第11話 ライン方面軍

文字数 1,974文字

ここで、ライン軍について、補足を。

北方軍の陰に隠れて、いまひとつ、決定的な勝利を得られなかったライン軍、モーゼル軍ですが、彼らは、小さな勝利を営々と積み重ねてきました。



92年7月の開戦直後、ライン方面軍は、北方軍を後方で支援し、ライン河中流域のヴォージュ地方で戦っていた。だが、キュスティーヌはじめとする、ライン軍司令官の相次ぐ更迭(そして死刑)*で、軍には不信感が満ち、また、常に補給の不足で苦しんでいた。

ブログ「ライン軍総司令官の運命」


そんな中、若い将校らが頭角を現し、自ら軍の先頭に立って勇敢に戦うことで、軍を牽引していく。しかし、彼らは、決定的な勝利を収めることができないでいた。



93年末、モーゼル軍左翼*を率いて、オッシュが派遣されてくる。当時のライン軍司令官はピシュグリュだった。ピシュグリュは、オッシュと馬が合わず、オランダ方面に転出してしまう。**

*オッシュの後、ジュールダンが引き継ぎ、94年6月、サンブル=エ=ムーズ軍に

**その後のピシュグリュの活躍は、10話「フランス革命戦争3」、参照



オッシュは、自軍に加え、ピシュグリュのライン軍の指揮を引き継ぎ、その年の暮れまでにライン河左岸のほぼ全域を掌中に収めた。

栄転を約束され、オッシュは、ライン方面軍の司令官を退くが……

(オッシュのその後については、ブログ「ルイ=ラザール・オッシュ」参照)



94年、ライン軍の新しい司令官となったのが、ミショーである。恐怖政治の只中、彼は、歴代の司令官が処刑されてきたライン軍の司令官を引き受けた。

ブログ「ライン軍総司令官の運命」


プロイセン、ドイツ諸邦、オーストリア。これらの強敵と、小競り合い(とよく言われる)を繰り返しつつ、ライン・モーゼル軍は、遮二無二前進し、ついに、マインツの橋頭保*まで到達する。

*橋の対岸を守る為の砦

ここで、革命戦争を遡って、因縁の都市、マインツについてまとめてみます。



マインツは、ライン河の両岸に跨る、マインツ選帝侯の領土。92年にキュスティーヌ将軍*が、その左岸(西側)を占領、「マインツ共和国」を作った。

ブログ「キュスティーヌ将軍」



そもそも自然国境説*によれば、ライン河左岸(西側)は、フランスのもんなんだよ!



*河川や山、海など、自然によって国境を定める、という考え方。革命家のダントンが提唱した

ブログ「フランス革命戦争3」



しかし、翌93年。マインツは、プロイセンやドイツ諸侯の軍に包囲され、フランスは、マインツから撤退を余儀なくされた。



この時の戦いでは、主君のワイマール公について、あの文豪・ゲーテも参戦していました。


なお、この年末(93年末)、ライン左岸(西側)をほぼ掌握したオッシュですが、マインツ左岸とルクセンブルクは征服できませんでした。



そして、94年秋。総司令官ミショーの元、ライン軍とモーゼル軍は、マインツ橋頭堡に到達(上記)、マインツのライン左岸(西側)を包囲する。



だが、これは、辛い包囲戦だった。河を挟んで対岸(東側)では、敵がこちらを睨んでるし、例によって、補給は来ない。それに、この冬(94-95)は、筆舌に尽くせないほどの寒さだった……。
ああ、北海が凍りましたものね。フランスの騎馬兵がオランダの戦艦を拿捕した年でしょ? 凍った北海を馬で渡って。

10話「フランス革命戦争3」、参照

少しは覚えているのか。


で、マインツ包囲の指揮を、誰が執るかでもめてな。ミショーはドゥゼ将軍を指名したかったんだ。何しろ、俺のドゥゼ将軍は、有能勇敢で、性格がイケメンだからな! だが、彼は断わった。

負け戦ですもんね……。
そうだ。

この年の7月に恐怖政治は終わったのだが、まだどんな政権が樹つのか、わからなかった。そうでなくても、ライン軍の総司令官は、代々、ギロチンにかけられているし。将校もな。


特に、戦争に負けると、敵に密通してわざと負けた、とか、因縁をつけられて。



*ブログ「ライン軍総司令官の運命」

ドゥゼ将軍……(うるうる)
ドゥゼ将軍の代わりに、モーゼル軍のクレベールが暫定指揮官になった。だが、途中で、ミショーと喧嘩して、さっさと帰っちまったのさ。

もちろん、ドゥゼ将軍は、クレベールの後任を拒否。


クレベール、ドゥゼ、そして他の将校や部下の兵士たちの間を、頻繁に行き来していたミショー総司令官だが、ついに落馬してなあ。大腿骨を骨折して、ライン軍司令官を退いたってわけさ。
はぁーーーーー。

恐怖政治の最中に、なり手のなかったライン軍の司令官を引き受けたのに、ミショー将軍もお気の毒に。

だが、歴代のライン軍の総司令官で、普通に隠居できたのは、一時しのぎの暫定指揮官を除いたらミショーだけだぜ?



ブログ「ライン軍総司令官の運命」





マインツについては、ブログにまとめてあります。



ブログ「フランス革命戦争4-3」

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登場人物紹介

ルイ=ニコラ・ダヴー

Louis-Nicolas Davout

1770.5.10 - 1823.6.1


主役は、オレだ!


(後のナポレオン時代、”鉄の元帥”の異名を取る。無敗を喧伝される一方で、偏屈とも噂される。ここでは、彼が若く、ナイーヴだった頃を扱います)

小説「負けないダヴーの作り方」

ルイ・シャルル・アントワーヌ・ドゥゼ

Louis Charles Antoine Desaix de Veygoux

1768.8.17 - 1800.6.14


ライン軍将校。俺の憧れの人♡

注)本作及び、小説「負けないダヴーの作り方」は、BLではありません

ブログ「ドゼー1」 ~

サヴァリ

Anne Jean Marie René Savary

1774.4.26-1833.6.2


俺を差し置き、ドゥゼ将軍の副官になりやがった邪魔なやつ。こいつ、童てi じゃないかと、俺は密かに疑ってるんだが、 こんな世間知らずが、ドゥゼ将軍の副官になっていいものか!!

ラップ

Jean Rapp 

1771.4.27 - 1821.11.8


こいつも、ドゥゼ将軍の副官になりやがって。勇気だけが取り柄の、とにかくクソ生意気な男



ラップ目線の2000字小説が、こちらに「勝利か死か Vaincre ou mourir

ブログ「ラップ」

アンベール

General Jean Jacques Ambert

1765.9.30 - 1851.11.20


俺の上官。俺の軍服に、鼻水をなすりつけて感涙にむせぶ癖がある

作者

※このページは、ダヴーにのっとられました……

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