調査【地下】

文字数 844文字

 体が思ったように素早く動けなくなってきていたため、顔に向けて突かれた刃先を避けきれず頬を切る。深めだったのか、血が散った様子が目に映るまで時間はかからなかった。

 相手はまるでこちらに猶予でも与えるかのように、一歩下がった。

[この程度かい?]
…ふん。

まだ、だ。

 この有り様でもなお強がってみせる。だが体が動かないことはないのだ。まだ勝機もある。逆にいえばなくすわけにもいかない。

 俺は、どうしても戻らなければいけない。

 彼は刀を見せつけるように掲げる。

[君自身の血液で刀が目視しやすくなるなんて、ステキじゃないか。]
皮肉なもんだな…。
[だがこの刀が染まりきる頃には、君は見るがないだろうけどね。]
そりゃ、どうだか
 足に力を入れて飛び出す。勢いよくナイフを向けたが、軽々と刀で受けられてしまった。ナイフの窪みの部分に刃が擦れる。片手で受けていては自分の方に刀の刃が流れてしまうと思い、柄の反対側も手で支える。
[腕力が弱まっているね。

さすがにそろそろ血液が回らなくなってきたかい。]

その感覚は自分自身でも感じ始めていた。自嘲気味に鼻で笑う。
情けないことにな。

人間のエネルギー源は誤魔化せないらしい。

 彼は満足げな表情をすると、受け止めていた刀で俺を突き飛ばす。いや、本来は突き飛ばされるほどのものではないのだろうが、力が抜け始めている俺には突き飛ばすに十分な動作だった。

 少しバランスを崩したが、なんとか踏ん張った。膝に片手をつく。

[さ。

そろそろトドメとしようか?]

…死ぬワケにはいかなくてな…。
彼は場に合わない笑みをみせる。
[そりゃ承知のうえさ。

記憶を取り戻した君には特に、ね。]

タチが悪い。
[性質―タチ―である以上、しかたがないことさ。]
そう言うと、こちらから聞くことはないというように一歩、踏み出す。

 一度楽な体勢になってしまうと、なかなか痛い体勢には戻れないというものなのだろう。膝に手をついたまま、体が立てられなかった。

 彼の足音が処刑までのカウントダウンのように、近付いてくる。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色