膝の傷口に直接、消毒の浸けられた綿をあてられる。少しずつもれ出た血液も拭いていった。消毒に攻撃されている気分だった。足に力が入る。
少し離れたところでベーミンの首を固定しているメデゼンが独り言のようにつぶやく。
消毒を終えて包帯を巻き始める。触れるたび少しひりりとする。
メデゼンは呆れたように話しながらもベーミンの胴の治療へ移る。
自分の脚を巻いていた包帯も回しきり、巻いてくれていた兵士―リアム―は包帯を留める。そしてこちらの様子をうかがった。
リアムはその返事を聞くと、メデゼン救長の方へ向いた。
「さ、」とメデゼン救長は止血のみ施されたザースの方へ向く。
メデゼンは軽く肩を回してみせる。
一息吐くと、ザースと向き合った。右目に被せられた綿を取り、瞼を指で開いて赤く染まった眼球を覗く。
薄く切られている、という言葉で手を怪我していたことを思い出した。
独り言としてつぶやいたつもりだったが、聞こえてしまっていたらしい。たしかに出血はしているが、特に大事というわけではない。
呼ばれたリアムは治療道具を取りに行った。
ザースの治療の手を止めてまでして念を押された。返す言葉がなくなる。
その会話を傍で聞いていたリアムは苦笑いをしながら、自分の方へ物を持って近付いてくる。そして手前でしゃがんだ。
断りを入れさせないというように、すぐに綿を取り出して消毒液をつけた。観念して手を差し出す。膝と同じくらいにしみたため、顔をしかめた。
消毒を終えたところで「どうぞ」と包帯を渡される。太ももの上で右手と包帯を押さえながら丁寧に巻いていく。そしてある程度覆いきってから留める。
軽く手を開け閉めして、動きを確認した。
いつの間にか隣にはリアムが座っていた。自分が包帯を巻ききったことを確認すると、話題を切り出す。
その様子を想像したのか、リアムは軽く片手を口元、顎に添えた。
まあ…
昔は俺も怖そうって思ってたが、今はあれはただの自由人だな。
今回の作戦の様子や、作戦伝達集合時の言動を振り返りながら言う。
言いたいことは図星だった、が、そこまで直接的に言うつもりはなかったので、メデゼン救長の鋭さに自分もリアムも苦笑いしか浮かばなかった。
そんな自分らの様子を気に留めていないように、メデゼン救長は手当てを終えて運転席側へと声をかける。
リアムは指摘に「いかにも」というふうに首を振った。
また更に記憶飛ばして彷徨ってんじゃないかと少し考えたが、そうだとしても座標は特定できるはずなので却下した。
どこにいるのか確信がない以上は動けない。まず自分の体の状態ではどうであろうと動けないだろう。向こうに動きがあるまでは待つことしかできない。もしかしたら帰ってこない可能性だって十分にあるわけだ。
結局は敵地。こちらだって長いこと滞在はできない。早く動きがあることを望むしかない。