第16話
文字数 1,337文字
☆
波止場にあるマンションに着いた。
ここの六階に、金糸雀姉妹の部屋はある。
マンションの前で認証を受けて建物の中に入ると、わたしはエレベータに乗って、六階に行く。
金糸雀姉妹の部屋の前で、佐原メダカですぅ〜、と挨拶すると、鍵が開いた。
「にゃたしの風邪、感染するかもしれないんにゃよ、メダカ。……へっくし!」
くしゃみをして鼻水をすする猫耳パーカーの女の子。
それが金糸雀ラズリちゃんの妹の金糸雀ラピスちゃんだった。
「総合感冒薬と解熱剤買ってきましたぁー!」
「にゃりがたいにゃぁ! まあ、部屋に上がれにゃ、メダカ」
玄関で靴を脱ぎながらわたしは、
「そうしますぅ」
と返した。
リビングに着くと、わたしは感冒薬と解熱剤が入った紙袋を渡す。
「にゃ? この紙袋、ボロボロにゃし、雨でもないのにメダカも服が濡れてるし、どーしたにゃ?」
わたしは、近江キアラちゃんという〈爆弾魔〉と出会ってラズリちゃんに連れていかれた話をした。
ラピスちゃんは、ふぅ、と息を吐いてから、こんなことを言う。
「しあわせはみな、同じ顔をしているが、ひとの不幸はそれぞれさまざまな顔をしている」
「誰の言葉ですかぁ?」
「本当は知っているクセに訊くもんじゃにゃいにゃ、メダカ。もちろんこれはトルストイの『アンナ・カレーニナ』からの引用にゃ」
「十人十色と言うからには、こころの数だけ恋のかたちがあっていい」
「それも『アンナ・カレーニナ』からにゃね。ウェブ作家は気取っている生き物にゃねぇ」
「ふふ。繋げると恋と不幸は同じくたくさんの種類があることになりますねぇ」
ラピスちゃんは、笑いながら、リビングのソファにどさっと音を立てさせながら深く、埋もれるように座った。
テーブルを隔てて向かい側のわたしも、ラピスちゃんに準じて、ソファに埋もれた。
「にゃはは」
「なにがおかしいのですぅ、ラピスちゃん」
「爆弾魔も、飛んだ被害を受けたものにゃ」
「どういうことですぅ」
「たぶん、そいつ、〈冤罪〉にゃ」
「冤罪?」
「冤罪っていうのは、無実の罪を意味する言葉にゃ。実際には罪を犯していにゃいのに罪を犯した犯罪者として扱われることを指す言葉にゃんだにゃ」
「それくらい知ってますよぉ、ぷんすか!」
「ほんと、ひとの不幸はそれぞれさまざまな顔をしているのにゃねー。風紀委員会の反省部屋と言ったら学園の〈独房〉のことにゃ。アンラックにゃねー、そのキアラって奴は。にゃはは」
「ひとりで納得してないでわたしにもわかるように話してくださいよぉ!」
「わかったにゃ」
檸檬の輪切りの浮かんだ水の入ったピッチャーからタンブラーにその水を注ぎ、ラピスちゃんは、わたしが渡した解熱剤の錠剤を飲む。
「にゃたしは、愚昧な姉とは考えが違うんだにゃあ」
解熱剤を飲み下すと、またソファに埋まるラピスちゃん。
わたしは、ラピスちゃんが話し出すのを、しばらく待つ。
窓ガラスから、茜色の夕陽が見える。
茜色に染まるラピスちゃんの猫耳フードパーカーからのぞく顔は、にゃーにゃ言ってる割には、ゆったりとリラックスしていて、わたしには不思議に感じる。
ラピスちゃんは、夕陽で全身を茜に染め、そして語り出す。
茜色に映えるラピスちゃんは、とても可愛くて、わたしは息を飲んだ。
波止場にあるマンションに着いた。
ここの六階に、金糸雀姉妹の部屋はある。
マンションの前で認証を受けて建物の中に入ると、わたしはエレベータに乗って、六階に行く。
金糸雀姉妹の部屋の前で、佐原メダカですぅ〜、と挨拶すると、鍵が開いた。
「にゃたしの風邪、感染するかもしれないんにゃよ、メダカ。……へっくし!」
くしゃみをして鼻水をすする猫耳パーカーの女の子。
それが金糸雀ラズリちゃんの妹の金糸雀ラピスちゃんだった。
「総合感冒薬と解熱剤買ってきましたぁー!」
「にゃりがたいにゃぁ! まあ、部屋に上がれにゃ、メダカ」
玄関で靴を脱ぎながらわたしは、
「そうしますぅ」
と返した。
リビングに着くと、わたしは感冒薬と解熱剤が入った紙袋を渡す。
「にゃ? この紙袋、ボロボロにゃし、雨でもないのにメダカも服が濡れてるし、どーしたにゃ?」
わたしは、近江キアラちゃんという〈爆弾魔〉と出会ってラズリちゃんに連れていかれた話をした。
ラピスちゃんは、ふぅ、と息を吐いてから、こんなことを言う。
「しあわせはみな、同じ顔をしているが、ひとの不幸はそれぞれさまざまな顔をしている」
「誰の言葉ですかぁ?」
「本当は知っているクセに訊くもんじゃにゃいにゃ、メダカ。もちろんこれはトルストイの『アンナ・カレーニナ』からの引用にゃ」
「十人十色と言うからには、こころの数だけ恋のかたちがあっていい」
「それも『アンナ・カレーニナ』からにゃね。ウェブ作家は気取っている生き物にゃねぇ」
「ふふ。繋げると恋と不幸は同じくたくさんの種類があることになりますねぇ」
ラピスちゃんは、笑いながら、リビングのソファにどさっと音を立てさせながら深く、埋もれるように座った。
テーブルを隔てて向かい側のわたしも、ラピスちゃんに準じて、ソファに埋もれた。
「にゃはは」
「なにがおかしいのですぅ、ラピスちゃん」
「爆弾魔も、飛んだ被害を受けたものにゃ」
「どういうことですぅ」
「たぶん、そいつ、〈冤罪〉にゃ」
「冤罪?」
「冤罪っていうのは、無実の罪を意味する言葉にゃ。実際には罪を犯していにゃいのに罪を犯した犯罪者として扱われることを指す言葉にゃんだにゃ」
「それくらい知ってますよぉ、ぷんすか!」
「ほんと、ひとの不幸はそれぞれさまざまな顔をしているのにゃねー。風紀委員会の反省部屋と言ったら学園の〈独房〉のことにゃ。アンラックにゃねー、そのキアラって奴は。にゃはは」
「ひとりで納得してないでわたしにもわかるように話してくださいよぉ!」
「わかったにゃ」
檸檬の輪切りの浮かんだ水の入ったピッチャーからタンブラーにその水を注ぎ、ラピスちゃんは、わたしが渡した解熱剤の錠剤を飲む。
「にゃたしは、愚昧な姉とは考えが違うんだにゃあ」
解熱剤を飲み下すと、またソファに埋まるラピスちゃん。
わたしは、ラピスちゃんが話し出すのを、しばらく待つ。
窓ガラスから、茜色の夕陽が見える。
茜色に染まるラピスちゃんの猫耳フードパーカーからのぞく顔は、にゃーにゃ言ってる割には、ゆったりとリラックスしていて、わたしには不思議に感じる。
ラピスちゃんは、夕陽で全身を茜に染め、そして語り出す。
茜色に映えるラピスちゃんは、とても可愛くて、わたしは息を飲んだ。