薄暗い。頼りになるのは点々とほのかに光る床光のみ。この一室の主の好みによって、上はそう高くないはずだがどこまでが天井か分からないほどに明かりをつけていない。うっすら見える壁には張り巡らされた管の数々。目で追っても闇の天井に吸い込まれてしまうので、最終地点は確認できない。
1人足音を鳴らしながら管の壁の間を歩いていく。少し歩くと一気に開けた円状の場所に出た。細い先ほどの道よりは明るい。その広場の壁に並ぶのは管じゃなく人と液体の入った円柱ケース。全て女性だ。死んではいないが扱いは死人同然だろう。
そしてまたその先の細い道を進んでいく。また薄暗い空間になる。しかしそう歩かずまた明るい空間に入った。数段高い床にリクライニングチェアと並べられた機械。上には大事に貯められた血液。ここは壁にも明かりがついているため、血液に光が通り鮮血に映る。ある程度進んだところで立ち止まり、ドアをノックするのと同じ感覚で踵を二度床で叩く。
そこの椅子に座っていた上司、新藤は360度回転する椅子を回してこちらを向き、初っ端から物騒な質問を投げかける。
はい。
この前のミレイズ少佐…もとい中尉から自分の話を聞いていた者のようです。
わざとらしく少し考える動作をしながら新藤が答える。
わざわざ自分に聞かずとも、と含みつつ戯言に呆れた。
すると新藤は組んだ下の足のつま先で床を蹴りくるりとそっぽを向く。
信用しにくい言い方をする。表情は見えなくともいやに笑んでいるのは想像できた。
再びこちらへ向く。まるで威厳でも示すかのように、淡い光でも強くメガネが反射する。一瞬目を逸らした。
常にレーダー飛ばして監視するのさ。
監視と言っても、実際に見ているわけじゃないけれど。
目を見開く。監視されているというのにどう利用すると言うのか。監視し慣れていると対処法も必然的にわかるのだろうかと密かに考えた。
そして新藤は自分自身の顔を「これね」と指差した。自分の質問の答えにはなっていないが、今細かく話す必要はないということだと思い、それ以上は問わなかった。しかし新藤は自ら喋りだした。
ちょっと地下室へのフタを開くだけさ。センサーに伝われば向こうは動く。
おそらく精鋭で来る。精鋭は5人組だ。君は4人殺してくれればいい。残りの1人は僕が直接相手をする。
新藤は気味の悪い笑みを浮かべた。思わず佐竹は顔をしかめる。
不愉快な隠し方をする。言うなら言ってくれと思いながら佐竹はため息をついた。実際効率的に考えれば、殺せるならば殺せるうちに一気にやってしまったほうがいい。妙に残して予想外の行動をされてしまっては、作戦が崩壊してしまう可能性があるためだ。しかしなかなかに新藤の予想は当たる。まるで全部わかりきっているように。だから反発する理由も従わない理由もない。難は性格だ。
ちなみに不用意に外に出ると自爆するかもしれないから気をつけないとね。
どんな脅しだと思いつつ素直に従う。要するにレーダーに引っかかるということだろう。しかし普通に国館内に出たところでもうただの廃墟もどきと化しているだろう。窓は割られているしマシンガンも過度に撃ちこまれたからな。だが結局地下は無事。しかも新藤は不思議な工作をするので、まだ場所もバレてないときた。
そして佐竹はさらに奥へ歩を進めた。理解したと示すように新藤へ手を振る。それを受け取ったのか新藤は再び機械に向き直った。体は機械のほうを向いているものの、視線はずっと、上に厳重に保管された血液だった。