全てを落とした日

文字数 3,033文字

ッ…
敵側からの銃撃に左肩を貫かれる。

 視界も良くなくうまく敵を捉えられないので、なかなか一段落つくことができない。無闇に撃てば多少はあたるだろう。だが数は向こうの方が圧倒的に多い。

 こちらは林から撃っているが、少し移動するにもリスクがある。

被弾…
 通信で隊長へ報告を入れる。

 左肩だ。動かそうと思えばまだ動く、撃とうと思えば撃てるが、痛みと血のぬめりでうまいように動かすことができない。

〈伏せろ。〉
了か……
 いつの間にか自分が動いてしまっていたのか、敵が移動していたのか、自分の座っている地面の色が変色していく。遅れて脳から体の部分が足りなくなっていると伝達がきた。あまりに突然のことすぎて、目を見開くことしかできない。

 体はなにも感じなかった。銃弾で無数に貫かれているはずなのに痛みも感じない。ただその長い時間、いや、数秒だったのかもしれない、自分は自分に穴が空いていく様子をじっと見ていた。

 気付けば月が見えた。

ぶくっ…


 

センギス!?
 急いで通信の発信場所を確認し向かう。道中で数人撃ち殺した。相手が一撃で仕留めてこないのが幸いだ。

 そしてセンギス大尉の姿をみとめた。彼は無残にも赤色に染められていた。

 自分の位置がバレたのか、銃弾がわきを掠める音がした。即座に反応し場所を推測して撃ち込む。うめき声が聞こえたのでおそらくヒットした。

 屈んで敵の位置を確認していく。念の為ゴーグルを作動させ、敵を1人1人マークしていく。相手らは廃墟から撃ってきているわけだが、こちらの人数が少ないということを考慮しているのか、あまり体を隠しながら撃っていないらしい。無防備だ。

 低姿勢で、なおかつあまり撃たれる範囲を広げないように身を縮めながら一撃で仕留めていく。

 2,3人丁寧に撃ったところから、警戒して頭を下げてしまう前に素早く撃ち殺していく。そこまで人数はいなかったらしい。せいぜい10~20。

 敵を撃ちきったのを確認して、センギスの方へ駆け寄る。

 完全に息はしていない。

〈…すみません隊長、援護、願いたい…です…〉

 別の仲間からの通信がきた。

 目をつむり、今の感情を遮断する。
すぐ行こう。
 途中とちゅう、敵を撃っていく。少しすると遠くに仲間を見つける。
リン、確認した。
ありがとう…ございます…。
 その返事は非常に深く浅い呼吸だった。

 様子をよく見ると、左脚にいくつも銃弾を受けたようだった。木からちらりと見えたところを集中的に狙われたか、移動中か。既にかなり長いこと放置しているのか、左足全体が赤く染まっている。

…意識を保てよ。
……隊長、怒ってます?
 自分自身は普通に言ったつもりだったが、相手には怒っているように受け取られたらしい。
…集中してくれ。
…すいません。
 先ほどと同じような手順で地道に削っていく。2人で撃っているため、さっきよりも順調に殺しきれた。

 敵がいなくなったことを確認し、屈んでいた状況から立ち上がる。

 不意にリンから話しかけられる。

…俺。
 一呼吸置いて、再度話しだした。
隊長がミレイズ少佐だったからこそ、生きてこれたんだと思うんです。
 そう言ってリンが自分に向けた顔は、なにに変えようもない笑顔だった。こんな状況でどうしてそんな表情をしていられるのか。
…それは、基地に戻ってから言うべきだ
無理ですよ。
即答。
な…!
意識がはっきりしてませんし、なによりこの出血量ですよ…?
戦わなくていい。

止血だけしろ。

そこで新しく走ってくる兵士の姿を確認した。ゴーグルで拡大しながら撃っていく。
で……も、
急げ。時間がない。
リンラルクは観念したように首を振る。
無茶言いますよ…
そう言いながらも隊長に言われたとおりに太もも付近をきつく即興の紐で縛った。

 少しすると銃撃も止み、ミレイズは左手を軽く上げてOKサインを出す。

わかりました。
 足に気を遣いながら、ゆっくりと木を支えに立ち上がる。

 立ち上がったのを確認すると、ミレイズは進みだした。後ろをついて行く。

…残り1人の、ザースの援護に行く。
残り1人…すか…
何も言わず進んでいく。

 しばらくすると遠くで交戦している音が聞こえてくる。

ザース。
隊長…
こちらをちらりと見て、すぐに銃撃へ戻る。

 ザースは左腕を2箇所ほど、深めに切っているようだった。かなり肘から垂れている。

…わ、腕、大丈夫ですか…
少し離れた木の後ろに隠れながら問う。
しくじっただけだ…
はやく

終わらせる。

………はい。
 今までで一番多い敵数だったらしく、ザースがいても時間が掛かる。撃っても撃っても次から次へと増えていく。
…………隊長…おれ……
最大限まで脱力して木にもたれかかったリンラルドは言う。
なに……も、言うな。
……すみません…。


