病室[1]

文字数 1,115文字

…嫌な予感がするんです。
 白に白で埋め尽くされた一室。ラギーは中心に窓と平行になるかたちで置かれたベッドに下半身をマットレスと接しつつ座っていた。

 そのベッドの窓側とは反対側の横には、椅子に座り組んだ脚に肘をつきながら半ば不信感のもった表情でメデゼンが聞いていた。

で、どうしたいわけ。
返答がわかりきっている質問であったが、あえて聞いた。
行かせてくれませんか。
予想通りの返答だったが、メデゼンは大きく息をついた。
無理よ。
…どうして。
めげずに訴える。その訴える視線から逃げようとしてベッドの側面を見るようにして逸らしていた視線をラギーに移す。
今行けば十分死ぬ可能性がある。
承知の上です。
 何を”承知”しているのか。

 ケガから1週間ほど経ち激痛も見られないが、解決はしていない。1回しかなってはいないが逆に症状の発現に周期性がない以上、次いつ起こってしまうかも分からないのだ。そしてメデゼン自身もその様子を見た事がない。一口に激痛といっても、実際にその様子を見なければ詳しい程度は判断できない。危惧すべきは『万が一』なのだ。

 目で熱意を訴え続けているラギーの表情に少し変化が表れた。良い変化ではない方の。もしろ覚悟を決め切った目をしていた。強行突破でも考えているのか。

「窓から飛び降りてでも」
やります
するなら――…
 思考回路を読まれたことに驚くラギー。単純思考すぎるのだ。

 メデゼンは一度途切れさせた言葉を続けた。

私たちはあなたを拘束しなければならない。
 ようやくラギーの視線が下がる。しかしその瞳はうろついていた。諦めきれたというわけではないらしい。そんなにも嫌な予感なのだろうか。そもそも今の身体状況じゃそこまでの’嫌な予感’に対抗できるかも怪しい。
…これは楽観視した意見かもしれない。

けれど、今あなたが無理に戦場に出るほど現時点で危険度がピークとは思えない。もしかしたらこの作戦では終わりきらないかもしれない。重大な秘密を置き去りにして次に持ち越すかもしれない。

そう考えたら、今行くより、今待ってその時に備えたほうがいいと思うのよ。

 思ったことを脳から直接口に送り込む。頭ばっかで考えて深く試行錯誤したところで、結局本人にどんな意見が効くかはわからないのだ。言ってしまえば当たって砕けろといったところだろうか。

 ラギーの瞳のうろつきが止まった。

 念の為予防線を張っておく。

まず、私が許可を出したところで、上が出さないわ。
 ラギーが真っ直ぐメデゼンを捉える。さっきのような熱意のこもった視線ではなく、何も考えてないような視線だった。ただ、見ている。
そう…ですか。
 それでも少なくともラギーの喉が訴える感情は”悲しそう”なものだった。
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登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

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