白に白で埋め尽くされた一室。ラギーは中心に窓と平行になるかたちで置かれたベッドに下半身をマットレスと接しつつ座っていた。
そのベッドの窓側とは反対側の横には、椅子に座り組んだ脚に肘をつきながら半ば不信感のもった表情でメデゼンが聞いていた。
返答がわかりきっている質問であったが、あえて聞いた。
予想通りの返答だったが、メデゼンは大きく息をついた。
めげずに訴える。その訴える視線から逃げようとしてベッドの側面を見るようにして逸らしていた視線をラギーに移す。
何を”承知”しているのか。
ケガから1週間ほど経ち激痛も見られないが、解決はしていない。1回しかなってはいないが逆に症状の発現に周期性がない以上、次いつ起こってしまうかも分からないのだ。そしてメデゼン自身もその様子を見た事がない。一口に激痛といっても、実際にその様子を見なければ詳しい程度は判断できない。危惧すべきは『万が一』なのだ。
目で熱意を訴え続けているラギーの表情に少し変化が表れた。良い変化ではない方の。もしろ覚悟を決め切った目をしていた。強行突破でも考えているのか。
思考回路を読まれたことに驚くラギー。単純思考すぎるのだ。
メデゼンは一度途切れさせた言葉を続けた。
ようやくラギーの視線が下がる。しかしその瞳はうろついていた。諦めきれたというわけではないらしい。そんなにも嫌な予感なのだろうか。そもそも今の身体状況じゃそこまでの’嫌な予感’に対抗できるかも怪しい。
…これは楽観視した意見かもしれない。
けれど、今あなたが無理に戦場に出るほど現時点で危険度がピークとは思えない。もしかしたらこの作戦では終わりきらないかもしれない。重大な秘密を置き去りにして次に持ち越すかもしれない。
そう考えたら、今行くより、今待ってその時に備えたほうがいいと思うのよ。
思ったことを脳から直接口に送り込む。頭ばっかで考えて深く試行錯誤したところで、結局本人にどんな意見が効くかはわからないのだ。言ってしまえば当たって砕けろといったところだろうか。
ラギーの瞳のうろつきが止まった。
念の為予防線を張っておく。
ラギーが真っ直ぐメデゼンを捉える。さっきのような熱意のこもった視線ではなく、何も考えてないような視線だった。ただ、見ている。
それでも少なくともラギーの喉が訴える感情は”悲しそう”なものだった。