でも…ありがとうございました…。

そう言うとリンラルドはよろめきながらも立ち上がり、敵側のほうを向く。
まっ……!
賭けて、駆ける。
〈俺が行くので、引き付けている間に全滅させてください!〉
 そう言ってリンラルドは敵の方へ、少しバランスを崩しながらも血を撒き散らして突っ込んでいく。
……っ…、このやろ…
 撃った。無防備に走る敵兵を撃とうと体を無防備に晒す敵兵を撃った。相手の銃の反動のぶんしかブレないため、ほとんど命中した。
…………
ザース!
はっと我に返る。
……あいつが選んだんだ。無駄にするな。
 しばらく考えた後、頷き、銃を構えなおす。その頃にはもうリンラルドがどこにいるのかわからなかった。だがそれでもまだ敵兵は無防備な者が多い。端から丁寧に撃っていく。

 突然、左腕に痛みが走った。思わず体のバランスを崩してしまう。

 その瞬間壁として使っていた木からはみ出してしまったのか、一斉に銃口が向けられた錯覚に陥る。

 そして、銃声。スローモーションでも見ているように銃弾が飛んでくる。しかし今バランスを崩している状態ではどうにも避けられなかった。ほぼ腹部。

 土に背中を打ちつける。それ以上は暗闇に紛れて見失ったのか傷が増えることがなかった。しかし打ちつけた反動が体中を痛める。

 その間に銃声は止んだ。

 ザースの様子に気付いたミレイズが駆け寄る。

ザース!
 意識を失ったのか、ザースは返事をしなかった。

 ミレイズは絶望して放心状態になる。

このタイミングで通信がきた。

〈ミレイズ少佐。生体反応の消滅をこちらで確認した。細かい状況は?〉
返事が返ってこない。
〈ミレイズ少佐?…おい!〉
少し間があく。
〈……生体反応は消えてないな…。今回収を送る。〉
 それでもミレイズは黙ったままだった。

 少しぴくりとすると、おもむろにヘルメットを外す。

……俺が―――…

もっとしっかり指揮をしていれば。

もっと強ければ……。

仲間は………



彼女は………。

ゴーグルも外し、マスクもとっていく。そして血の中に置いた。

 ミレイズはそっと自分の銃を手に取る。

……すまない…。

俺も、今すぐ、そこにーーー………

銃の銃口を自分の額へ向ける。額につけて固定した。そして指で引き金の位置を確認する。
〈…ミレイズ少佐?〉
異変に気付いた兵士が駆け寄る。

 その瞬間ミレイズは引き金を引く。





――――撃った銃弾はミレイズの頭の真横を通っていった。

とっさに兵が突っ込み銃ごと突き飛ばした。

 ミレイズは突然のことに驚く。いや、どちらも驚いている。

 兵はミレイズの肩を勢いよく掴み叫ぶ。

ミレイズ少佐!

自分が何をしようとしたか!わかっているのか!!

ミレイズは目をつむった。
おい!!!
そしてぐったりと、力を抜かした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ラギー・ミレイズ(中尉/少佐)

 自由な行動をとり、謙虚な性格。

精鋭部隊の隊長であったが、とある作戦で部下を失ってしまったショックなどで自殺をしようとした。しかし直前に回収に来た兵士によって阻止された。ザースは当時の部下の1人。

 彼女がいた、というがまだ誰かわからない。

ザース・ウォンダーザー(中尉)

 頭が良く正義感が強い。基本冷静な判断をするが、無茶をすることもしばしば。

銃の扱いや常識人さに定評がある。

もともとはラギーらと精鋭を組んでいたが、ラギーが記憶を失ってからは同僚として一緒に行動している。

メデゼン・イラスティア(救護班長)

 どの兵士とも仲がよく、親しい。

熟練の観察眼と馴れた手さばきで多くの兵士を救ってきた。面倒見もいいので、兵士たちの良い相談相手にもなっている。優しいが厳しい面もある。

エナ(動力源)

 日本につかわれていたところを連合軍に保護された。

大人しい性格だが、自分の意思は意外にはっきりしている。

日本にくる以前の記憶がおぼろげらしい。

日本軍では海軍の艦の動力源(昔でいう石油などの代わり)として艦に乗せられていた。〈機器に繋ぐことによって〉

ジュンメス・カーター(少尉)

 少し楽観的な思考をもつ。あまり頭脳派でない。

第六感が鋭く、危機的な状況になると消極的になる。

ヨセフ・ガイゼリン(少尉)

 名家ガイゼリンの長男。本人はガイゼリン家を嫌っている。ベーミンにはそれについて性懲りなく何か言われるので毛嫌いしている。

頭が良く、冷静に物事の判断を行う。周りを冷たく突き放すこともあるが、根本は仲間思い。

ベーミン・ウィリアムズ(大尉)

 常に陽気でよく他人をからかう。ガイゼリン家について少し知っていることがあるらしく、ヨセフによく絡む。

平等な立場を好むため、階位を表に出されるのを苦手とする。

デンジャラスじゃない、とMAの作戦をサボることがよくある。元少佐だったがその休みすぎの影響で落とされた。

佐竹(日本軍兵士)

 常に冷静な判断を下し、上司に忠実。

刀と風を使いこなしている。刀術については上司に習った。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色