非常に脈も呼吸も安定しているわ。
おそらくただたいへん衝撃的なことにショックを受けたか――…。
回収した兵によると、自殺しようとしていたらしいけれど……。
意識が鮮明になってくる。
ゆっくりと瞼を開く。目が眩んだが、少しずつピントを合わせていく。
真っ白な部屋の中、らしかった。一定のリズムで音が鳴っている。
右には話している女性、左には男性がいた。その男性と目が合うと、彼は大きく目を見開いた。
腕をケガしているらしい男性は、興奮気味に自分へ叫ぶ。
しかし、隊長とは…?
状況が、飲み込めない。
どう言おうか迷っていると、彼女はさらに表情を曇らせた。
さすがにそれは理解できているので、声を出そうとする。
しかし全く発声をしていなかったせいか、少し声を出そうとするとむせてしまった。
一通りむせると起き上がり、声を出し直す。
聞こえる声に違和感を感じた。
女性は顎に手を当てる。おそらく何か考えているのだろう。
男性は相変わらず自分を隊長呼ばわりしながら、不安そうな表情をしていた。不安なのはこちらも同じだ。
そして先ほど聞かれた自分の名前について、記憶を掘り起こす。
おもい――、思い出しました。
ラギー…です。ラギー・ミレイズ。
会ったことがあるという覚えもない。もちろん聞いた覚えもない。
相手は自分を知っているというのに、自分は相手について全く覚えがない。なんだか申し訳ない気がしたので、頷くように下を向いた。
そして少し思ったことを聞いてみる。
男性はなんともいえないような表情をしたが、女性は顔色を変えずにはっきりと答えた。
しかし今までの話からするととてもそうではないようには考えられない。
女性はぱっと明るい表情になった。少し驚く。
軍としてのチェックよ。ごめんなさいね。
初めましてミレイズ少佐。救護長のメデゼンよ。
…………………そう聞いているけれど。
こちらで再度検査すれば変化するかもね。
そこでずっと聞こえている機械音とは別に、ピピピ、と音が鳴る。
「あ、」と言って女性は立ち上がる。
女性は歩き出そうとしたところを立ち止まった。
自分は腕を怪我している男性を指す。
一瞬目が合ったが、気まずそうに逸らされてしまった。
メデゼン、さんが代わりに紹介する。
辛うじて目を合わせてくれたがあまり乗り気ではないようだったので、手は伸ばさなかった。
ずっと隊長の頃のラギーを投影していたって、失望するだけよ。
記憶を失っているんだから。
まっすぐにザースを見つめる。圧に負けて目を逸らしたくもなったが、負けな気がしてしなかった。
あの時の感情もかえってくる。
…自殺しようとした気持ちが。