捜しもの

文字数 1,738文字

 薄暗い。頼りになるのは点々とほのかに光る床光のみ。この一室の主の好みによって、上はそう高くないはずだがどこまでが天井か分からないほどに明かりをつけていない。うっすら見える壁には張り巡らされた管の数々。目で追っても闇の天井に吸い込まれてしまうので、最終地点は確認できない。

 1人足音を鳴らしながら管の壁の間を歩いていく。少し歩くと一気に開けた円状の場所に出た。細い先ほどの道よりは明るい。その広場の壁に並ぶのは管じゃなく人と液体の入った円柱ケース。全て女性だ。死んではいないが扱いは死人同然だろう。

 そしてまたその先の細い道を進んでいく。また薄暗い空間になる。しかしそう歩かずまた明るい空間に入った。数段高い床にリクライニングチェアと並べられた機械。上には大事に貯められた血液。ここは壁にも明かりがついているため、血液に光が通り鮮血に映る。ある程度進んだところで立ち止まり、ドアをノックするのと同じ感覚で踵を二度床で叩く。

誰か斬れたかな?
 そこの椅子に座っていた上司、新藤は360度回転する椅子を回してこちらを向き、初っ端から物騒な質問を投げかける。
はい。

この前のミレイズ少佐…もとい中尉から自分の話を聞いていた者のようです。

わざとらしく少し考える動作をしながら新藤が答える。
ふむ、知り合いか…ウォンダーザー中尉かな。
…もともと知ってるでしょう。
 わざわざ自分に聞かずとも、と含みつつ戯言に呆れた。

 すると新藤は組んだ下の足のつま先で床を蹴りくるりとそっぽを向く。

まさかね。

そんなつきっきりで監視してないよ。

信用しにくい言い方をする。表情は見えなくともいやに笑んでいるのは想像できた。
…そうですか。
さて佐竹くん。
 再びこちらへ向く。まるで威厳でも示すかのように、淡い光でも強くメガネが反射する。一瞬目を逸らした。
そろそろこの場も手放す頃だ。

……何が…?

確実に連合軍は置き土産に調査機を仕込んでいく。
しかしここは地下…
甘く見ちゃいけないさ。
 やれやれと首を振りながら言葉を遮る。
常にレーダー飛ばして監視するのさ。

監視と言っても、実際に見ているわけじゃないけれど。

……やってること同じですね。
失礼な。
 しかしその調査機をどうするというのか…。
解除するんですか?
いいや。
利用する。
 目を見開く。監視されているというのにどう利用すると言うのか。監視し慣れていると対処法も必然的にわかるのだろうかと密かに考えた。
こちらから誘うんだ。
誘う……?
もちろん君が落ち着いてからだ。
 そして新藤は自分自身の顔を「これね」と指差した。自分の質問の答えにはなっていないが、今細かく話す必要はないということだと思い、それ以上は問わなかった。しかし新藤は自ら喋りだした。

ちょっと地下室へのフタを開くだけさ。センサーに伝われば向こうは動く。

おそらく精鋭で来る。精鋭は5人組だ。君は4人殺してくれればいい。残りの1人は僕が直接相手をする。
……なるほど。

でも、なぜ1人残すんですか?

 新藤は気味の悪い笑みを浮かべた。思わず佐竹は顔をしかめる。
僕が楽しみたいから、ってことにしておこうかな。
 不愉快な隠し方をする。言うなら言ってくれと思いながら佐竹はため息をついた。実際効率的に考えれば、殺せるならば殺せるうちに一気にやってしまったほうがいい。妙に残して予想外の行動をされてしまっては、作戦が崩壊してしまう可能性があるためだ。しかしなかなかに新藤の予想は当たる。まるで全部わかりきっているように。だから反発する理由も従わない理由もない。難は性格だ。
ちなみに不用意に外に出ると自爆するかもしれないから気をつけないとね。
 どんな脅しだと思いつつ素直に従う。要するにレーダーに引っかかるということだろう。しかし普通に国館内に出たところでもうただの廃墟もどきと化しているだろう。窓は割られているしマシンガンも過度に撃ちこまれたからな。だが結局地下は無事。しかも新藤は不思議な工作をするので、まだ場所もバレてないときた。

 そして佐竹はさらに奥へ歩を進めた。理解したと示すように新藤へ手を振る。それを受け取ったのか新藤は再び機械に向き直った。体は機械のほうを向いているものの、視線はずっと、上に厳重に保管された血液だった。

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登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

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