治療

文字数 1,660文字

づづづ……
 膝の傷口に直接、消毒の浸けられた綿をあてられる。少しずつもれ出た血液も拭いていった。消毒に攻撃されている気分だった。足に力が入る。

 少し離れたところでベーミンの首を固定しているメデゼンが独り言のようにつぶやく。

ここまでなっても全員息があるのがすごいわね。
俺も驚きですよ。
 消毒を終えて包帯を巻き始める。触れるたび少しひりりとする。
鍛えるとここまで丈夫になるのかしら。
メデゼンは呆れたように話しながらもベーミンの胴の治療へ移る。

 自分の脚を巻いていた包帯も回しきり、巻いてくれていた兵士―リアム―は包帯を留める。そしてこちらの様子をうかがった。

脚よさそうですか?
ああ、問題ない。
リアムはその返事を聞くと、メデゼン救長の方へ向いた。
ヨセフ少尉の治療、完了しましたー。
はーい。
「さ、」とメデゼン救長は止血のみ施されたザースの方へ向く。
難関のザースね。
メデゼンは軽く肩を回してみせる。

 一息吐くと、ザースと向き合った。右目に被せられた綿を取り、瞼を指で開いて赤く染まった眼球を覗く。

眼球はる。

だけど使えないわこりゃ。

ケガの部位を指を差しながら確認していく。
目、首、肩、腹部…
首と腹も?

…知らなかったな。

薄く深くって感じに切られてる。
薄く切られている、という言葉で手を怪我していたことを思い出した。
…そういえばここも切って――
リアム。
 独り言としてつぶやいたつもりだったが、聞こえてしまっていたらしい。たしかに出血はしているが、特に大事というわけではない。

 呼ばれたリアムは治療道具を取りに行った。

…これくらいは自分でできる。包帯だけでいい。
消毒。
ザースの治療の手を止めてまでして念を押された。返す言葉がなくなる。

 その会話を傍で聞いていたリアムは苦笑いをしながら、自分の方へ物を持って近付いてくる。そして手前でしゃがんだ。

消毒まではやりますよ。
 断りを入れさせないというように、すぐに綿を取り出して消毒液をつけた。観念して手を差し出す。膝と同じくらいにしみたため、顔をしかめた。

 消毒を終えたところで「どうぞ」と包帯を渡される。太ももの上で右手と包帯を押さえながら丁寧に巻いていく。そしてある程度覆いきってから留める。

 軽く手を開け閉めして、動きを確認した。

 いつの間にか隣にはリアムが座っていた。自分が包帯を巻ききったことを確認すると、話題を切り出す。
ミレイズ中尉、どこ行ったんでしょうね…
……ああ。
問題の日兵の死体もあった…でしたっけ。
情景を思い出しながら話す。
首を狩られて、な。
その様子を想像したのか、リアムは軽く片手を口元、顎に添えた。
…あの人は、苦手ですね…。

怖いっていうか…。

まあ…

昔は俺も怖そうって思ってたが、今はあれはただの自由人だな。


今回の作戦の様子や、作戦伝達集合時の言動を振り返りながら言う。
よくあんなにも自由に動ける勇気がありますよね…。
言ってしまえば―――
学生まで若返った。
 言いたいことは図星だった、が、そこまで直接的に言うつもりはなかったので、メデゼン救長の鋭さに自分もリアムも苦笑いしか浮かばなかった。

 そんな自分らの様子を気に留めていないように、メデゼン救長は手当てを終えて運転席側へと声をかける。

ラギーとはまだ連絡つかないの?
まだ、場所すら特定できません…!
あいつは何処行ってるっていうのよ…
焦り気味につぶやいた。
座標が不明なだけなら

もしかしたら地下室…とか、

存在すれば。
リアムは指摘に「いかにも」というふうに首を振った。
ですね。
だが有力だな。今の情報量じゃ。
地上に出てたらわかりますからね。
 また更に記憶飛ばして彷徨ってんじゃないかと少し考えたが、そうだとしても座標は特定できるはずなので却下した。

 どこにいるのか確信がない以上は動けない。まず自分の体の状態ではどうであろうと動けないだろう。向こうに動きがあるまでは待つことしかできない。もしかしたら帰ってこない可能性だって十分にあるわけだ。

 結局は敵地。こちらだって長いこと滞在はできない。早く動きがあることを望むしかない。

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登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

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