やったぁ!



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